吸血鬼8

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投稿者投稿者桃仔いいね3お気に入り登録
プレイ回数1689難易度(4.5) 4055打 長文 長文モード可
明智小五郎シリーズ
江戸川乱歩の作品です。句読点以外の記号は省いています。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 みき 5855 A+ 6.0 96.4% 663.3 4032 148 61 2024/03/24
2 zero 5845 A+ 6.0 96.2% 667.9 4063 159 61 2024/03/13

関連タイピング

問題文

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(それとはしらぬ、きゃくまのしずこ。ちんどんやのおんがくが、だんだんとおざかって、)

それとは知らぬ、客間の倭文子。チンドン屋の音楽が、段々遠ざかって、

(とうとうきこえなくなってしまったのに、いつまでたっても、しげるしょうねんが)

とうとう聞えなくなってしまったのに、いつまでたっても、茂少年が

(かえってこないので、ふとしんぱいになりだした。じょちゅうをよんで、もんぜんをさがさせて)

帰って来ないので、ふと心配になり出した。女中を呼んで、門前を探させて

(みたが、しげるはもちろん、あいけんのしぐまさえ、どこへいったのか、かげもかたちも)

見たが、茂は勿論、愛犬のシグマさえ、どこへ行ったのか、影も形も

(みえぬという。なんとやらただならぬかんじだ。しずこも、みたにも、めしつかいたちも、)

見えぬという。何とやら唯ならぬ感じだ。倭文子も、三谷も、召使達も、

(あおくなって、ていのないがいすみまでさがしまわったが、どこにもすがたはない。そこへ、)

青くなって、邸の内外隅まで探し廻ったが、どこにも姿はない。そこへ、

(しょようがあってがいしゅつしていた、うばのおなみがかえってきてもうしわけがないと)

所用があって外出していた、乳母のお波が帰って来て申訳がないと

(なきだすさわぎである。まさかちんどんやにつれさられたとはそうぞうもしなかったが)

泣き出す騒ぎである。まさかチンドン屋に連れ去られたとは想像もしなかったが

(こんなにさがしてもみつからぬところをみると、もしやひとさらいのしょぎょうではないかと、)

こんなに探しても見つからぬ所を見ると、若しや人さらいの所業ではないかと、

(だれのかんがえもそこへおちる。けいさつへとどけるか、いや、もうすこしまってみようと、)

誰の考えもそこへ落る。警察へ届けるか、イヤ、もう少し待って見ようと、

(ごたごたしているあいだに、じかんはようしゃなくたっていく。やがてひがくれて、)

ゴタゴタしている間に、時間は容赦なくたって行く。やがて日が暮れて、

(こがいがくらくなるにつれて、ふあんはつのるばかりだ。はてしもしれぬくらやみのなかを、)

戸外が暗くなるにつれて、不安は募るばかりだ。果しも知れぬ暗闇の中を、

(ははのなをよびながら、さまよっているしげるしょうねんのあわれなすがたがみえるようで、)

母の名を呼びながら、さまよっている茂少年の哀れな姿が見える様で、

(かなしいこえがきこえるようでしずこはもう、いてもたってもいられぬきもちである。)

悲しい声が聞える様で倭文子はもう、居ても立ってもいられぬ気持である。

(しばらくすると、もとのきゃくまにあつまって、ふあんなかおをみあわせていたしずこたちのところへ、)

暫くすると、元の客間に集まって、不安な顔を見合わせていた倭文子達の所へ、

(ひとりのしょせいが、まっさおになって、あわただしくかけこんできた。たしかにゆうかいです。)

一人の書生が、真っ青になって、惶しく駆け込んで来た。「確かに誘拐です。

(しぐまがかえってきました。こいつはぼっちゃんのために、こんなにきずつくまで)

シグマが帰って来ました。こいつは坊っちゃんの為に、こんなに傷つくまで

(ちゅうじつにたたかったのです しょせいのゆびさすどあのそとをみると、こうしのようなしぐまが、)

