風の又三郎 10

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プレイ回数488難易度(4.1) 2708打 長文
九月四日 上の野原⑤
宮沢賢治 作 全文
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 Par100 3693 D+ 3.7 97.7% 706.1 2670 62 61 2024/02/20

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問題文

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(「おうい。」きりのなかからいちろうのにいさんのこえがしました。)

「おうい。」霧の中から一郎の兄さんの声がしました。

(かみなりもごろごろなっています。)

雷もごろごろ鳴っています。

(「おおい、かすけ。いるが。かすけ。」いちろうのこえもしました。)

「おおい、嘉助。いるが。嘉助。」一郎の声もしました。

(かすけはよろこんでとびあがりました。)

嘉助はよろこんでとびあがりました。

(「おおい。いる、いる。いちろう。おおい。」)

「おおい。いる、いる。一郎。おおい。」

(いちろうのにいさんといちろうが、とつぜん、めのまえにたちました。)

一郎の兄さんと一郎が、とつぜん、眼の前に立ちました。

(かすけはにわかになきだしました。)

嘉助はにわかに泣き出しました。

(「さがしたぞ。あぶながったぞ。すっかりぬれだな。どう。」)

「探したぞ。危ながったぞ。すっかりぬれだな。どう。」

(いちろうのにいさんは、なれたてつきでうまのくびをだいて、)

一郎の兄さんは、なれた手付きで馬の首を抱いて、

(もってきたくつわをすばやくうまのくちにはめました。)

もってきたくつわをすばやく馬のくちにはめました。

(「さあ、あべさ。」)

「さあ、あべさ。」

(「またさぶろうびっくりしたべぁ。」いちろうがさぶろうにいいました。)

「又三郎びっくりしたべぁ。」一郎が三郎にいいました。

(さぶろうはだまって、やっぱりきっとくちをむすんでうなずきました。)

三郎はだまって、やっぱりきっと口を結んでうなずきました。

(みんなはいちろうのにいさんについて、ゆるいけいしゃを、ふたつほどのぼりおりしました。)

みんなは一郎の兄さんについて、緩い傾斜を、二つ程昇り降りしました。

(それから、くろいおおきなみちについて、しばらくあるきました。)

それから、黒い大きな路について、暫らく歩きました。

(いなびかりがにどばかり、かすかにしろくひらめきました。)

稲光が二度ばかり、かすかに白くひらめきました。

(くさをやくにおいがして、きりのなかをけむりがほっとながれています。)

草を焼く匂がして、霧の中を煙がほっと流れています。

(いちろうのにいさんがさけびました。)

一郎の兄さんが叫びました。

(「おじいさん。いだ、いだ。みんないだ。」)

「おじいさん。いだ、いだ。みんないだ。」

(おじいさんはきりのなかにたっていて、)

おじいさんは霧の中に立っていて、

など

(「ああしんぱいした、しんぱいした。ああえがった。)

「ああ心配した、心配した。ああ好(エ)がった。

(おおかすけ。さむがべぁ、さあはいれ。」)

おお嘉助。寒がべぁ、さあ入れ。」

(といいました。)

といいました。

(かすけはいちろうとおなじように、やはりこのおじいさんのまごなようでした。)

嘉助は一郎と同じように、やはりこのおじいさんの孫なようでした。

(はんぶんにやけたおおきなくりのきのねもとに、)

半分に焼けた大きな栗の木の根もとに、

(くさでつくったちいさなかこいがあって、ちょろちょろあかいひがもえていました。)

草で作った小さな囲いがあって、チョロチョロ赤い火が燃えていました。

(いちろうのにいさんはうまをならのきにつなぎました。)

一郎の兄さんは馬を楢の木につなぎました。

(うまもひひんとないています。)

馬もひひんと鳴いています。

(「おおむぞやな。な、なんぼがないだがな。そのわろはきんざんほりのわろだな。)

「おおむぞやな。な、何ぼが泣いだがな。そのわろは金山堀りのわろだな。

(さあさあみんな、だんごたべろ。たべろ。な。)

さあさあみんな、団子たべろ。食べろ。な。

(いまこっちをやぐがらな。ぜんたいどこまでいってだった。」)

