狭心症

(このめがふたつだけでよかったなぁ)

この眼が二つだけでよかったなぁ

(せかいのかなしみがすべてみえてしまったらぼくはとうていいきていけはしないから)

世界の悲しみがすべて見えてしまったら　僕は到底生きていけはしないから

(うまいことできたせかいだいやになるほど)

うまいことできた世界だ　いやになるほど

(それなのにひとはなにちまよったかわざわざこのひろいせかいのいたるところに)

それなのに人はなに血迷ったか　わざわざこの広い世界の至る所に

(ごていねいにめつけてあーだこーだとぼくはぼくのかなしみでせいいっぱいなの)

ご丁寧に眼付て　あーだこーだと　僕は僕の悲しみで　精一杯なの

(みちゃいけないならぼくがいけないならはりといとすぐほらもってきてよ)

見ちゃいけないなら　僕がいけないなら　針と糸すぐほら持ってきてよ

(ふさいでしまうからぬってしまうからさいごにまとめてぜんぶみしてよ)

塞いでしまうから　縫ってしまうから　最後にまとめて全部見してよ

(いちがいちであるためにきょうもぼくはねひゃくからきゅうじゅうきゅうもうばっていきてるんだと)

１が１であるために今日も僕はね　１００から　９９も奪って生きてるんだと

(んなのおしえてとたのんだおぼえはないのに)

んなの教えてと頼んだ覚えはないのに

(いいからほらもうだまってていわんのばか)

いいから　ほら　もう黙ってて　イワンのバカ

(せかいからみればいまのあなたはどれだけかくかくしかじかといわれましても)

世界から見れば今のあなたは　どれだけ　かくかくしかじかと言われましても

(したにはしたがいるってよろこびゃいいのぼくはぼくのかなしみもうれいちゃいかんとさ)

下には下がいるって　喜びゃいいの？　僕は僕の悲しみも　憂いちゃいかんとさ

(ないちゃいけないならぼくがいけないならるいせんなどとうにきっといてよ)

泣いちゃいけないなら　僕がいけないなら　涙腺など　とうに切っといてよ

(うまれたときにさへそのおのまえにさついでにくちよこにさいといてよ)

生まれた時にさ　へその緒の前にさ　ついでに口　横に裂いといてよ

(したらつらいときやかなしいときもなにごともないようにわらえるよ)

したら辛い時や　悲しい時も　何事もないように笑えるよ

(そうでもしないととてもじゃないけどぼくはぼくをやってられないんだよ)

そうでもしないと　とてもじゃないけど　僕は僕をやってられないんだよ

(きょうもあちらこちらでいのちはきえる)

今日もあちらこちらで　命は消える

(はずなのにどこをあるけどおちてなどいないなぁ)

はずなのにどこを歩けど　落ちてなどいないなぁ

(きれいずきにもほどがあるよほんとさ)

綺麗好きにも程があるよほんとさ

(なんてすばらしいせかいだってなんでなんだか)

なんて素晴らしい世界だ　ってなんでなんだか

(そりゃいろいろいそがしいとはおもうけどしゅよくものうえでなにぼけっとつったてるのさ)

そりゃ　色々忙しいとは思うけど　主よ雲の上で何をボケっと突っ立ってるのさ

(このおいたをしかるのがつとめなんでしょ)

子のオイタを叱るのが務めなんでしょ

(ゆうきをもってこぶしをだしてすきなようにやっちゃって)

勇気を持って　拳を出して　好きなようにやっちゃって

(みなきゃいけないならぼくがいけないならまぶたのうらにでもはっといてよ)

見なきゃいけないなら　僕がいけないなら　目蓋の裏にでも貼っといてよ

(うまれたときにさへそのおのまえにさそうまでしてさからいたいなら)

生まれた時にさ　へその緒の前にさ　そうまでして逆らいたいなら

(ぼくがうれしいときもきもちいいときもまたたくたびつきおとしてよ)

僕が嬉しい時も　気持ちいい時も　瞬くたび突き落としてよ

(だってじゃないとさわすれてしまうからぼくのめはふたつしかないから)

だってじゃないとさ　忘れてしまうから　僕の眼は二つしかないから

(このみみがふたつだけでよかったなぁせかいのさけびごえがすべてきこえてしまったら)

この耳が二つだけでよかったなぁ　世界の叫び声がすべて　聞こえてしまったら

(ぼくはとうていいきができないからぼくはぼくをしあわせにするきのうで)

僕は到底息ができないから　僕は僕を　幸せにする機能で

(いっぱいいっぱいいっぱいいっぱい)

いっぱい　いっぱい　いっぱい　いっぱい

(いっぱいいっぱいいっぱいいっぱい)

いっぱい　いっぱい　いっぱい　いっぱい

(みちゃいけないならきいちゃいけないならぼくらのしたにもつぎのいのちが)

見ちゃいけないなら　聴いちゃいけないなら　僕らの下にも次の命が

(やどったときにはへそのおのまえにさそのすべてのせかいのいりぐちを)

宿った時には　へその緒の前にさ　そのすべての世界の入り口を

(とじてあげるからさふさいだげるからぼくがきみをまもってあげるから)

閉じてあげるから　塞いだげるから　僕が君を守ってあげるから

(にがしたげるからそのひとみからなみだがこぼれることはないから)

逃がしたげるから　その瞳から　涙が零れることはないから