吸血鬼

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投稿者投稿者桃仔いいね3お気に入り登録1
プレイ回数6543難易度(5.0) 5474打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 KMS 7844 8.3 93.8% 650.3 5462 361 74 2024/02/04
2 zero 5967 A+ 6.2 95.5% 874.0 5472 256 74 2024/03/09
3 みき 5024 B+ 5.3 94.6% 1020.6 5434 306 74 2024/03/20
4 ねね 4152 C 4.2 97.4% 1286.3 5484 142 74 2024/02/04
5 masuaya 3448 D 3.6 93.7% 1459.4 5390 357 74 2024/03/16

関連タイピング

問題文

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(さくしゃのことば)

作者の言葉

(このものがたりのしゅじんこうは、かれのばるかんちほうのでんせつ きゅうけつき にもひすべき、じんかいの)

この物語の主人公は、彼のバルカン地方の伝説『吸血鬼』にも比すべき、人界の

(あくまである。いちどまいそうされたしにんがおにとかして、よなよなはかばをさまよいいで、)

悪魔である。一度埋葬された死人が鬼と化して、夜な夜な墓場をさまよい出で、

(じんかにしのびいって、すいみんちゅうのにんげんのいきちをすいとり、ふかしぎなしごのせいかつを)

人家に忍び入って、睡眠中の人間の生血を吸い取り、不可思議な死後の生活を

(つづけるばあいがある。これがでんせつのきゅうけつきだ。ひがいしゃがちをすわれているさいちゅうに)

続ける場合がある。これが伝説の吸血鬼だ。被害者が血を吸われている最中に

(めざめたときは、きゅうけつきとのあいだにみのけもよだつとうそうがおこなわれるが、おおくは)

目覚めた時は、吸血鬼との間に身の毛もよだつ闘争が行われるが、多くは

(めざめることなく、よごとにいきちをすいとられ、やせおとろえてしんでいく。)

目覚めることなく、夜毎に生血を吸いとられ、痩せ衰えて死んで行く。

(このよういをふせぐために、ひとびとがそれらしいはかをあばきひつぎをひらいてみると、きゅうけつきと)

この妖異を防ぐ為に、人々がそれらしい墓をあばき棺を開いて見ると、吸血鬼と

(かしたしにんは、いきいきとこえふとり、けっしょくがよく、つめやとうはつがまいそうとうじよりもながく)

化した死人は、生々と肥え太り、血色がよく、爪や頭髪が埋葬当時よりも長く

(のびているので、いっけんしてみわけることができる。きゅうけつきとわかると、かれらは)

伸びているので、一見して見分けることが出来る。吸血鬼と分ると、彼等は

(くいをもっていちどしんだそのしたいをもういちどつきころすのだが、そのとききゅうけつきはいっしゅ)

杭を以って一度死んだその死体をもう一度突き殺すのだが、その時吸血鬼は一種

(いようのひつうなさけびごえをはっし、め、くち、みみ、はな、ひふのきこうなどから、)

異様の悲痛な叫声を発し、目、口、耳、鼻、皮膚の気孔などから、

(いけるがごときせんけつをほとばしらせてついにまったくしめつする。というのだ。)

生けるが如き鮮血を迸らせてついに全く死滅する。というのだ。

(わたしのかこうとするじんかいのあくまのしょうがいは、どこともしれぬいんぴのかくれがから、)

私の書こうとする人界の悪魔の生涯は、どことも知れぬ隠秘の隠れ家から、

(あおじろきしょくしゅをのばしてうつくしいおんなをおそい、おそわれたものは、そこしれぬきょうふのために)

青白き触手をのばして美しい女を襲い、襲われたものは、底知れぬ恐怖のために

(すさまじきとうそう、ついにあくまはしょうたいをあばかれようじゅつをうしなって、みのけもよだつ)

