発熱の男

(すっぱだかでたっている)

素っ裸で立っている

(あなのなかにたっている)

穴の中に立っている

(しんぞうのおとをきいている)

心臓の音を聞いている

(ひかりのないあさにめざめ)

光のない朝に目覚め

(ふかみのないよるにねむり)

深みのない夜に眠り

(においのないきせつはまわる)

匂いのない季節は廻る

(だいすきなおかずはいつも)

大好きなおかずはいつも

(さいごまでとっておきたい)

最後までとっておきたい

(いつでもあしたをまっていたい)

いつでも明日を待っていたい

(くつぞこはへっているのに)

靴底は減っているのに

(みえるけしきはかわらない)

見える景色は変わらない

(どこにもたどりつけていない)

どこにも辿り着けていない

(こえをなげたそらになげた)

声を投げた空に投げた

(よるのむこうへやみのむこうへ)

夜の向こうへ闇の向こうへ

(ひびくようにとどくようにのぼれ)

響くように届くように昇れ

(おれはだれだここはどこだ)

俺は誰だここはどこだ

(なにしてるんだなにがほしいんだ)

何してるんだ何が欲しいんだ

(よるをぬけてやみをぬけてのぼれ)

夜を抜けて闇を抜けて昇れ

(くちぶえをふいている)

口笛を吹いている

(こどものこえがきこえる)

子供の声が聞こえる

(ちいさないしにつまづいてる)

小さな石につまづいてる

(まばたきをくりかえしても)

瞬きを繰り返しても

(ぴんとがうまくあわない)

ピントがうまく合わない

(すりがらすのせかいはまわる)

すりガラスの世界は廻る

(いいたいことがいえたなら)

言いたいことが言えたなら

(いいたいときにいえたなら)

言いたいときに言えたなら

(いいたいことなんかもうわすれた)

言いたいことなんかもう忘れた

(さかあがりをくりかえして)

逆上がりを繰り返して

(やっぱりけしきはかわらない)

やっぱり景色は変わらない

(どこにもたどりついちゃいない)

どこにも辿り着いちゃいない

(ゆめはどこだきみはどこだ)

夢はどこだ君はどこだ

(みちはどこだなにをすべきだ)

道はどこだ何をすべきだ

(はじをかけもっとなけ)

恥をかけもっと泣け

(ふるいたつんだかおあげるんだ)

奮い立つんだ顔上げるんだ

(だきしめるんだねつをだすんだ)

抱きしめるんだ熱を出すんだ

(よるのなかへやみのなかへ)

夜のなかへ闇のなかへ

(いざゆけ)

いざゆけ