忠実に闘ったのです」書生の指さすドアの外を見ると、小牛の様なシグマが、

(ぜんしんあけにそまって、かなしいうなりごえをたてながら、ぐったりと)

全身あけに染まって、悲しいうなり声を立てながら、グッタリと

(よこたわっていた。はっはっという、せわしいこきゅう。だらりとたれたした、ともすれば)

横わっていた。ハッハッという、せわしい呼吸。ダラリと垂れた舌、ともすれば

など

(しろくひきつっていくめ。すうかしょにぱっくりくちをあいた、むごたらしいきずぐち。)

白くひきつって行く眼。数ヵ所にパックリ口を開いた、むごたらしい傷口。

(しずこは、ろうかにねそべっている、まっかなものをみたせつな、どこかとおいところで、)

倭文子は、廊下に寝そべっている、真赤なものを見た刹那、どこか遠い所で、

(おなじうんめいにあっている、いたいけなわがこのれんそうのために、ふらふらと)

同じ運命にあっている、いたいけな我が子の聯想の為に、フラフラと

(めまいがして、たおれそうになるのを、やっとこらえた。かのじょには、ちみどろの)

めまいがして、倒れ相になるのを、やっとこらえた。彼女には、血みどろの

(しぐまが、むごたらしくあえいでいるのが、いつまでたってもしげるしょうねんの、)

シグマが、むごたらしくあえいでいるのが、いつまでたっても茂少年の、

(のたうちまわるすがたにみえてしかたがなかった。はたやなぎけには、しつじのようなやくめを)

のたうち廻る姿に見えて仕方がなかった。畑柳家には、執事の様な役目を

(つとめている、さいとうというろうじんがいたのだけれど、あいにくふざいのために、)

勤めている、斎藤という老人がいたのだけれど、あいにく不在の為に、

(みたにがかわって、けいさつへでんわをかけ、じじょうをつげて、しげるしょうねんのそうさくをいらいした。)

三谷が代って、警察へ電話を掛け、事情を告げて、茂少年の捜索を依頼した。

(けいさつからは、かかりのじゅんさがでむくというへんじであったが、そのようけんをすませて、)

警察からは、係りの巡査が出向くという返事であったが、その用件をすませて、

(じゅわきをかけるかかけないに、またけたたましいべるがなった。)

受話器を掛けるか掛けないに、またけたたましいベルが鳴った。

(まだそのたくじょうでんわのまえにいたみたにが、ふたたびじゅわきをみみにあててふたことみこと)

まだその卓上電話の前にいた三谷が、再び受話器を耳に当てて二言三言

(うけこたえをしているうちに、かれのかおがまっさおになった。だれですの?)

うけ答えをしている内に、彼の顔が真青になった。「誰ですの?

(どこからですの?しずこがしんぱいにいきをはずませてたずねた。みたにはそうわぐちを)

どこからですの?」倭文子が心配に息をはずませて尋ねた。三谷は送話口を

(てでおさえて、ふりかえったが、ひどくいいにくそうにちゅうちょしている。)

手で押さえて、振返ったが、ひどくいい悪く相に躊躇している。

(なにかしんぱいなことですの?かまいません、はやくおっしゃってください しずこが)

「何か心配なことですの?構いません、早くおっしゃって下さい」倭文子が

(せきたてる。たしかにききおぼえがある。にせものではありません。あなたのおこさんが)

せき立てる。「確かに聞き覚がある。贋物ではありません。あなたのお子さんが

(じしんででんわぐちにでていらっしゃるのです。だが・・・・・・)

自身で電話口に出ていらっしゃるのです。だが・・・・・・」

(え、なんですって?しげるがでんわぐちへ?あのこはまだでんわのかけかたもよく)

