衆生は踊る

(どうかどうかどうかどうかのろわれますように)

どうか　どうか　どうか　どうか　呪われますように

(じじこくこくせまるばんねんそかいをとげるはえのむれ)

時々刻々迫る晩年　素懐を遂げる蝿の群れ

(ついばまれてごくらくおうじょうばすえのぼせきにはなひとつ)

ついばまれて極楽往生　場末の墓石に花一つ

(りょうのめからこぼれおちるかみのごときなみだは)

両の目から零れ落ちる神の如き涙は

(どろをおおいうみとなりてはとばにうちよせあれる)

泥を覆い海となりて波止場に打ち寄せ荒れる

(ああきりがない)

嗚呼　「きりが無い！」

(せいじんくんしもどうけもさぎしもみなおしゃかさまのきぶんしだい)

聖人君子も道化も詐欺師も皆お釈迦様の気分次第

(みえすいたせんみんいしきのおもさにはすのはしずむ)

見え透いた選民意識の重さに蓮の葉沈む

(それでもてのひらでおどりぜんざのいぎもしらぬまま)

それでも掌で踊り前座の意義も知らぬまま

(とぶとりをうちおとしいきいそぎしにいそぐ)

飛ぶ鳥を撃ち落とし　生き急ぎ死に急ぐ

(ばかはしんでもなおらない)

馬鹿は死んでも治らない

(いっぺんのしがおどりだしさいしょのこんちぇるとをつむぐ)

一篇の詩が踊り出し最初の協奏曲＜コンチェルト＞を紡ぐ

(つたないまいはやじのやじりからだれかのいのちをひきとめたとしても)

拙い舞いは野次の鏃から誰かの命を引き止めたとしても

(へたなよきょうときりすてられるのだろう)

下手な余興と斬り捨てられるのだろう

(みのほどをまだわきまえないむくろどもにつげる)

身の程をまだ弁えない骸共に告げる

(どうかどうかどうかどうかのろわれますように)

どうか　どうか　どうか　どうか　呪われますように

(じじこくこくせまるこうしゅたれるしらがはむしりとられた)

時々刻々迫る絞首　垂れる白髪は毟り取られた

(たみのどうりはみえないきこえないもくひをつらぬくほととぎす)

民の道理は見えない聞こえない　黙秘を貫く杜鵑

(みずがめからあふれいづるかみのごときけんがは)

水瓶から溢れいづる神の如き懸河は

(うみににごるすみとなりてさかなのひかりをおおう)

海に濁る墨となりて魚の光を覆う

(ああやんごとない)

嗚呼　「やんごとない！」

(さびたぎんのさじくわえてのたまうあさましきいつわりのいちもん)

錆びた銀の匙咥えて宣う浅ましき偽りの一門

(しゃかにせっぽうこうしにごどうこだちのかげでねこまたわらう)

釈迦に説法　孔子に悟道　木立の陰で猫又笑う

(まぶかぼうしのおちゃかいにのぼるしょうこうのけむりはらい)

目深帽子のお茶会に昇る焼香の煙払い

(こうでんをたたきつけかきものづくえもけりとばす)

香典を叩き付け　書き物机も蹴り飛ばす

(ひとをのろわばあなふたつ)

人を呪わば穴二つ

(いっぺんのしがおどりだしまつごのしんふぉにーをつむぐ)

一遍の死が踊り出し末期の交響曲＜シンフォニー＞を紡ぐ

(はかないまいはつみのつみにからだれかのいこんをときはなつとしても)

儚い舞いは罪の積荷から誰かの遺恨を解き放つとしても

(たえぬざんげにのまれたおれるのだろう)

絶えぬ懺悔に呑まれ倒れるのだろう

(よなよなくるったしゃにくさいさけにのまれうたう)

夜な夜な狂った謝肉祭　酒に飲まれ歌う

(どうかどうかどうかどうかほろびますように)

どうか　どうか　どうか　どうか　滅びますように

(かみのてのひらのなかみじかいはるにひわがのこした)

神の掌の中　短い春に鶸が残した

(たまごがわりのいちもんめのふんどうよひなとなれ)

卵代わりの一匁の分銅よ　「雛となれ！」

(いっぺんのしがそらをまいさいごのこんちぇるとをつむぐ)

一篇の詩が空を舞い最期の協奏曲＜コンチェルト＞を紡ぐ

(よどむせいてんわたるわたりどりみおくるすばこはしっちゃかめっちゃかだ)

淀む晴天　渡る渡り鳥　見送る巣箱はしっちゃかめっちゃかだ

(けんかにしおまきなきさけぶばせいはじゅそがしみこむじせいのく)

献花に塩撒き鳴き叫ぶ罵声は　呪詛が染み込む辞世の句

(うたうとりよよあけをだいていきてゆけ)

詠う鳥よ　夜明けを抱いて生きて逝け

(どうかどうかどうかどうかのろわれますように)

どうか　どうか　どうか　どうか　呪われますように