狐の嫁入り　志人

(むかしむかしふかいぬまちにさくはすのはなにすわり)

昔々深い沼地に咲く蓮の花に座り

(すましがおのみずすましがきつくだいたゆうやみゆらぎ)

澄まし顔の水澄ましが　きつく抱いた夕闇揺らぎ

(くらいよみちふわりうかびあがるうさぎむらにうたい)

暗い夜道ふわり浮かび上がる兎　村に歌い

(あらましきわざわいにやかましいとあからじし)

あらましき災いに　やかましいと阿唐獅子

(かざかみにあらがいしやまなみにさからいてはなはちり)

風上に抗いし　山並みに逆らいて　花は散り

(えんまさまにてんはだまりけんかたばみぜんばかまにでんまさかりけんまかかり)

閻魔様に天は黙り　剣片喰　禅袴に　伝鉞　研磨かかり

(せんあらわにでんがわらめんかさなりてんあらわしげいはさかりせいはかなき)

線露に　田河原　面重なり　点現し　芸は盛り　生儚き

(なはななしへいわかたりねんしゃかじゃ)

名は名無し　平和語り　念釈迦じゃ

(えんさかばにめいたかなりええさかなにげんまいと)

宴酒場に　命高鳴り　ええ魚に玄米と

(けんぱいとへんぱいをせんだいよりてんたいへ)

献杯と返杯を　先代より天体へ

(きつねのよめいりのばんみつめのこまいぬが)

狐の嫁入りの晩　三つ目の狛犬が

(てまりねだりえかきうたせがむもねなしぐさ)

手毬ねだり　絵描き詩せがむも　根無し草

(こまりはててよわいあめのおわりかけにどなりたて)

困り果てて弱い雨の終わりかけに怒鳴りたて

(おかみかてそらしためそらみあげおらしらねえ)

御上かて　逸らした目　空見上げ　おら知らねえ

(かげひなたにさくはなのいろにおいはきよらかで)

陰日向に咲く花の　色匂いは清らかで

(なさけのさだめにだかれやがてのわかれにまかせる)

情けの定めに抱かれ　やがての別れに任せる

(くさたわむれゆめによいうたたねまきうたうまれ)

草戯れ　夢に酔い　詩種蒔き　詩生まれ

(うたかたなくつまやかなつららからおつるなみだ)

うたかた鳴く　つまやかな　氷柱から　落つる涙

(あめのよいやまときさかをこえかぜのまにまにやれこいがたき)

雨の宵山　時坂を越え　風の間に間に　やれ恋敵

(まてどくらせどこぬやみよいや)

待てど暮らせど　来ぬ闇宵や

(さてもしらねどといのわけああどうした)

さても知らねど　問いの訳　ああどうした

(ああどうした)

ああどうした

(はやくれゆくやまぎわにからくれないあやなすくも)

早暮れ行く山際に　唐紅　綾なす雲

(うしおてらすかがりびのきらめくかたうかがえば)

潮照らす篝火の　煌めく方うかがえば

(あさゆうべをきざみてしあまのはしをわたるべし)

朝夕べを刻みてし　天の橋を渡るべし

(みようるわしそらのほしにどくるまじとわのもり)

見よ潤わし空の星　二度来るまじ永久の森

(おとめごころしらたまのいのちうすきせみのはよ)

乙女心　白玉の　命薄き蝉の羽よ

(むらしぐれがむなしくていとみじかきゆめまどか)

村時雨が虚しくて　いと短き夢まどか

(きけばはるかおまえさんかかるすずしきねをたてて)

聞けば遥か御前山　かかる涼しき音を立てて

(たけきこころいたましむてるひやつきとこやみに)

猛き心痛ましむ　照る日や月　常闇に

(とわにそらにとけてゆくおわりのないこけむす)

永久に空に溶けて行く　終りの無い苔むす

(とこしえにそのこしてかみさまがすむむらのうた)

とこしえに　蘇残して　神様が棲む村のうた

(とわにそらにとけてゆくおわりのないこけむす)

永久に空に溶けて行く　終りの無い苔むす

(とこしえにそのこしてかみさまがすむむらのうた)

とこしえに　蘇残して　神様が棲む村のうた