日本婦道記 春三たび 山本周五郎  ⑦

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伊緒は和地家に嫁いで間もないが、夫・伝四郎が戦に行くことになる。

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(としがあけてうめのさきはじめるころ、)

年があけて梅の咲きはじめる頃、

(いくのすけはこころみにけんどうのけいこにでてみた、)

郁之助はこころみに剣道の稽古に出てみた、

(ぐあいがよかったのでやすみやすみつづけたが、)

具合がよかったので休み休みつづけたが、

(さくらのじぶんになってかぜをひきこんだのが、なかなかよくならず、)

桜の時分になって風邪をひきこんだのが、なかなかよくならず、

(あせるほどこじれるばかりで、ついにまたとこについてしまい、)

あせるほどこじれるばかりで、ついにまた床についてしまい、

(さらにそのとしのはげしいあつさにあって)

さらにその年のはげしい暑さにあって

(いしゃもくびをかしげるほどすいじゃくしてしまった。)

医者も首をかしげるほど衰弱してしまった。

(そのぜんごからいおにむこをとるはなしがではじめた。)

その前後から伊緒に婿をとるはなしが出はじめた。

(ひらたげんばがはじめにそのそうだんにきた、)

平田玄蕃がはじめにその相談に来た、

(じっかのしんぞくのものもしばしばきてはしゅうとめとあった、)

実家の親族の者もしばしば来ては姑と会った、

(いくのすけどのにまんいちのことがあるといえがたえる、)

郁之助どのに万一のことがあると家が絶える、

(いおはまだはたちまえだし、これにむこをとって)

伊緒はまだ二十まえだし、これに婿をとって

(かとくをきめておくのがよくはないか、)

家督をきめておくのがよくはないか、

(さいわいにさんのぞむものもあるから。)

さいわい二三のぞむ者もあるから。

(そういうはなしもあったが、いおはまったくむかんしんのようすだった、)

そういう話もあったが、伊緒はまったく無関心のようすだった、

(あるときまたげんばがおとずれてきて、)

あるときまた玄蕃がおとずれて来て、

(しゅうとめとしばらくはなしあったのちかのじょがよばれた。)

姑としばらく話し合ったのちかの女が呼ばれた。

(はなしはしゅうとめがした、そしてげんばがしんぞくのいけんをそばからつけくわえた、)

はなしは姑がした、そして玄蕃が親族の意見をそばからつけ加えた、

(いおはだまってきいていたが、)

伊緒は黙って聞いていたが、

(ふたりのはなしがおわるとしずかにげんばにむかってといかえした。)

ふたりの話が終るとしずかに玄蕃にむかって問いかえした。

など

(「おはなしはよくわかりました、)

「おはなしはよくわかりました、

(それででんしろうのことはどうなるのでございますか」)

それで伝四郎のことはどうなるのでございますか」

(「でんしろうどののこととは」)

「伝四郎どののこととは」

(「あまくさじんにてゆくえしれず、せいしのほどもわからぬ)

「天草陣にてゆくえ知れず、生死のほどもわからぬ

(ということではございませんか、おっとのせいしがわからぬのに、)

ということではございませんか、良人の生死がわからぬのに、

(つまがごふをとるというはなしがございましょうか」)

妻が後夫をとるという話がございましょうか」

(げんばははたとことばにつまった、いおはこみあげてくるかんじょうをおさえながら、)

玄蕃ははたと言葉につまった、伊緒はこみあげてくる感情を抑えながら、

(「そのことがはっきりいたしましてからなれば、)

「そのことがはっきり致しましてからなれば、

(どのようなおはなしもまたうけたまわりましょう、)

どのようなおはなしもまた承わりましょう、

(それまではごむようにおねがいもうします」)

それまではご無用にお願い申します」

(そういってざをしりぞいてしまった。)

そういって座をしりぞいてしまった。

(そのとしのあきからふゆへかけては、まるでしれんのようなありさまだった。)

その年の秋から冬へかけては、まるで試練のような有様だった。

(にひゃくとおかまえにぼうふううがあって、いねがふきたおされると、)

二百十日まえに暴風雨があって、稲が吹き倒されると、

(そこへおっかけてこうずいがきた、)

そこへ追っかけて洪水がきた、

(もともとおおがきのふきんはすいがいにみまわれることがおおく、)

もともと大垣の付近は水害にみまわれることが多く、

(しろそのものもわじゅう(かせんのはんらんをふせぐためにしゅういへかくをつくったもの))

城そのものも輪中(河川の氾濫を防ぐために周囲へ郭をつくったもの)

(にあるほどで、いちどこうずいとなるとひがいはさんたんたるものになる。)

にあるほどで、いちど洪水となると被害はさんたんたるものになる。

(わちけのごおんでんもかぜでふきたおされたところへみずをかぶり、)

和地家の御恩田も風で吹き倒されたところへ水をかぶり、

(そのとしはついにひとつぶのしゅうかくもなしにおわった、)

その年はついに一粒の収穫もなしに終った、

(またいくのすけはだんだんとすいじゃくがますばかりで、)

また郁之助はだんだんと衰弱が増すばかりで、

(いやくのついえだけでもぶにすぎたおもにだった、)

医薬の費えだけでも分に過ぎた重荷だった、

(それでわずかでもそのついえをたすけようと、)

それで僅かでもその費えを助けようと、

(いおはよるしごとにかみすきのわざをならい、)

伊緒は夜仕事に紙漉きのわざをならい、

(いてるよなよな、すいそうのこおりをやぶってしごとをはげんだ。)

凍てる夜な夜な、水槽の氷を破ってしごとをはげんだ。

(またとしがあけて、じゅうたいのままいくのすけははるをむかえた。)

また年があけて、重態のまま郁之助は春を迎えた。

(そしてにがつにじゅうごにちに、ひさしくみえなかったひらたげんばがおとずれてきた、)

そして二月二十五日に、久しくみえなかった平田玄蕃がおとずれて来た、

(これまでのようすとはちがって、なにやらはればれとしたかおつきをしていた。)

これまでのようすとは違って、なにやらはればれとした顔つきをしていた。

(「きょうはきっぽうをもってまいりました」かれはあいさつもそこそこに、)

「今日は吉報をもってまいりました」かれは挨拶もそこそこに、

(そういっていおをそのざへまねいた、)

そう云って伊緒をその座へまねいた、

(「おかみのおぼしめしで、このにじゅうしちにちに)

「お上のおぼしめしで、この二十七日に

(あまくさじんでうちじにをしたもののさんねんきのほうかいがとりおこなわれる、)

天草陣で討死をした者の三年忌の法会がとりおこなわれる、

(それにあたってわちでんしろうどのもあらためてうちじにということにきまり、)

それに当って和地伝四郎どのもあらためて討死ということにきまり、

(ぐんかんにしるされたうえしょくろくごかぞうのおさたがでた」)

軍鑑に記されたうえ食禄御加増の御沙汰が出た」

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