透明猫 1 海野十三

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声はすれども姿は見えず。青二はそんな猫らしき生物を拾ってきたが…
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1 りく 5657 A 5.7 97.7% 542.6 3143 73 47 2024/03/21

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問題文

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(がけしたのみち いつもどおりなれたがけしたをあるいていたせいじだった。)

【 崖下の道 】  いつも通りなれた崖下を歩いていた青二だった。

(がけのうえにはいいじゅうたくがならんでいた。あかいやねのようかんもすくなくない。)

崖の上にはいい住宅がならんでいた。赤い屋根の洋館もすくなくない。

(がけしたのみちの、がけとはんたいのほうは、ざっそうのはえしげったひくいつつみがしたのほうへ)

崖下の道の、崖と反対の方は、雑草のはえしげった低い堤が下の方へ

(おちこんでいて、そのむこうに、まっくろにこげたまくらぎりようのかきがある。そのなかには)

おちこんでいて、その向うに、まっ黒にこげた枕木利用の垣がある。その中には

(れーるがあって、きしゃがはしっている。 せいじは、このみちをまいにちのようにおうふく)

レールがあって、汽車が走っている。  青二は、この道を毎日のように往復

(する。それはほうそうきょくにはたらいているちちおやのために、ゆうしょくのべんとうをとどける)

する。それは放送局に働いている父親のために、夕食のべんとうをとどける

(ためだった。したがって、せいじのとおるのはゆうがたにかぎっていた。 そのひも)

ためだった。したがって、青二の通るのは夕方にかぎっていた。  その日も

(せいじは、べんとうをほうそうきょくのうらぐちのうけつけにとどけ、しゅえいのちちおやからえんぴつをいっぽん)

青二は、べんとうを放送局の裏口の受付にとどけ、守衛の父親から鉛筆を一本

(おだちんにもらい、それをぽけっとにいれて、がけしたのみちをひっかえして)

おだちんにもらい、それをポケットにいれて、崖下の道を引っかえして

(いったのである。 あたりはもう、うすぐらくなっていた。)

いったのである。  あたりはもう、うすぐらくなっていた。

(まだはるはあさく、そしてそのひはくもっていて、にしぞらにみつうんがたれこみ、ひがはやく)

まだ春は浅く、そしてその日は曇っていて、西空に密雲がたれこみ、日が早く

(くれかけていた。 せいじは、すきなうたを、かたっぱしからくちぶえでふいて、)

暮れかけていた。  青二は、すきな歌を、かたっぱしから口笛で吹いて、

(いいきもちであるいていった。 そのとき、みちばたで、「にゃーお」と、ねこの)

いい気持で歩いていった。  そのとき、道ばたで、「にゃーお」と、猫の

(なきこえがした。 せいじはねこがだいすきだった。このあいだまで、せいじのいえにもみいと)

なき声がした。  青二は猫が大好きだった。この間まで、青二の家にもミイと

(いうねこがいたが、それはきんじょのいぬのむれにかこまれて、むざんにもかみころされて)

いう猫がいたが、それは近所の犬の群れにかこまれて、むざんにもかみ殺されて

(しまった。せいじはそのとき、わあわあとないたものだ。みいがころされてから、)

しまった。青二はそのとき、わあわあと泣いたものだ。ミイが殺されてから、

(せいじのいえにはねこがいない。 「にゃーお」またねこは、みちばたでないた。がけしたの)

青二の家には猫がいない。 「にゃーお」また猫は、道ばたで鳴いた。崖下の

(くさむらのなかだった。 せいじはくちぶえをふくのをやめて、ねこのなきごえのするほうへ)

草むらの中だった。  青二は口笛を吹くのをやめて、猫の鳴き声のする方へ

(ちかづいた。 が、ねこのすがたはみえなかった。どこへにげこんだのだろうと)

近づいた。  が、猫の姿は見えなかった。どこへにげこんだのだろうと

(おもっていると、また「にゃーお」とねこはないた。 せいじはぎくりとした。)

思っていると、また「にゃーお」と猫はないた。  青二はぎくりとした。

など

(というのは、ねこのないたのはかれがくさむらのほうへかおをつきだしているそのすぐ)

というのは、猫のないたのは彼が草むらの方へ顔をつきだしているそのすぐ

(はなのさきともいっていいほどのちかくだったからである。 しかも、ねこのすがたは)

鼻の先ともいっていいほどの近くだったからである。  しかも、猫の姿は

(みえなかった。 せいじは、うしろへみをひいて、かおいろをかえた。ふしぎなこと)

