セロ弾きのゴーシュ(3/9)宮沢賢治

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投稿者投稿者もりつしんいいね1お気に入り登録
プレイ回数2369難易度(4.5) 2422打 長文
・問題文の文字数制限の都合により、一部の平仮名を漢字に直したり、句読点を省いている箇所があります
・読み辛い箇所は、平仮名を漢字に直したり、句読点を追加している箇所があります
・「扉」の読みは、「と」で統一しました

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問題文

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(「なにをひけと。」「とろめらい、ろまちっくしゅーまんさっきょく。」)

「何を弾けと。」「トロメライ、ロマチックシューマン作曲。」

(ねこはくちをふいて、すましていいました。)

猫は口を拭いて、済まして云いました。

(「そうか。とろめらいというのはこういうのか。」)

「そうか。トロメライというのはこういうのか。」

(せろひきはなんとおもったか、まずはんけちをひきさいて)

セロ弾きは何と思ったか、まずはんけちを引き裂いて

(じぶんのみみのあなへぎっしりつめました。それからまるであらしのようないきおいで)

自分の耳の穴へぎっしり詰めました。それからまるで嵐のような勢いで

(「いんどのとらがり」というふをひきはじめました。)

「印度の虎狩」という譜を弾き始めました。

(するとねこはしばらくくびをまげてきいていましたが、いきなりぱちぱちっと)

すると猫はしばらく首を曲げて聞いていましたが、いきなりパチパチッと

(めをしたかとおもうと、ぱっととのほうへとびのきました。)

眼をしたかと思うと、ぱっと扉(と)の方へ飛び退きました。

(そしていきなりどんととへからだをぶっつけましたが、とはあきませんでした。)

そしていきなりどんと扉へ体をぶっつけましたが、扉はあきませんでした。

(ねこは、さあこれはもういっしょういちだいのしっぱいをしたというふうにあわてだして)

猫は、さあこれはもう一生一代の失敗をしたという風に慌て出して

(めやひたいからぱちぱちひばなをだしました。)

眼や額からぱちぱち火花を出しました。

(するとこんどはくちのひげからも、はなからもでましたから)

すると今度は口のひげからも、鼻からも出ましたから

(ねこはくすぐったがって、しばらくくしゃみをするようなかおをして)

猫はくすぐったがって、しばらくくしゃみをするような顔をして

(それからまた、さあこうしてはいられないぞというように)

それからまた、さあこうしてはいられないぞというように

(はせあるきだしました。)

はせ歩き出しました。

(ごーしゅはすっかりおもしろくなってますますいきおいよくやりだしました。)

ゴーシュはすっかり面白くなってますます勢いよくやりだしました。

(「せんせいもうたくさんです。たくさんですよ。ごしょうですからやめてください。)

「先生もうたくさんです。たくさんですよ。ご生ですからやめてください。

(これからもう、せんせいのたくとなんかとりませんから。」)

これからもう、先生のタクトなんか取りませんから。」

(「だまれ。これからとらをつかまえるところだ。」)

「だまれ。これから虎を捕まえる所だ。」

(ねこはくるしがってはねあがってまわったり、かべにからだをくっつけたりしましたが)

猫は苦しがって跳ね上がって回ったり、壁に体をくっつけたりしましたが

など

(かべについたあとは、しばらくあおくひかるのでした。)

壁についたあとは、しばらく青く光るのでした。

(しまいは、ねこはまるでかざぐるまのようにぐるぐるぐるぐるごーしゅをまわりました。)

しまいは、猫はまるで風車のようにぐるぐるぐるぐるゴーシュを回りました。

(ごーしゅもすこしぐるぐるしてきましたので、)

ゴーシュも少しぐるぐるして来ましたので、

(「さあこれでゆるしてやるぞ」といいながら、ようようやめました。)

「さあこれで許してやるぞ」と云いながら、ようようやめました。

(するとねこもけろりとして、「せんせい、こんやのえんそうはどうかしてますね。」)

すると猫もけろりとして、「先生、今夜の演奏はどうかしてますね。」

(といいました。せろひきはまたぐっとしゃくにさわりましたが、なにげないふうで)

と云いました。セロ弾きはまたぐっと癪に障りましたが、何気ない風で

(まきたばこをいっぽんだしてくちにくわえ、それからまっちをいっぽんとって)

巻きたばこを一本出して口に咥え、それからマッチを一本とって

(「どうだい。ぐあいをわるくしないかい。したをだしてごらん。」)

「どうだい。工合(ぐあい)を悪くしないかい。舌を出してごらん。」

(ねこはばかにしたように、とがったながいしたをぺろりとだしました。)

猫はばかにしたように、尖った長い舌をペロリと出しました。

(「ははあ、すこしあれたね。」せろひきはいいながら、いきなりまっちを)

「ははあ、少し荒れたね。」セロ弾きは云いながら、いきなりマッチを

(したでしゅっとすってじぶんのたばこへつけました。)

舌でシュッとすって自分のたばこへつけました。

(さあねこはおどろいたのなんの。したをかざぐるまのようにふりまわしながら)

さあ猫は愕(おどろ)いたの何の。舌を風車のように振り回しながら

(いりぐちのとへいって、あたまでどんとぶっつかってはよろよろとして)

入口の扉へ行って、頭でどんとぶっつかってはよろよろとして

(またもどってきてどんとぶっつかっては、よろよろまたもどってきて)

また戻って来てどんとぶっつかっては、よろよろまた戻って来て

(またぶっつかってはよろよろにげみちをこさえようとしました。)

またぶっつかってはよろよろ逃げ道をこさえようとしました。

(ごーしゅはしばらくおもしろそうにみていましたが)

ゴーシュはしばらく面白そうに見ていましたが

(「だしてやるよ。もうくるなよ。ばか。」)

「出してやるよ。もう来るなよ。ばか。」

(せろひきはとをあけて、ねこがかぜのようにかやのなかをはしっていくのをみて)

セロ弾きは扉をあけて、猫が風のように萱(かや)の中を走って行くのを見て

(ちょっとわらいました。)

ちょっと笑いました。

(それから、やっとせいせいしたというように、ぐっすりねむりました。)

それから、やっとせいせいしたというように、ぐっすり眠りました。

(つぎのばんもごーしゅがまた、くろいせろのつつみをかついでかえってきました。)

次の晩もゴーシュがまた、黒いセロの包みを担いで帰って来ました。

(そしてみずをごくごくのむと、そっくりゆうべのとおり)

そして水をごくごく飲むと、そっくりゆうべの通り

(ぐんぐんせろをひきはじめました。じゅうにじはまもなくすぎ、いちじもすぎ)

ぐんぐんセロを弾き始めました。十二時は間も無く過ぎ、一時も過ぎ

(にじもすぎてもごーしゅはまだやめませんでした。)

二時も過ぎてもゴーシュはまだやめませんでした。

(それからもうなんじだかもわからず、ひいているかもわからず)

それからもう何時だかも分からず、弾いているかも分からず

(ごうごうやっていますと、たれかやねうらをこつこつとたたくものがあります。)

ごうごうやっていますと、誰(たれ)か屋根裏をこつこつと叩く者があります。

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