絵Ⅰ -1-

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師匠シリーズ
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問題文

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(だいがくのけんきゅうしつのめんばーがいきつけにしているばーがあるのだが、) 大学の研究室のメンバーが行きつけにしているバーがあるのだが、 (そこでしりあったけんきゅうしつのobからちょっとふしぎなはなしをきいた。) そこで知り合った研究室のOBからちょっと不思議な話を聞いた。 (だいがくじだいはんとしほどつきあったかのじょがいた。) 大学時代半年ほど付き合った彼女がいた。 (いっこうえでびじゅつこーすにいたひとだった。) 一コ上で美術コースにいた人だった。 (ばいとさきがおなじだったので、おたがいなんとなく、) バイト先が同じだったので、お互いなんとなく、 (というかんじでつきあいはじめたのだった。) という感じで付き合い始めたのだった。 (かのじょがかいているえをなんどかみせてもらったことがあるが、) 彼女が描いている絵を何度か見せてもらったことがあるが、 (ぜんえいてきというのか、えはくわしくないのでよくわからないけれど、) 前衛的というのか、絵は詳しくないのでよくわからないけれど、 (どれも「からだのいちぶがおおきいにんげんのえ」だった。) どれも「身体の一部が大きい人間の絵」だった。 (ぐるーぷてんようのかんせいさくひんも、すけっちぶっくのらふがも、) グループ展用の完成作品も、スケッチブックのラフ画も、 (ほとんどすべてがそうだった。もちろんちゃんとしたえもかけるのだが、) ほとんどすべてがそうだった。もちろんちゃんとした絵も描けるのだが、 (そのころかのじょはそういうえばかりをこのんでえがいていたようだった。) そのころ彼女はそういう絵ばかりを好んで描いていたようだった。 (たとえばはんらのはくじんがしょうめんをむいているえがあるが、) たとえば半裸の白人が正面を向いている絵があるが、 (ひだりめだけがかおのはんぶんくらいのおおきさで、りんかくのそとにまではみでていた。) 左目だけが顔の半分くらいの大きさで、輪郭の外にまではみ出ていた。 (ほかにもみぎあしのさきだけがきょだいかしたえだとか、ひだりて、はな、くち、みぎみみ・・・・・) 他にも右足の先だけが巨大化した絵だとか、左手、鼻、口、右耳・・・・・ (どれもからだのなかでそのぶぶんだけがきょだいかしていた。) どれも身体の中でその部分だけが巨大化していた。 (しゃじつてきではない、ちゅうしょうがのようなさくふうだったが、なんともいえない) 写実的ではない、抽象画のような作風だったが、なんとも言えない (きもちわるさがあり、はきけをおぼえてくちもとをおさえてしまったことがある。) 気持ち悪さがあり、吐き気を覚えて口元を抑えてしまったことがある。 (そんなときかのじょはこまったようなかおをしていた。) そんな時彼女は困ったような顔をしていた。 (かのじょとつきあいはじめてふとあることにきがついた。) 彼女と付き合い始めてふとあることに気がついた。
など
(こどものころからずっとなんどもなんどもくりかえしみていたゆめを) 子供のころからずっと何度も何度も繰り返し見ていた夢を (みなくなっていたのだ。) 見なくなっていたのだ。 (そのゆめは、あくむというべきなのか、よくあるおばけに) その夢は、悪夢というべきなのか、よくあるお化けに (おいかけられたりするようなきょうはくてきなものではなく、しずかな、しずかなゆめだった。) 追いかけられたりするような脅迫的なものではなく、静かな、静かな夢だった。 (ねむりにつくと、それはとうとつにやってくる。) 眠りにつくと、それは唐突にやって来る。 (ふくろがみえるのだ。) 袋が見えるのだ。 (きんちゃくぶくろのようななまめかしいもようをしたおおきなふくろ。) 巾着袋のような艶かしい模様をした大きな袋。 (こどもくらいならかくれられそうな。) 子どもくらいなら隠れられそうな。 (それまでみていたのがどんなゆめだったのかはかんけいがない。) それまで見ていたのがどんな夢だったのかは関係がない。 (とにかくきがつくとばめんはむかし、しょうがくせいのころにすんでいたあぱーとのいっしつになり、) とにかく気がつくと場面は昔、小学生の頃に住んでいたアパートの一室になり、 (ゆうひがまどからさしこむなかでふくろがぽつんとたたみのうえにおかれている。) 夕日が窓から差し込む中で袋がぽつんと畳の上に置かれている。 (ただそれだけのゆめだ。) ただそれだけの夢だ。 (このゆめがじぶんにはとてもとてもおそろしかった。) この夢が自分にはとてもとても恐ろしかった。 (ゆめなんてものはほんぽうにめまぐるしくかわるものなのに、) 夢なんてものは奔放に目まぐるしく変わるものなのに、 (このへやにいりこむとそれがこおりついたようにとまる。) この部屋に入り込むとそれが凍りついたように止まる。 (なぜかへやにはでいりするとびらはどこにもなく、ただぼくはたたみのうえのふくろと) 何故か部屋には出入りする扉はどこにもなく、ただ僕は畳の上の袋と (むかいあう。めをそらしたいのに、みいられたようにうごけない。) 向かい合う。目を逸らしたいのに、魅入られたように動けない。 (やがてわずかにひらいているふくろのくちにできたかげを、) やがてわずかに開いている袋の口に出来た影を、 (ふのきたいかんとでもいうものでじっとみつめてしまうのだ。) 負の期待感とでも言うものでじっと見つめてしまうのだ。 (ああ、はやく。はやくゆめからさめないと。) ああ、はやく。はやく夢から覚めないと。 (そのへやはいつもゆうひがてっている。) その部屋はいつも夕日が照っている。 (それがかげりはじめると、ふくろのくちからひらいていくようなきがして・・・・・) それが翳り始めると、袋の口から開いていくような気がして・・・・・ (そんなゆめだ。) そんな夢だ。 (めがさめて、ふかくいきをつき、そしてもうあのへやにはいきたくないとおもう。) 目が覚めて、深く息をつき、そしてもうあの部屋には行きたくないと思う。 (しかしどんなにたのしいゆめをみていても、どあをあけると) しかしどんなに楽しい夢を見ていても、ドアを開けると (あのへやにつながってしまうことがある。) あの部屋に繋がってしまうことがある。 (そしてふりかえるとどあはないのだ。) そして振り返るとドアはないのだ。 (そのゆめが、だいがくにはいるまで、そしてひんどはへっていったが、) その夢が、大学に入るまで、そして頻度は減っていったが、 (はいってからもつづいた。) 入ってからも続いた。 (じぶんでもゆめのいみについてよくかんがえることがあるが、) 自分でも夢の意味についてよく考えることがあるが、 (あのふくろにみおぼえはない。) あの袋に見覚えはない。 (たたみじきのあのへやも、いまはあぱーとごととりこわされているはずだ。) 畳敷きのあの部屋も、今はアパートごと取り壊されているはずだ。 (みゃくらくがなく、いみがわからない。) 脈絡がなく、意味がわからない。 (だからこそこわく、りょうしんにもゆうじんにも、だれにもこのことをはなしたことはなかった。) だからこそ怖く、両親にも友人にも、誰にもこのことを話したことはなかった。 (それがかのじょとつきあいはじめてからなぜかいちどもみなくなった。) それが彼女と付き合い始めてから何故か一度も見なくなった。 (ほっとするはんめん、ながくつづいたしゃっくりがきゅうにとまったときのような) ホッとする反面、長く続いたしゃっくりが急に止まった時のような (きもちわるさもあった。) 気持ち悪さもあった。 (かのじょにこのことをはなしてみようかとおもっていたころ、) 彼女にこのことを話してみようかと思っていたころ、 (かのじょに「よる、びじゅつとうにしのびこんでみない?」とさそわれた。) 彼女に「夜、美術棟に忍び込んでみない?」と誘われた。
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