『酒倉』小川未明1【完】

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戦争の最中、疑心暗鬼になり、人を信じることができなくなった話
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

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問題文

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(こうとおつのふたつのくには、となりあっているところから、よくせんそうをいたしました。)

甲と乙の二つの国は、隣り合っているところから、よく戦争をいたしました。

(あるときのせんそうで、こうのくにはおつのくににやぶられて、)

あるときの戦争で、甲の国は乙の国に破られて、

(おつのぐんぜいは、どしどしこっきょうをこえて、こうのくににはいってきました。)

乙の軍勢は、どしどし国境を越えて、甲の国に入ってきました。

(こうのたいしょうは、とてもせいとうなちからではおつのぐんぜいをふせぐことはできない、)

甲の大将は、とても正当な力では乙の軍勢を防ぐことはできない、

(したがってこうさんしなければならないとおもいましたから、)

したがって降参しなければならないと思いましたから、

(これはなにかさくりゃくをめぐらして、おつのへいたいや、たいしょうどもを)

これはなにか策略を巡らして、乙の兵隊や、大将どもを

(ころしてしまわなければならないとかんがえたのであります。)

殺してしまわなければならないと考えたのであります。

(そこで、おつのぐんぜいが、こうのとあるちいさなまちをせんりょうしたときに、)

そこで、乙の軍勢が、甲のとある小さな町を占領したときに、

(こうのたいしょうは、そのまちのたべものをすべてやきはらって、)

甲の大将は、その町の食べ物をすべて焼き払って、

(さけとみずだけをのこしておきました。)

酒と水だけを残しておきました。

(そして、そのさけとみずには、のこらずどくをいれておきました。)

そして、その酒と水には、残らず毒を入れておきました。

(てきはきっとはらをすかして、のどもかわいているにちがいない。)

敵はきっと腹を空かして、のども渇いているにちがいない。

(そのときたべものがなかったら、きっとさけをのみ、)

そのとき食べ物がなかったら、きっと酒を飲み、

(みずをのむにちがいないとおもったのです。)

水を飲むにちがいないと思ったのです。

(こうのたいしょうは、そうしてこのまちからにげてゆきました。)

甲の大将は、そうしてこの町から逃げてゆきました。

(そのご、おつのぐんぜいはすごいいきおいで、このまちをせんりょうしましたが、)

そのご、乙の軍勢はすごい勢いで、この町を占領しましたが、

(たべものがありません。みんなははらがすいて、のどもかわいておりますから、)

食べ物がありません。みんなは腹が空いて、のども渇いておりますから、

(たいしょうとへいしは、いずれもさけをのみ、みずをがぶがぶのんだのであります。)

大将と兵士は、いずれも酒を飲み、水をガブガブ飲んだのであります。

(すると、きゅうにはらがいたみだしてきて、みんなはくるしみはじめました。)

すると、急に腹が痛みだしてきて、みんなは苦しみ始めました。

(そうして、まもなくごろごろとたおれて、しんでしまいました。)

そうして、まもなくゴロゴロと倒れて、死んでしまいました。

など

(とおくからこのようすをみていたこうのくにのたいしょうは、このときだとおもいました。)

遠くからこの様子を見ていた甲の国の大将は、このときだと思いました。

(まけたへいしをゆうきづけてぎゃくしゅうし、さんざんによわったおつのくにのぐんぜいをやぶりました。)

負けた兵士を勇気づけて逆襲し、さんざんに弱った乙の国の軍勢を破りました。

(そうていしていなかったことに、ほこさきをくじいたおつのぐんぜいは、)

想定していなかったことに、ほこ先をくじいた乙の軍勢は、

(まけてたいきゃくいたしますと、こんどはこうのぐんぜいがきゅうにいきおいをとりもどして、)

負けて退却いたしますと、今度は甲の軍勢が急に勢いを取り戻して、

(にげるおつのぐんぜいをおってゆきました。)

逃げる乙の軍勢を追ってゆきました。

(いつしかおつのぐんぜいは、こっきょうをこえてじこくへにげかえり、)

いつしか乙の軍勢は、国境を越えて自国へ逃げ帰り、

(とうとうこのせんそうは、こうのしょうりにおわりました。)

とうとうこの戦争は、甲の勝利に終わりました。

(そうして、こうのくにのたいしょうがきりゃくをもちいたからせんそうにかったというので、)

そうして、甲の国の大将が奇略を用いたから戦争に勝ったというので、

(たいそうそのたいしょうはひとびとにほめられました。)

