クレヨン

(とざされたどあにさびついたなんきんじょう)

閉ざされたドアに錆付いた南京錠

(やせこけたむねのおくにひびくこどうはかすか)

痩せこけた胸の奥に響く古道は微か

(すすけたかべにもたれてなきさけびわめいても)

煤けた壁にもたれて泣き叫び喚いても

(とどきはしないぼくのこのこえを)

届きはしない僕のこの声を

(こわれたこころをうばわれたけんりを)

壊れた心を　奪われた権利を

(けされたそんざいをつたえてよ)

消された存在を　伝えてよ

(おねがい)

おねがい

(だしてだしてだしてここからだして)

出して　出して　出して　ここから出して

(もうにどとしないから)

もう二度としないから

(これからはいいこにしてるから)

これからはいい子にしてるから

(どうかゆるして)

どうか許して

(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい)

ごめんなさい　ごめんなさい　ごめんなさい

(まっくらなばしょにひとりぼっちはこわいこわい)

真っ暗な場所に独りぼっちは怖い怖い

(こわいの)

怖いの

(うすれてくいしきのはざまにうかぶいろ)

薄れてく意識の狭間に浮かぶ色

(ぽけっとのなかでおれてくだけたくれよん)

ポケットの中で折れて砕けたクレヨン

(とぎれとぎれのこきゅうにこんじるおえつがくうきをからして)

途切れ途切れの呼吸に混じる嗚咽が空気を枯らして

(ぼくののこりじかんをけずりとってゆく)

僕の残り時間を削り取ってゆく

(まちがってるんだきっとゆめでもみてるんだ)

間違ってるんだ　きっと夢でも見てるんだ

(くるいかけたのうがうそをはく)

狂い掛けた脳が嘘を吐く

(なにもみえない)

何も見えない

(くらいくらいくらいへやのむこうで)

暗い　暗い　暗い部屋の向こうで

(かきちらすしっくいてのひらにしたたりおちるあか)

掻き散らす漆喰　掌に滴り落ちる赤

(だれかたすけておねがいです)

誰か助けて　お願いです

(まだいきていたいんです)

まだ生きていたいんです

(とどかぬひめいはきずだらけのかべにすいこまれて)

届かぬ悲鳴は傷だらけの壁に吸い込まれて

(きえる)

消える

(ねぇだれかぼくをさがして)

ねぇ　誰か僕を探して

(ひゃくかぞえるあいだに)

百数える間に

(ねぇはやくぼくをみつけて)

ねぇ　早く僕を見つけて

(めじるしはあかいくれよん)

目印は赤いクレヨン

(つめたいゆかにころがってないている)

冷たい床に転がって泣いている

(まるですりきれたにんぎょうみたいに)

まるで擦り切れた人形みたいに

(まぶたとじてもあけてもおなじいろしか)

瞼閉じても開けても同じ色しか

(うつらないひとみをだれかこわして)

映らない瞳を誰か壊して

(あざだらけのうでがあしがくびがむねがいたいよ)

痣だらけの腕が　足が　首が　胸が痛いよ

(かたなまりのからだがおとをたてくずれはててゆく)

片生りの身体が　音を立て崩れ果ててゆく

(ぼくはなぜどうしてこんなばしょでたおれているの)

僕はなぜ、どうして、こんな場所で倒れているの？

(よじょうはんのよどみはしろいかべのおくにとわにとざされて)

四畳半の澱みは白い壁の奥に永久 (とわ) に閉ざされて

(おねがい)

おねがい

(だしてだしてだしてここからだして)

出して　出して　出して　ここから出して

(もうにどとしないから)

もう二度としないから

(これからはいいこにしてるから)

これからはいい子にしてるから

(どうかゆるして)

どうか許して

(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい)

ごめんなさい　ごめんなさい　ごめんなさい

(まっくらなばしょにひとりぼっちはこわいこわい)

真っ暗な場所に独りぼっちは怖い怖い

(こわいの)

怖いの