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問題文
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(ゆうぐれのとばりがまちぜんたいをおおいはじめたころ、ふるびたえきしゃのとけいは、)
夕暮れの帳が町全体を覆いはじめた頃、古びた駅舎の時計は、
(だれにもきづかれぬまましずかにびょうしんをきざんでいた。)
誰にも気づかれぬまま静かに秒針を刻んでいた。
(かいさつをぬけたせいねんは、かたからさげたかばんのひもをにぎりなおし、)
改札を抜けた青年は、肩から下げた鞄の紐を握り直し、
(あしばやにほーむへむかう。)
足早にホームへ向かう。
(しゅういにはつうきんがえりのひとびとがあわただしくいきかい、)
周囲には通勤帰りの人々が慌ただしく行き交い、
(すまーとふぉんのがめんにしせんをおとしたまま、)
スマートフォンの画面に視線を落としたまま、
(ぶつかりそうになってもきづかぬものさえいる。)
ぶつかりそうになっても気づかぬ者さえいる。
(かれはそんなざっとうをすりぬけながら、)
彼はそんな雑踏をすり抜けながら、
(ふとみみにとどいたかすかなふえのおとにあしをとめた。)
ふと耳に届いた微かな笛の音に足を止めた。
(ふりかえると、うすぐらいこうないのかたすみに、)
振り返ると、薄暗い構内の片隅に、
(ちいさなしょうじょがもくせいのりこーだーをむなもとにかかえ、)
小さな少女が木製のリコーダーを胸元に抱え、
(はねるようなゆびづかいでせんりつをつむいでいた。)
跳ねるような指遣いで旋律を紡いでいた。
(だれがおしえたわけでもない、ふしぎなしらべだったが、)
誰が教えたわけでもない、不思議な調べだったが、
(ききいるうちにせいねんのむねのおくにしずんでいたきおくのかけらが、)
聞き入るうちに青年の胸の奥に沈んでいた記憶の欠片が、
(しずかにうかびあがってくる。)
静かに浮かび上がってくる。
(おさないころ、なつまつりのよみせでかってもらったかざぐるまが、)
幼い頃、夏祭りの夜店で買ってもらった風車が、
(かぜにまわされながらひかりをはんしゃしていたじょうけいや、)
風に回されながら光を反射していた情景や、
(そふがえんがわでかたってくれたむかしばなしのだんぺんが、)
祖父が縁側で語ってくれた昔話の断片が、
(かさなりあうようによみがえる。)
重なり合うようによみがえる。
(やがてでんしゃのとうちゃくをつげるあなうんすがひびき、)
やがて電車の到着を告げるアナウンスが響き、
など
(かれはわれにかえってふたたびあるきだしたが、)
彼は我に返って再び歩き出したが、
(しょうじょのすがただけはふりかえらなかった。)
少女の姿だけは振り返らなかった。
(こころのどこかで、あのせんりつはもうにどときけないのだと)
心のどこかで、あの旋律はもう二度と聞けないのだと
(かんじていたからである。)
感じていたからである。