大層その大将は人々にほめられました。

(けれど、へいわはただちにやぶれて、またにこくはせんそうをはじめました。)

けれど、平和はただちに破れて、また二国は戦争を始めました。

(こんどはこうのくにがかちつづけて、)

今度は甲の国が勝ち続けて、

(そのぐんぜいはこっきょうをこえて、おつのくにへしんにゅうしたのであります。)

その軍勢は国境を越えて、乙の国へ侵入したのであります。

(あるひのこと、こうのぐんぜいはおつのくにのとあるむらをせんりょういたしました。)

ある日のこと、甲の軍勢は乙の国のとある村を占領いたしました。

(そのむらのひとびとは、すでにどこかへにげてしまって、)

その村の人々は、すでにどこかへ逃げてしまって、

(むらにはまったくひとかげがみえなかったのです。)

村にはまったく人影が見えなかったのです。

(たまたまいえをうしなったいぬがそのへんをうろついているすがたをみるばかりで、)

たまたま家を失った犬がその辺をうろついている姿を見るばかりで、

(ぶたやにわとり、うま、うしもみなかったのであります。)

豚やニワトリ、馬、牛も見なかったのであります。

(なぜなら、むらびとがにげるときにてきにわたすのをおしんでつれていったり、)

なぜなら、村人が逃げるときに敵に渡すのを惜しんで連れていったり、

(またころしてやきすててしまったりしたからでした。)

また殺して焼き捨ててしまったりしたからでした。

(こうのくにのたいしょうは、このさびしいひのきえたようなむらのなかを)

甲の国の大将は、このさびしい火の消えたような村の中を

(みまわりました。どこかにたべものがないかとおもったのであります。)

見まわりました。どこかに食べ物がないかと思ったのであります。

(けれど、どこにもしょくりょうひんはなかったのです。)

けれど、どこにも食糧品はなかったのです。

(たいしょうはほほえみました。そうしてこころのなかでいったのです。)

大将は微笑みました。そうして心の中で言ったのです。

(「ははあ、これは、いつかおれがてきをこまらしてやったさくりゃくを)

「ははあ、これは、いつかおれが敵を困らしてやった策略を

(そのまま、おれにくらわせようとしているのだな。ばかなやつらめ」と。)

そのまま、おれに食らわせようとしているのだな。ばかなやつらめ」と。

(すると、そうげんのなかに、ただひとりのしょうねんがすわっておりました。)

すると、草原の中に、ただ一人の少年が座っておりました。

(たいようのひかりは、そのしょうねんのあたまをあつそうにてらしています。)

太陽の光は、その少年の頭を熱そうに照らしています。

(「おまえは、そこでなにをしているのだ」と、たいしょうはしょうねんにこえをかけました。)

「おまえは、そこでなにをしているのだ」と、大将は少年に声をかけました。

(「わたしは、かたあしにしょうがいがあるのです。)

「私は、片足に障害があるのです。

(みんなといっしょににげることができませんから、)

みんなといっしょに逃げることができませんから、

(しかたなくこうしています」とこたえました。)

しかたなくこうしています」と答えました。

(「おまえは、どこのいどやさかぐらにどくがはいっているか、しっているだろう。)

「おまえは、どこの井戸や酒倉に毒が入っているか、知っているだろう。

(それをおしえろ。おしえないとしょうちしないぞ」と、たいしょうはいいました。)

それを教えろ。教えないと承知しないぞ」と、大将は言いました。

(しょうねんは、このむらのみっつのさかぐらにはどくがはいっているが、)

少年は、この村の三つの酒倉には毒が入っているが、

(ほかにはどくがはいっていないとつげました。)

ほかには毒が入っていないと告げました。

(これをきいたたいしょうはかんがえていましたが、やがてみんなに)

これを聞いた大将は考えていましたが、やがてみんなに

(「みんなはみっつのさかぐらのさけをのめ、)

「みんなは三つの酒倉の酒を飲め、

(それいがいには、どくがはいっているぞ」とさけびました。)

それ以外には、毒が入っているぞ」と叫びました。

(へいしたちはあらそって、そのみっつのさかぐらへとびこみました。)

兵士たちは争って、その三つの酒倉へ飛び込みました。

(たいしょうもいって、さけをのみました。)

大将も行って、酒を飲みました。

(そして、ひとりのこらずしんでしまいました。)

そして、一人残らず死んでしまいました。

(しょうねんは、うそをついていなかったのであります。)

少年は、ウソをついていなかったのであります。

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