怪人二十面相48 江戸川乱歩

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プレイ回数1971難易度(5.0) 2683打 長文
少年探偵団シリーズ1作目

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問題文

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(「まちたまえ、ぼくをどうしようというのだ」)

「待ち給え、僕をどうしようというのだ」

(あけちはまどをせにして、きっとみがまえました。 「わからないかね。)

明智は窓を背にして、キッと身構えました。 「分からないかね。

(ほら、きみのあしもとをごらん。ぼくのにもつにしてはすこしおおきすぎるとらんくが)

ほら、君の足元をご覧。僕の荷物にしては少し大き過ぎるトランクが

(おいてあるじゃないか。なかはからっぽだぜ。つまりきみのかんおけなのさ。このふたりの)

置いてあるじゃないか。中は空っぽだぜ。つまり君の棺桶なのさ。この二人の

(ぼーいくんが、きみをいま、そのとらんくのなかへまいそうしようってわけさ。ははは・・・・・・。)

ボーイ君が、君を今、そのトランクの中へ埋葬しようって訳さ。ハハハ……。

(さすがのめいたんていも、ちっとはおどろいたかね。ぼくのぶかのものが、ほてるのぼーいに)

流石の名探偵も、ちっとは驚いたかね。僕の部下の者が、ホテルのボーイに

(はいりこんでいようとはすこしいがいだったねえ。 いや、きみ、こえをたてたって)

入り込んでいようとは少し意外だったねえ。  いや、君、声をたてたって

(むだだよ。りょうどなりとも、ぼくのかりきりのへやなんだ。それからねんのために)

無駄だよ。両隣とも、僕の借り切りの部屋なんだ。それから念の為に

(いっておくがね、ここにいるぼくのぶかはふたりきりじゃない。じゃまの)

言っておくがね、ここにいる僕の部下は二人きりじゃない。邪魔の

(はいらないように、ろうかにもちゃんとみはりばんがついているんだぜ」)

入らないように、廊下にもちゃんと身張り番が付いているんだぜ」

(ああ、なんというふかくでしょう。めいたんていは、まんまとてきのわなにおちいったのです。)

ああ、何という不覚でしょう。名探偵は、まんまと敵の罠に陥ったのです。

(それとしりながら、このんでひのなかへとびこんだようなものです。これほどよういが)

それと知りながら、好んで火の中へ飛び込んだようなものです。これほど用意が

(ととのっていては、もうのがれるすべはありません ちのきらいなにじゅうめんそうのことですから)

整っていては、もう逃れる術はありません  血の嫌いな二十面相の事ですから

(まさかいのちをうばうようなことはしないでしょうけれど、なんといっても、ぞくにとっては)

まさか命を奪うような事はしないでしょうけれど、何といっても、賊にとっては

(けいさつよりもじゃまになるあけちこごろうです。とらんくのなかへとじこめて、)

警察よりも邪魔になる明智小五郎です。トランクの中へ閉じ込めて、

(どこかひとしれぬばしょへはこびさり、はくぶつかんのしゅうげきをおわるまで、とりこにしておこう)

何処か人知れぬ場所へ運び去り、博物館の襲撃を終わるまで、虜にしておこう

(というかんがえにちがいありません。 ふたりのおおおとこはもんどうむえきとばかり、)

という考えに違いありません。  二人の大男は問答無益とばかり、

(あけちのしんぺんにせまってきましたが、いまにもとびかかろうとして、ちょっと)

明智の身辺に迫ってきましたが、今にも飛び掛かろうとして、ちょっと

(ためらっております。めいたんていのみにそなわるいりょくにうたれたのです。)

躊躇っております。名探偵の身に備わる威力にうたれたのです。

(でも、ちからではふたりにひとり、いや、3にんにひとりなのですから、あけちこごろうが)

でも、力では二人に一人、いや、三人に一人なのですから、明智小五郎が

など

(いかにつよくても、かないっこはありません。ああ、かれはきちょうそうそう、はやくも)

いかに強くても、敵いっこはありません。ああ、彼は帰朝そうそう、早くも

(このだいとうぞくのとりことなり、たんていにとってさいだいのちじょくをうけなければ)

この大盗賊の虜となり、探偵にとって最大の恥辱を受けなければ

(ならないうんめいなのでしょうか。ああ、ほんとうにそうなのでしょうか。)

ならない運命なのでしょうか。ああ、本当にそうなのでしょうか。

(しかし、ごらんなさい、われらのめいたんていは、このききゅうにさいしても、やっぱり)

しかし、ご覧なさい、我らの名探偵は、この危急に際しても、やっぱり

(あのほがらかなえがおをつづけているではありませんか。そして、そのえがおが、)

あの朗らかな笑顔を続けているではありませんか。そして、その笑顔が、

(おかしくてたまらないというように、だんだんくずれてくるではありませんか。)

可笑しくて堪らないというように、段々崩れてくるではありませんか。

(「ははは・・・・・・」 わらいとばされて、ふたりのぼーいは、きつねにでも)

「ハハハ……」  笑い飛ばされて、二人のボーイは、キツネにでも

(つままれたようにくちをぽかんとひらいて、たちすくんでしまいました。 「あけちくん、)

つままれたように口をポカンと開いて、立ち竦んでしまいました。 「明智君、

(からいばりはよしたまえ。なにがおかしいんだ。それともきみは、おそろしさに)

空威張りはよし給え。何が可笑しいんだ。それとも君は、恐ろしさに

(きでもちがったのか」 にじゅうめんそうはあいてのしんいをはかりかねて、ただどくぐちを)

気でも違ったのか」  二十面相は相手の真意を図りかねて、ただ毒口を

(たたくほかはありませんでした。 「いや、しっけい、しっけい、つい、きみたちのおおまじめな)

叩く外はありませんでした。 「いや、失敬、失敬、つい、君達の大真面目な

(おしばいがおもしろかったものだからね。だが、ちょっときみ、ここへきてごらん。)

お芝居が面白かったものだからね。だが、ちょっと君、ここへ来てごらん。

(みょうなものがみえるんだから」 「なにがみえるもんか。そちらはぷらっとほーむの)

妙なものが見えるんだから」 「何が見えるもんか。そちらはプラットホームの

(やねばかりじゃないか。へんなことをいっていっすんのがれをしようなんて、あけちこごろうも)

屋根ばかりじゃないか。変な事を言って一寸逃れをしようなんて、明智小五郎も

(もうろくしたもんだねえ」 でも、ぞくは、なんとなくきがかりで、まどのほうへ)

耄碌したもんだねえ」  でも、賊は、何となく気掛かりで、窓の方へ

(ちかよらないではいられませんでした。 「ははは・・・・・・、もちろんやねばかりさ。)

近寄らないではいられませんでした。 「ハハハ……、もちろん屋根ばかりさ。

(だが、そのやねのむこうにみょうなものがいるんだ。ほらね、こちらのほうだよ」)

だが、その屋根の向こうに妙なものがいるんだ。ほらね、こちらの方だよ」

(あけちはゆびさしながら、 「やねとやねとのあいだから、ちょっとみえている)

明智は指差しながら、 「屋根と屋根との間から、ちょっと見えている

(ぷらっとほーむに、くろいものがうずくまっているだろう。こどものようだね。)

プラットホームに、黒いものが蹲っているだろう。子どものようだね。

(ちいさなぼうえんきょうで、しきりとこのまどをながめているじゃないか。あのこども、)

小さな望遠鏡で、頻りとこの窓を眺めているじゃないか。あの子ども、

(なんだかみたようなかおだねえ」)

何だか見たような顔だねえ」

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