まなづるとダァリヤ 4/4 宮沢賢治
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問題文
(よがあけはじめました。)
夜があけはじめました。
(そのあおじろいりんごのにおいのするうすあかりのなかで、)
その青白いりんごのにおいのするうすあかりのなかで、
(あかいだぁりやがいいました。)
赤いダァリヤがいいました。
(「ね、あたし、きょうはどんなにみえて。)
「ね、あたし、きょうはどんなに見えて。
(はやくいってくださいな。」)
早くいってくださいな。」
(きいろなだぁりやは、いくらあかいはなをみようとしても、)
黄色なダァリヤは、いくら赤い花を見ようとしても、
(ふらふらしたうすぐろいものがあるだけでした。)
ふらふらしたうす黒いものがあるだけでした。
(「まだよがあけないから、わかりませんわ。」)
「まだ夜があけないから、わかりませんわ。」
(あかいだぁりやは、まるでなきそうになりました。)
赤いダァリヤは、まるでなきそうになりました。
(「ほんとうをいってください。ほんとうをいってください。)
「ほんとうをいってください。ほんとうをいってください。
(あなたがた、わたしにかくしているんでしょう。)
あなたがた、わたしにかくしているんでしょう。
(くろいの。くろいの。」)
黒いの。黒いの。」
(「ええ、くろいようよ。)
「ええ、黒いようよ。
(だけどほんとうは、よくみえませんわ。」)
だけどほんとうは、よく見えませんわ。」
(「あらっ。なんだって、)
「あらっ。なんだって、
(あたしあかにくろのぶちなんていやだわ。」)
あたし赤に黒のぶちなんていやだわ。」
(そのときかおのきいろにとがったせいのひくい、)
そのとき顔の黄色にとがったせいのひくい、
(へんなさんかくのぼうしをかぶったひとが、)
へんな三角のぼうしをかぶった人が、
(ぽけっとにてをいれてやってきました。)
ポケットに手をいれてやってきました。
(そしてだぁりやのはなをみて、さけびました。)
そしてダァリヤの花を見て、さけびました。
(「あっ、これだ。これがおれたちのおやかたのもんだ。」)
「あっ、これだ。これがおれたちの親方の紋だ。」
(そしてぽきりと、えだをおりました。)
そしてポキリと、えだをおりました。
(あかいだぁりやはぐったりとなって、)
赤いダァリヤはぐったりとなって、
(そのてのなかにはいっていきました。)
その手のなかにはいっていきました。
(「どこへいらっしゃるのよ。どこへいらっしゃるのよ。)
「どこへいらっしゃるのよ。どこへいらっしゃるのよ。
(あたしにつかまってくださいな。どこへいらっしゃるのよ。」)
あたしにつかまってくださいな。どこへいらっしゃるのよ。」
(ふたつのだぁりやも、たまらずしゃくりあげながら、さけびました。)
ふたつのダァリヤも、たまらずしゃくりあげながら、さけびました。
(とおくからかすかに、あかいだぁりやのこえがしました。)
遠くからかすかに、赤いダァリヤの声がしました。
(そのこえもはるかにはるかにとおくなり、)
その声もはるかにはるかに遠くなり、
(いまはおかのふもとの、)
いまは丘のふもとの、
(やまならしのこずえのさやぎに、まぎれました。)
やまならしのこずえのさやぎに、まぎれました。
(そして、きいろなだぁりやのなみだのなかで、)
そして、黄色なダァリヤのなみだのなかで、
(ぎらぎらのたいようはのぼりました。)
ギラギラの太陽はのぼりました。
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