英雄の鎧は常に紅く

(いくさがおわりあれはてたまちを)

戦が終わり荒れ果てた町を

(ひとりのきしがあるく)

一人の騎士が歩く

(かれはだれよりせんかをあげた)

彼は誰より戦果を挙げた

(だれよりひとをころした)

誰より人を殺した

(てきこくのたみはそのすがたおそれ)

敵国の民はその姿恐れ

(ひっしにいのちごいをする)

必死に命乞いをする

(しかしそのねがいをかれが)

しかしその願いを彼が

(ききいれることはけっしてない)

聞き入れることは決してない

(おんなのなきがらがかかえた)

女の亡骸が抱えた

(むじゃきにほほえむあかご)

無邪気に微笑む赤子

(かれはつめたいめのまま)

彼は冷たい眼のまま

(つるぎをふりあげた)

剣を振り上げた

(えいゆうのよろいはつねにあかく)

英雄の鎧は常に紅く

(それはきっとあびたかえりちのいろ)

それはきっと浴びた返り血の色

(だれかのためのおこないだとしても)

誰かのための行いだとしても

(それをせいぎとよべるのか)

それを「正義」と呼べるのか

(それからごねんのつきひがながれ)

それから五年の月日が流れ

(いくさはきょうもつづく)

戦は今日も続く

(きしをかりずまいでまつのは)

騎士を仮住まいで待つのは

(ひとりのかれんなしょうじょ)

一人の可憐な少女

(あのときかのじょのふくにぬわれた)

あの時彼女の服に縫われた

(おうけのもんにきづいた)

皇家の紋に気づいた

(てもとにおいておけばいつか)

手元に置いておけばいつか

(ひとじちくらいにはなるだろう)

人質くらいにはなるだろう

(おかえりとうさんとほほえむ)

「お帰り父さん」と微笑む

(むじゃきでおろかなむすめ)

無邪気で愚かな娘

(おまえのおやをころしたのは)

お前の親を殺したのは

(このおれだというのに)

この俺だというのに

(えいゆうのよろいはつねにあかく)

英雄の鎧は常に紅く

(それはきっとかれのやしんとおなじいろ)

それはきっと彼の野心と同じ色

(だれかのためのおこないだとしても)

誰かのための行いだとしても

(それをせいぎとよべるのか)

それを「正義」と呼べるのか

(せんじょうには)

戦場には

(さまざまなものがはびこっている)

様々なものがはびこっている

(しょうりはいぼく)

勝利　敗北

(にくしみときのうん)

憎しみ　時の運

(そしてうらぎり)

そして裏切り

(きがつけばきしは)

気が付けば騎士は

(おおぜいのてきにかこまれていた)

大勢の敵に囲まれていた

(かれらがただのへいしでないことは)

彼らがただの兵士でないことは

(あきらかだった)

明らかだった

(おとなしくむすめをさしだせと)

「おとなしく娘を差し出せ」と

(せまるくろしょうぞくのろうば)

迫る黒装束の老婆

(したがえばおそらく)

従えばおそらく

(むすめのいのちはないだろう)

娘の命はないだろう

(しかしそれはきしにとって)

しかしそれは騎士にとって

(のぞむところだったはず)

望むところだったはず

(そのためにこのこをいままで)

その為にこの子を今まで

(かっていたのだから)

飼っていたのだから

(けんをもちきしをまもるように)

剣を持ち騎士を守るように

(まえにたったものがいた)

前に立った者がいた

(ふるえてるちいさなせなか)

震えてる小さな背中

(それはおさないあのこだった)

それは幼いあの子だった

(あわれなむすめよ)

憐れな娘よ

(おまえがちちとしたうものは)

お前が父と慕う者は

(いままさにおまえをうろうとしていたというのに)

今まさにお前を売ろうとしていたというのに

(きしはむすめのあたまをやさしくなでたあと)

騎士は娘の頭を優しく撫でた後

(ころしやにむかってけんをぬいた)

殺し屋に向かって剣を抜いた……

(えいゆうのよろいはつねにあかく)

英雄の鎧は常に紅く

(それはきっとあびたゆうやけのいろ)

それはきっと浴びた夕焼けの色

(ちぬられたじだいのなかてをつないで)

血塗られた時代の中　手を繋いで

(あるいていくきしとむすめ)

歩いていく騎士と娘

(せんじょうにはせいぎもあくもない)

戦場には正義も惡もない

(しょくざいのひはいつかやってくるだろう)

贖罪の日はいつかやって来るだろう

(やがてくるそのときまでかれは)

やがて来るその時まで彼は

(ちちでいようとけついした)

「父」でいようと決意した