貴方が好きな私　阿部真央

(わたしがあなただけにそまるのをあなたがきらうから)

わたしが貴方だけに染まるのを貴方が嫌うから

(まえのめりでさかをころげないようにすこしきょりをおいた)

前のめりで坂を転げないように少し距離を置いた

(ほんとうはそのむねにとびこんでなきじゃくってみたいけど)

本当はその胸に飛び込んで泣きじゃくってみたいけど

(あなたのすきなわたしはそういうかわいいこじゃないから)

貴方の好きな私はそういう可愛い子じゃないから

(じゆうなふりをしながらこどくにのまれるよるに)

自由なフリをしながら孤独にのまれる夜に

(かくしてなみだしてそれでもあなたにあいされたくて)

隠して涙してそれでも貴方に愛されたくて

(「あなたがすきなわたし」がわたしをころしてく)

「貴方が好きな私」がわたしを殺してく

(おわりのないめいろをあなたのひだりてにひかれゆく)

終わりのない迷路を貴方の左手に引かれゆく

(まばたきをするそのたびにいまのわたしをやきつけて)

瞬きをするその度に今の私を焼き付けて

(「あなたがすきなわたし」をきょうもじょうずにできたわたしをあいして)

「貴方が好きな私」を今日も上手に出来たわたしを愛して

(もしあなたのことばひとつひとつをいつまでもわすれられずに)

もし貴方の言葉ひとつひとつをいつまでも忘れられずに

(なにもてにつかなくなるほどにおもいつめたり)

何も手につかなくなる程に思いつめたり

(きにとめないそぶりのうらがわのやけるほどのくるおしさが)

気に留めない素振りの裏側の妬ける程の狂おしさが

(ほんとうのわたしだとしったならあなたはわたしをすてるかな？)

本当のわたしだと知ったなら貴方は私を捨てるかな？

(あまえかたもしらずにちかづくことさえちゅうちょさせる)

甘え方も知らずに近づくことさえ躊躇させる

(あなたにしがみついてわたしはどこへいきたいんだろう？)

貴方にしがみついてわたしはどこへ行きたいんだろう？

(あなたのそばにいるほどにわたしがしんでゆく)

貴方の側に居る程にわたしが死んでゆく

(やりばのないこのさびしささえうまれてはいけなかった)

やり場の無いこの寂しささえ生まれてはいけなかった

(いきをするたびにひどいことばでわたしをぶたないで)

息をする度に酷い言葉で私をぶたないで

(「あなたがすきなわたし」をきっとじょうずにやりきるから、あいして)

「貴方が好きな私」をきっと上手にやり切るから、愛して

(ここからぬけだすすべもにげかたもしってるでもふみださぬわたしがいる)

ここから抜け出す術も逃げ方も知ってるでも踏み出さぬ私が居る

(くらやみのむこうからあなたがよぶ)

暗闇の向こうから貴方が呼ぶ

(そのこえにみぶるいしてそれでもあなたにあいされたくて)

その声に身震いしてそれでも貴方に愛されたくて

(「あなたがすきなわたし」がわたしをころしてく)

「貴方が好きな私」がわたしを殺してく

(おわりのないめいろをあなたのひだりてにひかれゆく)

終わりのない迷路を貴方の左手に引かれゆく

(まばたきをするそのたびにいまのわたしをやきつけて)

瞬きをするその度に今の私を焼き付けて

(「あなたがすきなわたし」をきょうもじょうずにできたわたしをあいして)

「貴方が好きな私」を今日も上手に出来たわたしを愛して

(じょうずにやりきるから、あいして)

上手にやり切るから、愛して