すさまじき闘争、ついに悪魔は正体をあばかれ妖術を失って、身の毛もよだつ

(さいごをとげるまで、すなわち きゅうけつき いちだいきにそういないのである。)

最期をとげるまで、即ち『吸血鬼』一代記に相違ないのである。

(けっとう)

決闘

(てぃーてーぶるのうえにわいんぐらすがにこ、りょうほうともみずのようにとうめいなえきたいがはちぶんめほどずつ)

茶卓子の上にワイングラスが二個、両方とも水の様に透明な液体が八分目程ずつ

(はいっている。それが、まるでせいみつなけいりょうきではかったように、きちんとはちぶんめ)

入っている。それが、まるで精密な計量器で計った様に、キチンと八分目

など

(なのだ。ふたつのぐらすはまったくどうけいだし、それらのいちも、てーぶるの)

なのだ。二つのグラスは全く同形だし、それらの位置も、テーブルの

(ちゅうしんてんからのきょりが、ものさしをあてたようにいちぶいちりんちがっていない。かりにいじきたない)

中心点からの距離が、物差を当てた様に一分一厘違っていない。仮に意地汚い

(こどもがあって、どちらのぐらすをとったほうがりえきかと、めをおおきくして)

子供があって、どちらのグラスを取った方が利益かと、目を大きくして

(みくらべたとしても、かれはいつまでたってもせんたくができなかったにそういない。)

見比べたとしても、彼はいつまでたっても選択が出来なかったに相違ない。

(ふたつのぐらすのないようから、がいけい、いちにいたるまでの、あまりにしんけいしつなきんとうが、)

二つのグラスの内容から、外形、位置に至るまでの、余りに神経質な均等が、

(なにかしらいようなかんじである。さて、このてーぶるをなかにはさんで、にきゃくの)

何かしら異様な感じである。さて、このテーブルを中に挟んで、二脚の

(おおがたとういすが、これもまたせいぜんと、まったくたいとうのいちにむきあい、それにふたりの)

大型籐椅子が、これもまた整然と、全く対等の位置に向き合い、それに二人の

(おとこが、やっぱりにんぎょうみたいにぎょうぎよく、きちんとこしをかけている。こうようには)

男が、やっぱり人形みたいに行儀よく、キチンと腰をかけている。紅葉には

(だいぶまのある、しょしゅうのしおばらおんせん、しおのゆaりょかんさんかいのろうかである。あけはなった)

大分間のある、初秋の鹽原温泉、鹽の湯A旅館三階の廊下である。開放った

(がらすどのそとはいちぼうのみどり、がんかにはゆつぼへのいなずまがたろうかのながいやね、)

ガラス戸の外は一望の緑、眼下には湯壺への稲妻型廊下の長い屋根、

(こんもりしげったじゅしのそこに、かのまたがわのながれがいんけんする。のうずいがじーんと)

こんもり茂った樹枝の底に、鹿股川の流れが隠顕する。脳髄がジーンと

(まひしていくような、たえまなきはやせのひびき。ふたりのおとこは、なつのすえからずっとこの)

麻痺して行く様な、絶え間なき早瀬の響き。二人の男は、夏の末からずっとこの

(やどにいつづけのとうじきゃくだ。ひとりはさんじゅうごろくさいの、あおじろいかおがすこしまのびして)

宿に居続けの湯治客だ。一人は三十五六歳の、青白い顔が少し間延びして

(みえるほどおもながで、したがって、やせがたでせのたかいちゅうねんしんし。いまひとりは、まだ)

見える程面長で、従って、痩せ型で背の高い中年紳士。今一人は、まだ

(にじゅうしごさいのびせいねん、いやびしょうねんといったほうがてきとうかもしれぬ。てどりはやく)

二十四五歳の美青年、いや美少年といった方が適当かも知れぬ。手取早く

(けいようすれば、えいがのりちゃーどばーせるめすをややにほんかしたようなかおつきの、)