見えなかった。  青二は、うしろへ身をひいて、顔色をかえた。ふしぎなこと

(もあればあるものだ。たしかにねこのなきごえがするのにすがたがみえないのである。)

もあればあるものだ。たしかに猫のなき声がするのに姿が見えないのである。

(「にゃーおん」ねこはまたないた。せいじは、ぶるっとふるえた。かれは、あることを)

「にゃーおん」猫はまたないた。青二は、ぶるっとふるえた。彼は、あることを

(おもいついたのだ。 (これはひょっとすると、しんだみいのたましいがあらわれ)

思いついたのだ。 (これはひょっとすると、死んだミイのたましいがあらわれ

(たのではないだろうか) しにんのたましいがでてくるはなしは、いくどもきいた)

たのではないだろうか)  死人のたましいが出てくる話は、いくどもきいた

(ことがある。しかししんだねこのたましいがでてきたはなしは、あまりきいたことが)

ことがある。しかし死んだ猫のたましいが出てきた話は、あまりきいたことが

(なかった。でも、いまはそうとしかかんがえようがないのだった。 「おいみいかい」)

なかった。でも、今はそうとしか考えようがないのだった。 「おいミイかい」

(せいじは、おもいきって、ふるえるこえで、そういって、こえをかけた。)

青二は、思いきって、ふるえる声で、そういって、声をかけた。

(「にゃーお」へんじが、おなじところからきこえた。 「あっ!」せいじは、おどろき)

「にゃーお」返事が、同じところからきこえた。 「あっ!」青二は、おどろき

(のこえをあげて、そのばにすくんでしまった。というわけは、かれはそのとき、)

の声をあげて、その場にすくんでしまった。というわけは、彼はそのとき、

(くさのうえにふたつのひかるものがういているのをみつけたからである。 それは)

草の上に二つの光るものがういているのを見つけたからである。  それは

(なんだか、えたいのしれないものだった。ただぴかぴかとひかって、ぎょうぎよく)

なんだか、えたいの知れないものだった。ただぴかぴかと光って、行儀よく

(ふたつがならんでいた。おおきさはらむねのがらすだまをよっついつつあわせたぐらい)

二つがならんでいた。大きさはラムネのガラス玉を四つ五つあわせたぐらい

(あって、ぜんたいはうすあおく、そしてまんなかのところがきいろで、そのまたちゅうしんの)

あって、全体はうす青く、そしてまん中のところが黄色で、そのまた中心の

(ところがくろかった。 (めだまのようだが、いったいなんだろう))

ところが黒かった。 (目玉のようだが、いったいなんだろう)

(とたんに、また「にゃーおん」とあまえるようなこえがきこえた。たしかにその)

とたんに、また「にゃーおん」とあまえるような声がきこえた。たしかにその

(ふたつのたまのすぐそばからこえがでたようである。 せいじは、こわいはこわいが、)

二つの玉のすぐそばから声が出たようである。  青二は、こわいはこわいが、

(そのひかったふたつのしょうたいをみきわめないではいられなかった。そこで、かれはゆうきを)

その光った二つの正体を見きわめないではいられなかった。そこで、彼は勇気を

(だして、くさむらのなかへふみこむと、りょうてでそのたまをぎゅっとつかもうとーー。)

出して、草むらの中へふみこむと、両手でその玉をぎゅっとつかもうと――。

(「うわっ」せいじは、いそいでてをひくと、そのばにとびあがった。たまをつかむ)

「うわっ」青二は、いそいで手を引くと、その場にとびあがった。玉をつかむ

(まえに、てのひらが、ごそごそとするけのようなものにふれたからであった。)

前に、掌が、ごそごそとする毛のようなものにふれたからであった。

(よっぽどそのへんでやめて、にげだそうとおもったけれどもともとせいじは、)

よっぽどそのへんでやめて、逃げだそうと思ったけれどもともと青二は、

(ものずきなたちだったから、ふみとどまった。そしてもういちど、そのふたつのたまの)

ものずきなたちだったから、ふみとどまった。そしてもう一度、その二つの玉の

(ほうへりょうてをもっていった。 「あ、ーー」ふしぎなてざわりを、せいじは、かんじた)

方へ両手をもっていった。 「あ、――」ふしぎな手ざわりを、青二は、感じた

(けのみっせいしたどうぶつのあたまとおもわれるものに、ふれたからであった。)

毛の密生した動物の頭と思われるものに、ふれたからであった。

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