その一秒スローモーション

(ながいながいくだりざか)

長い長い下り坂

(ねぐせをつけたわたし)

寝ぐせをつけたわたし

(かけあしでころばないように)

駆け足で転ばないように

(まにあえいつものばす)

間に合えいつものバス

(いきをきらせてはしる)

息を切らせて走る

(きのうのあめみずたまりをよけて)

昨日の雨水たまりをよけて

(おろしたてのくつをよごさないように)

おろしたての靴を汚さないように

(きをつけてとんだ)

気をつけて跳んだ

(あがるみずしぶき、なみうつくも)

あがる水しぶき、波打つ雲

(ぶつかるふりむくきみ)

ぶつかる振り向くキミ

(すろーもーしょん)

スローモーション

(おとすかばんめがあういっしゅん)

落とすカバン目が合う一瞬

(ほんのいちびょうえいえんにつづきそうなかんかく)

ほんの一秒永遠に続きそうな感覚

(おもわずそらすしせんのさきにびしょぬれのくつ)

おもわずそらす視線の先にびしょぬれの靴

(きみはむごんはっとわれにかえるわたし)

キミは無言はっと我に返るワタシ

(とっさにくちをつくことば)

とっさに口をつく言葉

(「ごめんなさいおこってますよね」)

「ごめんなさい怒ってますよね」

(はやくちでいえてないにげていい？)

早口で言えてない逃げていい？

(「したむいてはしるなよな」)

「下向いて走るなよな」

(めんどくさそうにそういいながら)

めんどくさそうにそう言いながら

(ひろってくれたみずびたしのかばん)

拾ってくれた水浸しのカバン

(ぽけっとにてをいれたまま)

ポケットに手を入れたまま

(「ほら、ちゃんともて」)

「ほら、ちゃんと持て」

(さしだされてりょうてでうけとる)

差し出されて両手で受け取る

(わたしのあたまをぽんとたたく)

わたしの頭をポンと叩く

(やられたしこうがとまる)

やられた思考が止まる

(すろーもーしょん)

スローモーション

(しょうげきがかけぬけていく)

衝撃が駆け抜けていく

(ほっぺをつねる)

ほっぺをつねる

(おちついてまいあがらないで)

落ち着いて舞い上がらないで

(とまらないどきどき)

止まらないドキドキ

(すぴーどあげるしんぞうのおと)

スピード上げる心臓の音

(きみはあるく)

キミは歩く

(おもわずうしろからしゃつをひっぱっていた)

思わず後ろからシャツを引っ張っていた

(ひとすじのかぜこのはをゆらして)

ひとすじの風木の葉を揺らして

(あめつゆがあたまにぱらりとふりかかる)

雨露が頭にパラリと降りかかる

(わたしはみあげる)

ワタシは見上げる

(まっすぐにきみのめをみる)

まっすぐにキミの瞳を見る

(これはこいなんですか)

これは恋なんですか

(このきもちにきがつかれないように)

この気持ちに気がつかれないように

(あわててあとずさりしながら)

あわてて後ずさりしながら

(「なんでもないです」)

「なんでもないです」

(まずいばれた？)

まずいばれた？

(おねがいきがつかないで)

お願い気が付かないで

(すろーもーしょん)

スローモーション

(みみまであかくそまるどうしよう)

耳まで赤く染まるどうしよう

(おこらないではやあるきでさきにいかないで)

怒らないで早歩きで先に行かないで

(あとをおいかける)

あとを追いかける

(ていりゅうじょからばすがはしっていく)

停留所からバスが走っていく

(「あーあ、ちこく」)

「あーあ、遅刻」

(とっさに「はい」ってげんきよくへんじした)

とっさに「はい」って元気よく返事した

(うれしい)

嬉しい