ああ玉杯に花うけて 第七部 2

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プレイ回数386難易度(4.5) 5237打 長文
大正時代の少年向け小説!
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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 りっつ 5013 B+ 5.1 98.2% 1003.1 5122 93 76 2024/04/14
2 Par100 3816 D++ 3.8 97.9% 1314.4 5122 106 76 2024/04/17

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問題文

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(「よめません」とかれはいった。「よめるじだけよめ」「ゆ・・・・・・)

「読めません」とかれはいった。「読める字だけ読め」「湯……

(いわく・・・・・・ひ・・・・・・しん・・・・・・ひ・・・・・・ひ・・・・・・しんまたひしん」せんぞうは)

曰……日……新……日……日……新又日新」千三は

(よめるじだけをよんだ、あせがひたいににじんでむねがなみのごとくおどる。)

読める字だけを読んだ、汗がひたいににじんで胸が波のごとくおどる。

(「よし、よくよんだ」とせんせいはびしょうして、「そのいみはなんだ」)

「よし、よく読んだ」と先生は微笑して、「その意味はなんだ」

(「わかりません」「かんがえてみい」せんぞうはかんがえこんだ。「これはまいにちまいにち)

「わかりません」「考えてみい」千三は考えこんだ。「これは毎日毎日

(おゆへはいってあたらしくなれというのでしょう」「えらい!」)

お湯へはいって新しくなれというのでしょう」「えらい!」

(せんせいはおもわずさけんだ、そうしてせんぞうのかおをじっとみつめながらよみくだした。)

先生は思わず叫んだ、そうして千三の顔をじっと見つめながら読みくだした。

(「とうのばんのめいにいわく、まことにひにあらたにせばひびにあらたにし)

「湯の盤の銘に曰く、まことに日に新たにせば日々に新たにし

(またひにあらたにせん・・・・・・こうよむのだ」「はあ」「ゆはおゆでない、おうさまのなだ)

又日に新たにせん……こう読むのだ」「はあ」「湯はお湯でない、王様の名だ

(ばんはたらいだ、たらいにかくげんをほりつけたのだ、にんげんはまいにちかおをあらいくちを)

盤はたらいだ、たらいに格言をほりつけたのだ、人間は毎日顔を洗い口を

(すすいでわがみをあらたにするごとく、そのこころをもまいにちまいにちあらいきよめて)

すすいでわが身を新たにするごとく、その心をも毎日毎日洗いきよめて

(あらたなきもちにならなければならん、とこういうのだ、だがきみのかいしゃくは)

新たな気持ちにならなければならん、とこういうのだ、だがきみの解釈は

(じくにおいてまちがいがあるがだいたいのいぎにおいてまちがいはない、しょをよむに)

字句において間違いがあるが大体の意義において間違いはない、書を読むに

(もじをよむものがある、そんなやつはちょうめんづけやしじんなどになるがいい。)

文字を読むものがある、そんなやつは帳面づけや詩人などになるがいい。

(またもじにこうでいせずにそのたいいをにぎるひとがある、それがほんとうのかつがんをもって)

また文字に拘泥せずにその大意をにぎる人がある、それが本当の活眼をもって

(かつしょをよむものだ、よいか、もじをしらないのはけっしてはじでない、)

活書を読むものだ、よいか、文字を知らないのは決して恥でない、

(いみをしらないのがちじょくだぞ」こういってせんせいはつぎのしょうねんにむかった。)

意味を知らないのが恥辱だぞ」こういって先生はつぎの少年に向かった。

(「にほんのれきしちゅうにわるいじんぶつはたれか」いろいろなこえがいちどにでた。)

「日本の歴史中に悪い人物はたれか」いろいろな声が一度にでた。

(「ゆげのどうきょうです」「そがのいるかです」「あしかがたかうじです」「みなもとのよりともです」)

「弓削道鏡です」「蘇我入鹿です」「足利尊氏です」「源頼朝です」

(「よりともはどうしてわるいか」とせんせいがくちをいれた。「ぶりょくをもってこうしつのたいけんを)

「頼朝はどうして悪いか」と先生が口をいれた。「武力をもって皇室の大権を

など

(おかしました」「うん、それから」たけだしんげんというものがある。)

おかしました」「うん、それから」武田信玄というものがある。

(「しんげんはどうして」「おやをゆうへいしてくにをうばいました」「うん」「とくがわいえやす!」)

「信玄はどうして」「親を幽閉して国をうばいました」「うん」「徳川家康!」

(「どうして?」「こうしつにぶれいをはたらきました」「うん、それで、きみらはなにを)

「どうして?」「皇室に無礼を働きました」「うん、それで、きみらはなにを

(もってわるいじんぶつ、よいじんぶつをくべつするか」「きみにはふちゅう、おやにふこうなるものは)

