猫屋敷心中事件

(ぜんりゃく　ごほんいつもはいけんしております)

前略 御本いつも拝見しております

(つきましてはぜひとも　いちどとうけにきやしゃんせ)

つきましては是非とも 一度当家に来やしゃんせ

(にゃんともはや　みけやあいびょうや　たまとれとれけづくろい)

にゃんともはや三毛や愛猫や 玉取れ取れ毛繕い

(くんだりーにくんだりに　ふたりきり　おちていきたい)

クンダリーニくんだりに 二人きり 堕ちて行きたい

(せんせいがもどらない　てがかりはねこねこねこねこ)

先生が戻らない 手がかりは猫猫猫猫

(げんこうがまにあわない　さてはかんきんだますだれ)

原稿が間に合わない さては監禁玉すだれ

(にゃんともかんともだいじけん)

にゃんともかんとも大事件

(しんじゅうだんすほれぼれと　のどをならしたれいじょうさん)

心中ダンス惚れ惚れと 喉を鳴らした令嬢さん

(おいでなさい　ひざのうえ　おにさんこちらまるのうち)

おいでなさい 膝の上 鬼さんこちら丸の内

(しんじゅうだ　ごりんじゅうだ　せなかにつめたてる　ねこねこねぇこねこや)

心中だ 御臨終だ 背中に爪立てる 猫猫ねぇ子猫や

(だいておれるほど　ねこぜもなおるほど)

抱いて折れるほど 猫背も治るほど

(じごくへおちたって　くるりとかいてん　ねこだもの)

地獄へ落ちたって くるりと回転 猫だもの

(へんくつさっかすくうため　こむすめなぞをとく)

偏屈作家救うため 小娘謎を解く

(せんせいはころしたって　しぬようなひとじゃありません)

「先生は殺したって 死ぬような人じゃありません」

(きおいちょうねこやしき　どこみても　ねこねこねこねこ)

紀尾井町猫屋敷 何処見ても 猫猫猫猫

(じゃらされて　しっぽゆらす　ねこなでごえでよんどいて)

じゃらされて 尻尾揺らす 猫なで声で呼んどいて

(ふんづけないでよねこでなし)

踏んづけないでよ猫でなし

(しんじゅうだんす　ねぇこねこや　あのひとまねいてくだしゃんせ)

心中ダンス ねぇ子猫や あの人招いてくだしゃんせ

(しながわか　そねざきか　ともにいってはくれまいか)

品川か 曽根崎か ともに逝ってはくれまいか

(ちゅうばいか　ちるばいか　おぐしもみだれるなつ)

虫媒花 散る梅花 御髪も乱れる夏

(きっとせんせいはなにかじけんにまきこまれているんです！)

「きっと先生は何か事件に巻き込まれているんです！」

(げんこうのしめきりにまにあわないからって、くもがくれしているわけじゃありません！)

「原稿の締め切りに間に合わないからって雲隠れしているわけじゃありません」

(・・・たぶん)

「・・・多分」

(わがはいはねこであるまえにおとこである　ともにしんでくれるか？)

「吾輩は猫である前に男である 共に死んでくれるか？」

(やです)

「やです」

(ならばきみひとりでいけい！)

「ならばきみひとりで逝けい！」

(せんせいのにんげんしっかく！)

「先生の人間失格！」

(しんじゅうだんすほれぼれと　のどをならしたれいじょうさん)

心中ダンス惚れ惚れと 喉を鳴らした令嬢さん

(おいでなさい　ひざのうえ　おにさんこちらまるのうち)

おいでなさい 膝の上 鬼さんこちら丸の内

(しんじゅうだんす　むりしんじゅうだんす　らいせもけづくろいやっちゃいな)

心中ダンス 無理心中ダンス 来世も毛繕いやっちゃいな

(しながわか　そねざきか　ともにいってはくれまいか)

品川か 曽根崎か ともに逝ってはくれまいか

(しんじゅうだ　ごりんじゅうだ　おぐしもみだれる　かつじしんじゅうろく)

心中だ 御臨終だ 御髪も乱れる 活字心中録

(せなかにつめたてる)

背中に爪たてる

(ねこねこ　ねぇこねこ　ねこねこねこ　ねこねこねこねこや)

猫猫ねぇ子猫 猫猫猫 猫猫猫猫や