恋色病棟

(こんなよなかになーすこーるって)

こんな夜中に着信って

(どういうかぜのふきまわしなの)

どういう風の吹き回しなの

(きけば３８ど５ぶって)

聞けば38度5分って

(そんなびねつでわたしのでるまく？)

そんな微熱で私の出る幕？

(そういってもぼせいほんのうがじゃまをして)

そう謂っても母性本能が邪魔をして

(れじぶくろかたてにあいつにあいにいく)

レジ袋片手にアイツに遭いに往く

(２５じのやかんびょうとうにとびこんで)

25時の夜間病棟に飛び込んで

(ういるすまみれのくうかんにおかされぬよう)

ウイルスまみれの空間に犯されぬよう

(いきをとめなくちゃ)

息を止めなくちゃ

(すきをみせたらまつげどうしが)

隙を見せたら睫毛同士が

(ぶつかるおとにひばなとびちる)

ぶつかる音に火花飛び散る

(そんなつもりでこのわたしを)

そんなつもりでこの私を

(こんなよなかによびつけたりして)

こんな夜中に呼びつけたりして

(ずるいじゃない)

狡いじゃない

(ひとのきもちもしらないくせに)

私の気持ちも知らないクセに

(むじゃきにわらわないできんそくじこうです)

無邪気に笑わないで禁則事項です

(じょじょにねつをおびてゆくやかんびょうとうで)

徐々に熱を帯びてゆく夜間病棟で

(みだれるこきゅうに)

乱れる呼吸に

(かそくするしんぱくすうがりせいをむしばんで)

加速する心拍数が理性を蝕んで

(またえんしょうをおこしはじめた)

また炎症を起こし始めた

(ねんまくのあつさにたえかねてへやをとびだす)

粘膜の熱さに耐えかねて部屋を飛び出す

(どうすればいいの)

どうすればいいの

(なんだかあのときからぐあいがわるい)

なんだかあの時から具合が悪い

(けいこうかんせんだどうしてくれるか)

経口感染だどうしてくれるか

(ほてるからだひきずり)

火照る身体引きずり

(またへやにとびこんだしゅんかんちあのーぜ)

また部屋に飛び込んだ瞬間蒼白

(わたしはただのくすりばこじゃないわ)

私はただの薬箱じゃないわ

(あんなにかんびょうしてあげたじゃない)

あんなに看病してあげたじゃない

(ほっておいたらしんでしまうかもよ)

放っておいたら死んでしまうかもよ

(だからおねがいたすけてよ)

だからお願い助けてよ

(にがいくすりもがまんしますから)

苦い薬も我慢しますから

(いたいちゅうしゃもがまんしますから)

痛い注射も我慢しますから

(たえずながれおちてゆくますから)

絶えず流れ落ちてゆくマスカラ

(もうどうすればいいの)

もうどうすればいいの

(すてられたこねこのようにわめきちらして)

棄てられた仔猫のように喚き散らして

(あさをむかえてもなおらない)

朝を迎えても治らない

(あなたがいなくちゃなおるわけないじゃない)

アナタがいなくちゃ治る訳ないじゃない

(またあのよるがあたまをよぎって)

またあの夜が頭をよぎって

(せつなさがぜんしんにてんいしてからだをしめらす)

切なさが全身に転移して身体を湿らす

(どうすればいいの)

どうすればいいの