ポストシェルター　稲葉曇

(はるがおわるころに)

春が終わる頃に

(まよいこんだもりのなかで)

迷い込んだ 森の中で

(あかいぽすとをめじるしにして)

赤いポストを 目印にして

(なつがおわるころに)

夏が終わる頃に

(よはく、すきまだらけの)

余白、隙間だらけの

(しめったあたしをひろうのはあなた)

湿ったあたしを 拾うのはあなた

(なかなかよめないかんじはとばして)

なかなか読めない 漢字は飛ばして

(ふんいきだけよみとってほしい)

雰囲気だけ 読み取って欲しい

(よぶんにきってをはってあふれちゃいそうなことばを)

余分に切手を貼って 溢れちゃいそうな言葉を

(かきたせるように)

書き足せるように

(にわかあめでぬれていた)

にわか雨で濡れていた

(よめないくらいにじんだことば)

読めないくらい 滲んだ言葉

(ぽすとのなかであまやどりさせてほしいの)

ポストの中で 雨宿りさせて欲しいの

(にわかあめでぬれていた)

にわか雨で濡れていた

(あてさきはそのまんまにして)

宛先はそのまんまにして

(あした、あさって、こえに)

明日、明後日、声に

(なっていますようにとねがったよ)

なっていますようにと 願ったよ

(みたいけん、けいけんぶそくでも)

未体験、経験不足でも

(じをかいてわたさなきゃいけないね)

字を書いて 渡さなきゃいけないね

(つかいこなせてないことば)

使いこなせてない言葉

(ふるえるてをあやつってくれと)

震える手を 操ってくれと

(あきがおわるころに)

秋が終わる頃に

(まよいこんだもりのなかの)

迷い込んだ森の中の

(ふるいぽすとはまんぱいになって)

古いポストは 満杯になって

(ふゆがおわるころに)

冬が終わる頃に

(だれかにもらったぺんで)

誰かに貰ったペンで

(しめったあたしをなでるのもあなた)

湿ったあたしを 撫でるのもあなた

(なかなかかけないかんじはあきらめて)

なかなか書けない 漢字は諦めて

(だれかのじでのりこえてほしい)

誰かの字で 乗り越えて欲しい

(よぶんにきってをはって)

余分に切手を貼って

(かれちゃいそうなこころでもよみかえせるように)

涸れちゃいそうな心でも 読み返せるように

(にわかあめでぬれていた)

にわか雨で濡れていた

(よめないくらいにじんだことば)

読めないくらい滲んだ言葉

(ぽすとのなかであまやどりさせてほしいの)

ポストの中で 雨宿りさせて欲しいの

(にわかあめでぬれていた)

にわか雨で濡れていた

(あてさきはそのまんまにして)

宛先はそのまんまにして

(あした、あさってのための)

明日、明後日のための

(あなたのことばをつれていく)

あなたの言葉を連れていく

(あした、あさって、こえに)

明日、明後日、声に

(なっていますようにとねがったよ)

なっていますようにと願ったよ