「いってきます」の続き

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投稿者投稿者ぴょんころりいいね0お気に入り登録
プレイ回数2難易度(4.5) 3305打 長文
短編ストーリーです。

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(これは、わたしがこうこうせいのころのはなし。 わたしはむかしから、あさがにがてだった。) これは、私が高校生の頃の話。 私は昔から、朝が苦手だった。 (ははになんどおこされてもおきられなくて、まいあさのように、) 母に何度起こされても起きられなくて、毎朝のように、 (「はやくおきなさい!」 「もうじかんないよ!」) 「早く起きなさい!」 「もう時間ないよ!」 (とおこられていた。) と怒られていた。 (こうこうにはいってからはとくにひどくて、ははがおこしてくれているのに、) 高校に入ってからは特にひどくて、母が起こしてくれているのに、 (「わかってるって!」 とふとんのなかからへんじをすることもおおかった。) 「分かってるって!」 と布団の中から返事をすることも多かった。 (そんなあるあさ。) そんなある朝。 (いつものようにははにおこされて、わたしはねむいめをこすりながらせいふくにきがえた。) いつものように母に起こされて、私は眠い目をこすりながら制服に着替えた。 (りびんぐにいくと、てーぶるのうえにあさごはんがおいてあった。) リビングに行くと、テーブルの上に朝ご飯が置いてあった。 (「たべるじかんないからいらない」 そういって、わたしはぱんだけかばんにいれた。) 「食べる時間ないからいらない」 そう言って、私はパンだけ鞄に入れた。
(げんかんにむかうと、ははがうしろからいった。 「きょう、かえりなんじ?」) 玄関に向かうと、母が後ろから言った。 「今日、帰り何時?」 (「しらない」 「ゆうはんどうする?」) 「知らない」 「夕飯どうする?」 (「いらないかも」 「じゃあ、れんらくしてね」) 「いらないかも」 「じゃあ、連絡してね」 (「わかった」 わたしはくつをはきながら、いつものようにへんじをした。) 「分かった」 私は靴を履きながら、いつものように返事をした。 (そしてげんかんをでようとしたとき、 「いってらっしゃい」) そして玄関を出ようとした時、 「いってらっしゃい」 (とははがいった。 わたしはふりかえらず、) と母が言った。 私は振り返らず、 (「いってきます」 とだけいった。) 「いってきます」 とだけ言った。 (それが、ははとかわしたさいごの「いってらっしゃい」になるなんて、そのときのわたしは) それが、母と交わした最後の「いってらっしゃい」になるなんて、その時の私は (しらなかった。 そのひのゆうがた。) 知らなかった。 その日の夕方。 (がっこうからかえるとちゅう、ちちからでんわがかかってきた。) 学校から帰る途中、父から電話がかかってきた。
など
(ふだん、しごとちゅうのちちからでんわがくることなんてなかった。 いやなよかんがした。) 普段、仕事中の父から電話が来ることなんてなかった。 嫌な予感がした。 (でんわにでると、ちちはしばらくだまっていた。 そして、) 電話に出ると、父はしばらく黙っていた。 そして、 (「おかあさんがたおれた」 といった。) 「お母さんが倒れた」 と言った。 (びょういんにつくと、ちちがひとりでろうかにすわっていた。) 病院に着くと、父が一人で廊下に座っていた。 (わたしはははのところへいこうとした。 でもちちにとめられた。) 私は母のところへ行こうとした。 でも父に止められた。 (「いまははいれない」 そのことばのいみがわからなかった。) 「今は入れない」 その言葉の意味がわからなかった。 (ただ、ちちのかおをみたしゅんかん、 なにかがおかしいとおもった。) ただ、父の顔を見た瞬間、 何かがおかしい と思った。 (それからのことは、あまりおぼえていない。 はははそのひのよる、なくなった。) それからのことは、あまり覚えていない。 母はその日の夜、亡くなった。 (あまりにもとつぜんだった。 あさはふつうにはなしていた。) あまりにも突然だった。 朝は普通に話していた。 (いつもどおりおこられて、 いつもどおり「いってらっしゃい」といわれて、) いつも通り怒られて、 いつも通り「いってらっしゃい」と言われて、 (いつもどおり「いってきます」とこたえた。 だからわたしは、) いつも通り「いってきます」と答えた。 だから私は、 (「またあしたはなせる」 とおもっていた。) 「また明日話せる」 と思っていた。 (そうぎがおわってすうじつたっても、わたしはははがいなくなったというじっかんがなかった。) 葬儀が終わって数日経っても、私は母がいなくなったという実感がなかった。 (あさになると、 「おきなさい!」) 朝になると、 「起きなさい!」 (っていわれるきがして、めをさます。 