今こっちを焼ぐがらな。全体どこまで行ってだった。」

(「ささながねのおりくちだ。」といちろうのにいさんがこたえました。)

「笹長根の下り口だ。」と一郎の兄さんが答えました。

(「あぶなぃがった。あぶなぃがった。むこうさおりだらうまもひともそれっきりだったぞ。)

「危ぃがった。危ぃがった。むこうさ降りだら馬も人もそれっ切りだったぞ。

(さあかすけ、だんごたべろ。このわろもたべろ。さあさあ、こいづもたべろ。」)

さあ嘉助、団子喰べろ。このわろもたべろ。さあさあ、こいづも食べろ。」

(「おじいさん。うまおいでくるが。」といちろうのにいさんがいいました。)

「おじいさん。馬置いでくるが。」と一郎の兄さんがいいました。

(「うんうん。ぼくふくるど、まだやがましがらな。)

「うんうん。牧夫来るど、まだやがましがらな。

(したども、もすこしまで。またすぐはれる。ああしんぱいした。)

したども、も少し待で。またすぐ晴れる。ああ心配した。

(おれもとらこやまのしたまでいってみできた。)

俺も虎こ山の下まで行って見で来た。

(はあ、まんつよがった。あめもはれる。」)

はあ、まんつ好がった。雨も晴れる。」

(「けさほんとにてんきよがったのにな。」)

「今朝ほんとに天気好がったのにな。」

(「うん。またゆぐなるさ。あ、あめもってきたな。」)

「うん。また好(ユ)ぐなるさ。あ、雨漏ってきたな。」

(いちろうのにいさんがでていきました。てんじょうががさがさがさがさいいます。)

一郎の兄さんが出て行きました。天井がガサガサガサガサいいます。

(おじいさんがわらいながらそれをみあげました。)

おじいさんが笑いながらそれを見上げました。

(にいさんがまたはいってきました。)

兄さんがまたはいってきました。

(「おじいさん。あかるぐなった。あめぁはれだ。」)

「おじいさん。明るぐなった。雨ぁ霽(ハ)れだ。」

(「うんうん、そうが。さあみんなよっくひにあだれ、おらまたくさかるがらな。」)

「うんうん、そうが。さあみんなよっく火にあだれ、おらまた草刈るがらな。」

(きりがふっときれました。ひのひかりがさっとながれてはいりました。)

霧がふっと切れました。陽の光がさっと流れて入りました。

(そのたいようは、すこしにしのほうによってかかり、)

その太陽は、少し西の方に寄ってかかり、

(いくへんかのろうのようなきりが、にげおくれてしかたなしにひかりました。)

幾片かの蝋のような霧が、逃げおくれて仕方なしに光りました。

(くさからはしずくがきらきらおち、すべてのはもくきもはなも、)

草からは雫がきらきら落ち、総ての葉も茎も花も、

(ことしのおわりのひのひかりをすっています。)

今年の終りの陽の光を吸っています。

(はるかなにしのあおいのはらは、いまなきやんだようにまぶしくわらい、)

はるかな西の碧い野原は、今泣きやんだようにまぶしく笑い、

(むこうのくりのきはあおいごこうをはなちました。)

むこうの栗の木は青い後光を放ちました。

(みんなはもうつかれていちろうをさきにのはらをおりました。)

みんなはもう疲れて一郎をさきに野原をおりました。

(わきみずのところでさぶろうはやっぱりだまって、)

湧水のところで三郎はやっぱりだまって、

(きっとくちをむすんだままみんなにわかれて、)

きっと口を結んだままみんなに別れて、

(じぶんだけおとうさんのこやのほうへかえっていきました。)

じぶんだけお父さんの小屋の方へ帰って行きました。

(かえりながらかすけがいいました。)

帰りながら嘉助がいいました。

(「あいづやっぱりかぜのかみだぞ。かぜのかみのこっこだぞ。)

「あいづやっぱり風の神だぞ。風の神の子っ子だぞ。

(あそごさふたりしてすくってるんだぞ。」)

あそごさ二人して巣食ってるんだぞ。」

(「そだなぃよ。」いちろうがたかくいいました。)

「そだなぃよ。」一郎が高くいいました。

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