もって悪い人物、よい人物を区別するか」「君には不忠、親に不孝なるものは

(ほかにどんなよいことをしてもわるいじんぶつです、ちゅうこうのしはほかにけってんがあっても)

他にどんなよいことをしても悪い人物です、忠孝の士は他に欠点があっても

(よいじんぶつです」「よしっ、それでよい」せんせいは、いかにもかいぜんといった、)

よい人物です」「よしッ、それでよい」先生は、いかにも快然といった、

(せんせいのおしえるところはつねにこういうふうなのであった、せんせいはどんなじけんに)

先生の教えるところはつねにこういう風なのであった、先生はどんな事件に

(たいしてもかならずはっきりしたはんだんをさせるのであった、たとえそれがまちがい)

対してもかならずはっきりした判断をさせるのであった、たとえそれが間違い

(であっても、それをおくめんなくこくはくすればせんせいがよろこぶ。せんぞうはそのひからまいよ)

であっても、それを臆面なく告白すれば先生が喜ぶ。千三はその日から毎夜

(せんせいのもとへかようた、せんせいはまたちりとれきしのかんけいをもっともせいみつに)

先生のもとへ通うた、先生はまた地理と歴史の関係をもっとも精密に

(おしえてくれた、それはふつうのちゅうがっこうではきわめてゆるがせにしていることであった)

教えてくれた、それは普通の中学校では極めてゆるがせにしていることであった

(ちゅうがっこうではちりのせんせいとれきしのせんせいとべつなひとであるのがおおい、そのために)

中学校では地理の先生と歴史の先生とべつな人であるのが多い、そのために

(みっせつなふたつのかんけいがぶんりされてしまうが、もくもくせんせいはれきしのしんこうとともに)

密接な二つの関係が分離されてしまうが、黙々先生は歴史の進行とともに

(ちりをてんかいさせた、じんむいらいやまとははっしょうのちになっている、そこでせんせいは)

地理を展開させた、神武以来大和は発祥の地になっている、そこで先生は

(やまとのちりをおしえる、どうじにやまとにかつやくしたじんぶつのでんきやいつわなどをおしえる。)

大和の地理を教える、同時に大和に活躍した人物の伝記や逸話等を教える。

(がくせいのあたまにはそのひととそのちとそのじだいがふかくきざまれる。せんせいはだいすうやきかを)

学生の頭にはその人とその地とその時代が深くきざまれる。先生は代数や幾何を

(おしえるにもすべてそのほうほうで、けっしてまわりくどいじゅつごをもちいたり、しいてあたまを)

教えるにもすべてその方法で、決してまわりくどい術語を用いたり、強いて頭を

(こんわくさせるようなもんだいをていきょうしたりしなかった。そのえいごのごときもいちいち)

混惑させるような問題を提供したりしなかった。その英語のごときもいちいち

(かんぶんのぶんぽうとたいしょうした、そのためにせいとはえいかんのぶんぽうをいちどにしることができた)

漢文の文法と対照した、そのために生徒は英漢の文法を一度に知ることができた

(せんせいはいかなるばあいにもきょぎとおくびょうをきらった。おくびょうはきょぎのもとである、)

先生はいかなる場合にも虚偽と臆病をきらった。臆病は虚偽の基である、

(かれはこうぎをなしつつあるあいだにとつぜんこういうときがある。)

かれは講義をなしつつあるあいだに突然こういうときがある。

(「ねむいひとがあるか」「あります」とせんぞうがてをあげた。)

「眠い人があるか」「あります」と千三が手をあげた。

(「にわにでてみずをあびてこい」せんせいはせんぞうのしょうじきがきにいった。)

「庭に出て水をあびてこい」先生は千三の正直が気にいった。

(ふゆがきた、しょうがつもまぢかになる、せめてははにあたらしくわたのはいったものいちまいでも)

冬がきた、正月も間近になる、せめて母に新しく綿のはいったもの一枚でも

(きせてやりたい、こういうかんがえからせんぞうはいっしょうけんめいにはたらいた、しかもつうがくは)

着せてやりたい、こういう考えから千三は一生懸命に働いた、しかも通学は

(ひとばんもやすまなかった、かれはせんせいのいえをでるとすぐぐらぐらねむりながら)

一晩も休まなかった、かれは先生の家をでるとすぐぐらぐら眠りながら

(いえへかえるよるがおおかった。と、さいやくはつぎからつぎへとおこる、あるよるかれが)

家へ帰る夜が多かった。と、災厄はつぎからつぎへと起こる、ある夜彼が

(いえへかえるとははがあさいとつなぎをやっていた、いくらにもならないのだが、)

家へ帰ると母が麻糸つなぎをやっていた、いくらにもならないのだが、

(かのじょはいくらかでもはたらかねばしょうがつをむかえることができないのであった。)

彼女はいくらかでも働かねば正月を迎えることができないのであった。

(「ただいま」せんぞうはいきおいよくこえをかけた。「おかえり、さむかったろう」とははは)