でも、だれもおこしてくれない。) って言われる気がして、目を覚ます。 でも、誰も起こしてくれない。 (がっこうからかえっても、 「おかえり」) 学校から帰っても、 「おかえり」 (といってくれるひとはいない。 それでもわたしは、ははがかえってくるような) と言ってくれる人はいない。 それでも私は、母が帰ってくるような (きがしていた。 あるひのあさ。) 気がしていた。 ある日の朝。 (わたしはひさしぶりにねぼうした。) 私は久しぶりに寝坊した。 (めざましをとめて、そのままにどねしてしまったらしい。) 目覚ましを止めて、そのまま二度寝してしまったらしい。 (とけいをみると、いえをでるじかんをすぎていた。 「やばい!」) 時計を見ると、家を出る時間を過ぎていた。 「やばい!」 (あわててふとんからとびおきた。) 慌てて布団から飛び起きた。 (せいふくをきて、かばんをもって、いそいでげんかんへむかった。 くつをはいていると、) 制服を着て、鞄を持って、急いで玄関へ向かった。 靴を履いていると、 (ふと、むかしのことをおもいだした。 まいあさ、ははがここから、) ふと、昔のことを思い出した。 毎朝、母がここから、 (「わすれものない?」 っていっていたこと。) 「忘れ物ない?」 って言っていたこと。 (わたしはいつも、 「ない!」) 私はいつも、 「ない!」 (ってこたえていた。 ほんとうはわすれものだらけだったけど。) って答えていた。 本当は忘れ物だらけだったけど。 (そしてさいごにかならず、 「いってらっしゃい」) そして最後に必ず、 「いってらっしゃい」 (といってくれた。 わたしはげんかんでくつひもをむすびながら、) と言ってくれた。 私は玄関で靴ひもを結びながら、 (だれもいないいえにむかってちいさくいった。 「.....いってきます」) 誰もいない家に向かって小さく言った。 「.....いってきます」 (とうぜん、へんじはなかった。 すこしさびしくなって、げんかんのどあをあけようとした。) 当然、返事はなかった。 少し寂しくなって、玄関のドアを開けようとした。 (そのしゅんかん。 うしろから、) その瞬間。 後ろから、 (「いってらっしゃい」 ときこえた。) 「いってらっしゃい」 と聞こえた。 (わたしはかたまった。 ふりかえったけど、だれもいない。) 私は固まった。 振り返ったけど、誰もいない。 (いえのなかはしずまりかえっていた。 でも、そのこえはまちがいなくははのこえだった。) 家の中は静まり返っていた。 でも、その声は間違いなく母の声だった。 (わたしはしばらくうごけなかった。 こわいとはおもわなかった。) 私はしばらく動けなかった。 怖いとは思わなかった。 (むしろ、なみだがとまらなくなった。 そしてげんかんでひとり、) むしろ、涙が止まらなくなった。 そして玄関で一人、 (「.....うん」 「いってくるね」) 「.....うん」 「行ってくるね」 (とこたえた。 それからなんねんもたった。) と答えた。 それから何年も経った。 (いまでもあさがにがてなのはかわらない。) 今でも朝が苦手なのは変わらない。 (でも、ねぼうしてあわてていえをでるときは、かならずげんかんでいちどたちどまる。) でも、寝坊して慌てて家を出るときは、必ず玄関で一度立ち止まる。 (そしてちいさなこえで、 「いってきます」) そして小さな声で、 「いってきます」 (という。 へんじはきこえない。) と言う。 返事は聞こえない。 (でもふしぎと、 「いってらっしゃい」) でも不思議と、 「いってらっしゃい」 (っていってもらえているきがする。 あのひ、ははがさいごにくれたことばは、) って言ってもらえている気がする。 あの日、母が最後にくれた言葉は、 (「いってらっしゃい」 だった。) 「いってらっしゃい」 だった。 (わたしはずっと、 「いってきます」) 私はずっと、 「いってきます」 (のつづきはいえないままだとおもっていた。 でもちがった。) の続きは言えないままだと思っていた。 でも違った。 (ははがいなくなったあとも、 わたしはちゃんとまいにち、) 母がいなくなった後も、 私はちゃんと毎日、 (「いってきます」 といえる。) 「いってきます」 と言える。 (きっとはははいまでも、 わたしがかえってくるのをまっているわけじゃない。) きっと母は今でも、 私が帰ってくるのを待っているわけじゃない。 (ただ、 「きょうもちゃんといっておいで」) ただ、 「今日もちゃんといっておいで」 (って、どこかでみていてくれるんだとおもう。 だからわたしはきょうも、) って、どこかで見ていてくれるんだと思う。 だから私は今日も、 (「いってきます」 といっていえをでる。) 「いってきます」 と言って家を出る。 (そしてこころのなかで、 「おかあさんも、いってらっしゃい」) そして心の中で、 「お母さんも、いってらっしゃい」 (とかえしている。) と返している。
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