【星空】第一章

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(こんなよなかにだれだろう。)

こんな夜中に誰だろう。

(たしかに、とんとんっておとがする。)

確かに、トントンって音がする。

(「・・・・・・おかあさん?」)

「・・・・・・お母さん?」

(どあをかたてでおさえつけたままぼうをてにとりおそるおそるかぎをあける。)

ドアを片手で押さえつけたまま棒を手に取り恐る恐る鍵を開ける。

(かちゃり。)

カチャリ。

(「もうっしのったらなかなかあけてくれないんだから!」)

「もうっ詩乃ったら中々開けてくれないんだから!」

(とびこんできたんはゆうじんのあすか。)

飛び込んできたんは友人の明日香。

(「どうしたの、こんなよなかに」)

「どうしたの、こんな夜中に」

(「どうしたこともないわよ。ねられないからきただけよ」)

「どうしたこともないわよ。寝られないから来ただけよ」

(じこくは2じ。くさきもねむるうしみつどきだ。)

時刻は2時。草木も眠る丑三つ時だ。

(あすはしんゆうだからいいけどちょっとじょうしきしらずなことも。)

アスは親友だからいいけどちょっと常識知らずなことも。

(でもそんなあすのいちめんもまたすきだ。)

でもそんなアスの一面もまた好きだ。

(「じつはわたしもねられなかったの」)

「実は私も寝られなかったの」

(「こうじのおととかうるさいし」)

「工事の音とかうるさいし」

(あすはさっそく、だいどころまであがってもってきたちょこれーとにぎゅうにゅうをとかしている。)

アスは早速、台所まで上がって持ってきたチョコレートに牛乳を溶かしている。

(「ほっとちょこれーと、しのもいる?」)

「ホットチョコレート、詩乃もいる?」

(「うん」とかるくへんじしておきながらこころのなかではすごくうれしい。)

「うん」と軽く返事しておきながら心の中ではすごく嬉しい。

(あすがはいってきたばかりのどあをみつめる。)

アスが入ってきたばかりのドアを見つめる。

(あー、わたしってなにびくびくしてたんだろ。)

あー、私って何ビクビクしてたんだろ。

(それよりもじゅっぷんちかくはこわくてでられなかった。)

それよりも十分近くは怖くて出られなかった。

など

(そとはさむいのにあすにまたせちゃったかな・・・・・・)

外は寒いのにアスに待たせちゃったかな・・・・・・

(「あす、ごめんね。さむかったよねだいじょうふ?」)

「アス、ごめんね。寒かったよね大丈夫?」

(「あーへいきだよ。はいこれしののぶん」)

「あー平気だよ。はいこれ詩乃の分」

(あすのつくったほっとちょこれーとはあたたかいーー)

アスの作ったホットチョコレートは温かい――

(*)

*

(あすがわたしのへやへきて3じかんがたった。)

アスが私の部屋へ来て3時間が経った。

(「もうあさかー」)

「もう朝かー」

(うすぐらいまどのそとをながめながらあすはつぶやく。)

薄暗い窓の外を眺めながらアスは呟く。

(「おーるしちゃったね。いつもしてるけど」)

「オールしちゃったね。いつもしてるけど」

(あすとはじめてよふかししたときのようなわくわくしたきもちはもうわたしたちにはない)

アスと初めて夜更かしした時のようなワクワクした気持ちはもう私たちにはない

(あのころのような・・・)

あの頃のような・・・

(なんだかよるをこうやってねずにすごすのはとてもかなしんだ。)

何だか夜をこうやって寝ずに過ごすのはとても悲しんだ。

(よふかしなんて、したくない。)

夜更かしなんて、したくない。

(でも・・・・・・)

でも・・・・・・

(わたしとあすはねられないんだ。)

私とアスは寝られないんだ。

(「ああ。いまごろあすのりょうしんはおきたのかな」)

「ああ。今頃アスの両親は起きたのかな」

(わたしはつぶやく。)

私は呟く。

(「うん。しののりょうしん、じゃなかったそふぼもそうだね」)

「うん。詩乃の両親、じゃなかった祖父母もそうだね」

(わたしのりょうしんはりょこうちゅうだ。そろそろかえるよていだとなんどもいっておきながら、)

私の両親は旅行中だ。そろそろ帰る予定だと何度も言っておきながら、

(いまだにかえってこない。)

未だに帰ってこない。

(とんとん。)

トントン。

(あすがどあをたたいていたときとおなじおとがした。)

アスがドアを叩いていた時と同じ音がした。

(「しの、だれ?」)

「詩乃、誰?」

(あすがかおをこわばらせてきく。)

アスが顔を強ばらせて聞く。

(「うーん。おかあさんはかえってこないってさっきれんらくがあったしなぁ」)

「うーん。お母さんは帰ってこないってさっき連絡があったしなぁ」

(「ってことは・・・・・・」)

「ってことは・・・・・・」

(あすがこわいとこたつにもぐりこんだ。)

アスが怖いとこたつに潜り込んだ。

(「あす、いっしょにきて」)

「アス、一緒に来て」

(わたしはまたぼうをにぎってげんかんへちかづく。)

私はまた棒を握って玄関へ近づく。

(「どちらさまですかーーーー!」)

「どちら様ですか――――!」

(ちゃいむのおとにあわせてたずねる。)

チャイムの音に合わせて尋ねる。

(「わたくし、しきまぎくともうします」)

「私、紫紀まぎくと申します」

(・・・・・・しきまぎく?)

・・・・・・しきまぎく?

(だれだかわからない。)

誰だかわからない。

(「しきさんってどんなかたなんでしょう」)

「紫紀さんってどんな方なんでしょう」

(こたつからはいでてきたあすがわたしのとなりでどあほんにつぶやく。)

こたつから這い出てきたアスが私の隣でドアホンに呟く。

(「しきまぎく」さんにきこえたらしく、)

「しきまぎく」さんに聞こえたらしく、

(「そらのゆうじんです」)

「空の友人です」

(となのった。)

と名乗った。

(そらというのはわたしのははのなまえだ。)

空というのは私の母の名前だ。

(わたしたちはかおをみあわせ、どあをあけた。)

私たちは顔を見合わせ、ドアを開けた。

(「ああ、すみません。ありがとうございます」)

「ああ、すみません。ありがとうございます」

(しきまぎくさんはけーたいをそうさしながらげんかんへすわった。)

しきまぎくさんはケータイを操作しながら玄関へ座った。

(「そらにたのまれたの。はいってもいいかな?」)

「空に頼まれたの。入ってもいいかな?」

(あすはすでにこたつへもどっていたのでわたしはこくんとちいさくうなずいた。)

アスは既にこたつへ戻っていたので私はこくんと小さく頷いた。

(<だいにしょうへつづく>)

<第二章へ続く>

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