「ただいま」千三は勢いよく声をかけた。「お帰り、寒かったろう」と母は

(ひばちのひをかきたてた、はいのなかにはわずかにほたるのようなひかりがみえた、)

火鉢の火をかきたてた、灰の中にはわずかにほたるのような光が見えた、

(そとはひゅうひゅうかぜがうなっている。「さむいなあ」とせんぞうはおもわずいった。)

外はひゅうひゅう風がうなっている。「寒いなあ」と千三は思わずいった。

(「おまちよ。いまけしずみをもってくるから」はははあさいとをかたよせてたとうとした)

「お待ちよ。いま消し炭を持ってくるから」母は麻糸をかたよせてたとうとした

(「おや」はははたてなかった。「おや」はははふたたびいってたとうとしたが)

「おや」母は立てなかった。「おや」母はふたたびいって立とうとしたが

(かおがさっとあおくなってうしろにたおれた。「おかあさん」せんぞうはだきおこそうとした。)

顔がさっと青くなって後ろに倒れた。「お母さん」千三はだき起こそうとした。

(ははのめはうえのほうへつった。「おかあさん」こえにおどろいておじふうふがおきてきた。)

母の目は上の方へつった。「お母さん」声におどろいて伯父夫婦が起きてきた。

(せんぞうはさっそくてづかいしのもとへかけつけた。がんらいかれはてづかのもとへいくのを)

千三は早速手塚医師のもとへかけつけた。元来かれは手塚のもとへいくのを

(このまなかった、しかしかきゅうのばあい、たへはしることもできなかった。)

好まなかった、しかし火急の場合、他へ走ることもできなかった。

(こなゆきまじりのしわすのかぜがでんせんにうなっていた、まちはもうねしずまって、)

粉雪まじりの師走の風が電線にうなっていた、町はもう寝しずまって、

(ふろやからながれてくるげすいのゆげがどぶいたのすきまから、もやもやといてついた)

風呂屋から流れてくる下水の湯気がどぶ板のすきまから、もやもやといてついた

(じめんをはっていた。「こんばんは・・・・・・こんばんは・・・・・・」せんぞうはてづかのもんをたたいた。)

地面をはっていた。「今晩は……今晩は……」千三は手塚の門をたたいた。

(おとがない。「こんばんは!」かれはこえをかぎりによびちからをかぎりにたたいた。)

音がない。「今晩は!」かれは声をかぎりに呼び力をかぎりにたたいた。

(おくにはまだひとのこえがする。「どうしたんだろう」)

奥にはまだ人の声がする。「どうしたんだろう」

(せんぞうはてづかなるいしゃがかねもちにはほうかんのごとくちやほやするが、びんぼうにんには)

千三は手塚なる医者が金持ちには幇間のごとくちやほやするが、貧乏人には

(きわめてれいたんだというひとのうわさをおもいだした、それとどうじにこのしんやに)

きわめて冷淡だという人のうわさを思いだした、それと同時にこの深夜に

(らいしんをこうと、ずいぶんすくなからぬおれいをださねばなるまいが、それもできずに)

来診を請うと、ずいぶん少なからぬお礼をださねばなるまいが、それもできずに

(むやみともんをたたくのはいかにもあつかましいことだとかんがえたりした。)

むやみと門をたたくのはいかにも厚かましいことだと考えたりした。

(やっとのことでしょせいのこえがした。「どなた?」「とうふやのあおきですが、ははが)

やっとのことで書生の声がした。「どなた?」「豆腐屋の青木ですが、母が

(きゅうびょうですからどうかちょっとおいでをねがいたいんです」「はああー」と)

急病ですからどうかちょっとおいでを願いたいんです」「はああ――」と

(みょうにきのぬけたへんじがきこえた。「とうふやの・・・・・・あおき?」「はい」)

みょうに気のぬけた返事が聞こえた。「豆腐屋の……青木?」「はい」

(「せんせいはかぜけでおやすみですから・・・・・・どうですかうかがってみましょう」)

「先生は風邪気でおやすみですから……どうですかうかがってみましょう」

(「どうぞおねがいします、きゅうびょうですから」せんぞうはくらいもんぜんでしずかにみみを)

「どうぞお願いします、急病ですから」千三は暗い門前でしずかに耳を

(そばだてた、おくでごいしをくずすおとがちゃらちゃらときこえる。)

そばだてた、奥で碁石をくずす音がちゃらちゃらと聞こえる。

(「なんだ、ごをうってるのにおやすみだなんて」こうせんぞうはおもった。)

「なんだ、碁を打ってるのにおやすみだなんて」こう千三は思った。

(とふたたびちいさなまどがあいた。「ただいまうかがいます」)

とふたたび小さな窓が開いた。「ただいま伺います」

(「ありがとうございます」とせんぞうはおもわずおおきなこえでいった。)

「ありがとうございます」と千三は思わず大きな声でいった。

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