フラジール

(くしゃくしゃになったしんさつけんをもって)

くしゃくしゃになった診察券を持って

(かんたんなそうぞうにひびをつかっている)

簡単な想像に日々を使っている

(たんちょうなふうけいにふとねむくなって)

単調な風景にふと眠くなって

(かいそうれっしゃにゆられうごいている)

回送列車に揺られ動いている

(かんばんのしょうめいがうしろめたくなって)

看板の照明が後ろめたくなって

(めをおとしたさきでわらっていた)

目を落とした先で笑っていた

(とおりをぬけてろじうらのほうで)

通りを抜けて路地裏の方で

(くったくもなくわらっていた)

屈託もなく笑っていた

(えいがのじょうえいはとうにおわっている)

映画の上映はとうに終わっている

(しっせきのきおくがやけにひびくから)

叱責の記憶がやけに響くから

(できればとおくにいかないでくれ)

できれば遠くに行かないでくれ

(できるならいたくしないで)

出来るなら痛くしないで

(かまわないで．．．はなれていて)

構わないで...離れていて

(あつれきにきゅっとめをつむって)

軋轢にきゅっと目をつむって

(むくわないで．．．はなしをして)

報わないで...話をして

(まどごしにじっとめをあわせて)

窓越しにじっと目を合わせて

(たいはいにくれたげきじょうのすみで)

退廃に暮れた劇場の角で

(ねむらなかったはずがねむっている)

眠らなかったはずが眠っている

(あらべすくにはさわれなかったんだ)

アラベスクには触れなかったんだ

(ひがついたようにまちがひかった)

火がついたように街が光った

(むとんちゃくなあのこがかさをさしたら)

無頓着なあの子が傘を差したら

(それですくわれるくらいたんじゅんでしょ)

それで救われるくらい単純でしょ

(ひだりてのゆびわみぎてにかくして)

左手の指輪　右手に隠して

(とまどってるふうにしてた)

戸惑ってるふうにしてた

(さがさないで．．．いつのまにか)

捜さないで...いつの間にか

(きえたことにきづくきょりならば)

消えたことに気づく距離ならば

(ゆるさないで．．．さいしょだけは)

許さないで...最初だけは

(かなしくもないはずにしたくて)

悲しくもないはずにしたくて

(かまわないで．．．はなれていて)

構わないで...離れていて

(あつれきにきゅっとめをつむって)

軋轢にきゅっと目をつむって

(むくわないで．．．はなしをして)

報わないで...話をして

(まどごしにじっとめをあわせて)

窓越しにじっと目を合わせて

(ねむらないで．．．ことばにして)

眠らないで...言葉にして

(てらしたひかりにめをほそめて)

照らした光に目を細めて

(わらわないで．．．きみにさいたしゅうちゃくよ、)

笑わないで...君に咲いた執着よ、

(ぼくをのみこんでくれ)

僕を飲み込んでくれ