形容すれば、映画のリチャード・バーセルメスをやや日本化した様な顔つきの、

(りこうそうではあるが、むしろあどけないせいねんだ。ふたりとも、すこしひえびえしてきたので)

利巧相ではあるが、寧ろあどけない青年だ。二人共、少し冷え冷えして来たので

(ゆかたのうえにやどのどてらをはおっている。ふたつのわいんぐらすがいような)

浴衣の上に宿のドテラを羽織っている。二つのワイングラスが異様な

(ばかりでなく、それをみつめているこのふたりのようすもひどくいようである。)

ばかりでなく、それを見つめているこの二人の様子もひどく異様である。

(かれらはこころのどうようをそとにあらわすまいといっしょうけんめいになっているけれど、かおはあおざめ、)

彼等は心の動揺を外に現わすまいと一生懸命になっているけれど、顔は青ざめ、

(くちびるはちのけがうせてからからにかわき、こきゅうははずみ、ぐらすにそそがれた)

唇は血の気が失せてカラカラにかわき、呼吸は喘み、グラスにそそがれた

(めだけがへんにかがやいている。さあ、きみがさいしょえらぶのだ。このこっぷのどちらかを)

目だけが変に輝いている。「サア、君が最初選ぶのだ。このコップのどちらかを

(てにとりたまえ。ぼくはやくそくにしたがって、きみがここへくるまでに、このうちのひとつへ)

手に取り給え。僕は約束に従って、君がここへ来るまでに、この内の一つへ

(ちしりょうのじぁーるをまぜておいた。・・・・・・ぼくはちょうごうしゃだ。ぼくにこっぷをえらぶけんりは)

致死量のジァールを混ぜて置いた。……僕は調合者だ。僕にコップを選ぶ権利は

(ない。きみにわからぬよう、めじるしをつけておかなかったとはいえないからだ)

ない。君に分らぬ様、目印をつけて置かなかったとはいえないからだ」

(ねんちょうのしんしは、かすれたひくいこえで、したがもつれるのをさけるために、ゆっくり)

年長の紳士は、かすれた低い声で、舌がもつれるのを避けるために、ゆっくり

(ゆっくりいった。あいてのびせいねんはわずかにうなずいて、てーぶるのうえにめてをだした。)

ゆっくりいった。相手の美青年は僅かに肯いて、テーブルの上に右手を出した。

(おそろしいうんめいのぐらすをえらぶためにだ。まったくおなじにみえるふたつのぐらす。せいねんの)

恐ろしい運命のグラスを選ぶためにだ。全く同じに見える二つのグラス。青年の

(てがわずかにすんばかりみぎによるか、ひだりによるか、そのいちせつなのまぐれあたりに)

手が僅か二寸ばかり右に寄るか、左によるか、その一刹那のまぐれ当たりに

(よって、ないてもわめいてもとりかえしのつかぬせいしのうんめいがけっしてしまうのだ。)

よって、泣いてもわめいても取り返しのつかぬ生死の運命が決してしまうのだ。

(かわいそうなせいねんのひたいから、はなのあたまから、みるみるたまのあぶらあせがにじみだしてきた。)

可哀相な青年の額から、鼻の頭から、見る見る玉の膏汗がにじみ出して来た。

(かれのめてのゆびさきはくうをもがいて、どっちかのぐらすにちかづこうとあせっていた。)

彼の右手の指先は空をもがいて、どっちかのグラスに近づこうとあせっていた。

(しかし、こころはあせっても、ゆびさきがいうことをきかぬようにみえた。だが、そのあいだ、)

しかし、心はあせっても、指先がいうことを聞かぬ様に見えた。だが、その間、

(あいてのしんしとても、せいねんいじょうのだいくつうをあじわわねばならなかった。かれはどれが)

相手の紳士とても、青年以上の大苦痛を味わわねばならなかった。彼はどれが

(しのぐらす であるかを、ちゃんとしっていたからだ。せいねんのゆびがみぎにひだりに)

「死のグラス」であるかを、チャンと知っていたからだ。青年の指が右に左に

(まよいうごくにつれて、かれのいきづかいがかわった。しんぞうがやぶれるようにらんちょうしにおどった。)

迷い動くにつれて、彼の息使いが変った。心臓が破れる様に乱調子に躍った。

(はやくしたまえ しんしはたえがたくなってさけんだ。きみはひきょうだ。きみはぼくのひょうじょうから)

「早くし給え」紳士は耐え難くなって叫んだ。「君は卑怯だ。君は僕の表情から

(どちらがそのこっぷだかをよもうとしている。それはひきょうだ いわれてみると、)

どちらがそのコップだかを読もうとしている。それは卑怯だ」いわれて見ると、

(むいしきにではあったが、かれはあさましくも、あいてのひょうじょうのかすかなへんかをみきわめて)

無意識にではあったが、彼はあさましくも、相手の表情の幽かな変化を見極めて

(どくはいのほうをさけようとあせっているのにきづいた。それをしるとせいねんはちじょくのために)

毒杯の方を避けようと焦っているのに気附いた。それを知ると青年は恥辱の為に

(いっそうあおくなった。めをとじてください かれはどもりながらいった。)

一層青くなった。「目を閉じて下さい」彼はどもりながらいった。

(そんなにしてぼくのゆびさきのうごきをながめているあなたこそざんこくだ。ぼくはそのめが)

「そんなにして僕の指先の動きを眺めているあなたこそ残酷だ。僕はその目が

(こわいのです。とじてください、とじてください ちゅうねんしんしはなにもいわずりょうめを)

怖いのです。閉じて下さい、閉じて下さい」中年紳士は何もいわず両眼を

(とじた。めをあいていては、おたがいにくつうをますばかりであることが)

閉じた。目を開いていては、お互いに苦痛を増すばかりであることが

(わかったからだ。せいねんはいよいよどちらかのぐらすをてにとらねばならぬときがきた。)

分かったからだ。青年は愈々どちらかのグラスを手に取らねばならぬ時が来た。

(かんさんきのおんせんやどではあったが、ひとめがないではない。ぐずぐずしていてじゃまが)

閑散期の温泉宿ではあったが、人目がないではない。グズグズしていて邪魔が

(はいってはめんどうだ。かれはおもいきってぐっとめてをのばした。・・・・・・なんという)

入っては面倒だ。彼は思い切ってグッと右手を伸ばした。・・・・・・何という

(きみょうなけっとう!だが、こっかがそれをきんじているげんだいでは、これがのこされたゆいいつの)

奇妙な決闘!だが、国家がそれを禁じている現代では、これが残された唯一の

(けっとうしゅだんだ。むかしりゅうにつるぎやぴすとるをもちいたならば、あいてをたおしたしょうりしゃのほうが)

決闘手段だ。昔流に剣やピストルを用いたならば、相手を倒した勝利者の方が

(かえってさつじんはんとしてしょばつをうけなければならない。それではけっとうにならぬ。)

却って殺人犯として処罰を受けなければならない。それでは決闘にならぬ。

(そこでかんがえだされたこのしんじだいのげきやくけっとうだ。かれらはめいめい ひゃくさつ のゆいごんじょうを)

そこで考え出されたこの新時代の劇薬決闘だ。彼らは銘々「百殺」の遺言状を

(ちゃんとふところによういして、はいをのみほしたならば、そのままへやにかえって)

チャンとふところに用意して、杯を飲み干したならば、そのまま部屋に帰って

(ふとんのなかへもぐりこみ、しずかにしょうはいをまつやくそくであった。ゆいごんじょうはおたがいに)

蒲団の中へもぐり込み、静かに勝敗を待つ約束であった。遺言状はお互いに

(みせあって、いってんのぎまんもないことがたしかめられていた。)

見せ合って、一点の欺瞞もないことが確かめられていた。

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