「エ、何ですって?茂が電話口へ?あの子はまだ電話のかけ方もよく

(しりませんのに。・・・・・・でもきいてみますわ、あのこのこえは、あたしが)

知りませんのに。・・・・・・でも聞いて見ますわ、あの子の声は、あたしが

(いちばんよくしっているのです しずこはかけよって、まだちゅうちょしているみたにの)

一番よく知っているのです」倭文子は駆け寄って、まだ躊躇している三谷の

(てから、じゅわきをうばいとった。ええ、あたし、きこえて?かあさまよ。おまえ)

手から、受話器を奪い取った。「エエ、あたし、聞こえて?母さまよ。お前

(しげるちゃんなの?どこにいるの?ぼく、どこだか、わからないの。)

茂ちゃんなの?どこにいるの?」「ボク、ドコダカ、ワカラナイノ。

(わからないし、よそのおじさんがそばにいて、こわいかおして、)

ワカラナイシ、ヨソノオジサンガソバニイテ、コワイカオシテ、

(なにもいっては・・・・・・ばったりこえがきれた。とつぜん、そのこわいおじさんが)

ナニモイッテハ・・・・・・」バッタリ声が切れた。突然、その怖い小父さんが

(しょうねんのくちをてでふさいだらしいようすだ。まあ、ほんとうにしげるちゃんだわ。しげるちゃん。)

少年の口を手で塞いだらしい様子だ。「マア、本当に茂ちゃんだわ。茂ちゃん。

(しげるちゃん。さあ、はやくおはなし。かあさまよ。あたし、おまえのかあさまよ)

茂ちゃん。サア、早くお話し。母さまよ。あたし、お前の母さまよ」

(しんぼうづよくこえをかけていると、しばらくして、またしげるのたどたどしいこえがきこえてきた。)

辛抱強く声をかけていると、暫くして、また茂のたどたどしい声が聞えて来た。

(かあさま、ぼくを、かいもどしてください。ぼくは、あさって、よるの)

「カアサマ、ボクヲ、カイモドシテクダサイ。ボクハ、アサッテ、ヨルノ

(じゅうにじに、うえのこうえんの、としょかんうらに、います まあ、おまえ、)

十二ジニ、ウエノコウエンノ、トショカンウラニ、イマス」「マア、お前、

(なにをいっているの、おまえのそばにわるものがいて、おまえにそんなことをしゃべらせて)

何をいっているの、お前の側に悪者がいて、お前にそんなことを喋らせて

(いるのね。しげるちゃん。たったひとこと、たったひとことでいいから、いまいるばしょを)

いるのね。茂ちゃん。たった一言、たった一言でいいから、今いる場所を

(おっしゃい。さあ、どこにいるの?だが、しょうねんのこえは、まるでろうのように、)

おっしゃい。サア、どこにいるの?」だが、少年の声は、まるでろうの様に、

(しずこのことばをむしして、こどもらしくない、おそろしいことをしゃべっている。)

倭文子の言葉を無視して、子供らしくない、恐ろしいことを喋っている。

(そこへ、じゅうまんえん、おさつで、かあさまが、もっていらっしゃれば、)

「ソコヘ、十マンエン、オサツデ、カアサマガ、モッテイラッシャレバ、

(ぼくはかえれるの。じゅうまんえんおさつで。かあさまでなくちゃ、いけないの)

ボクハカエレルノ。十マンエンオサツデ。カアサマデナクチャ、イケナイノ」

(ああ、わかったわかった。しげるちゃんあんしんおし、きっとたすけてあげるからね)

「アア、分った分った。茂ちゃん安心おし、きっと助けてあげるからね」

(けいさつへ、いいつけると、おまえのこどもを、ころしてしまうぞ)

「ケイサツヘ、イイツケルト、オマエノコドモヲ、コロシテシマウゾ」

(ああ、なんということだ。おまえのこども というのは、はなしているしげるしょうねんじしんの)

アア、何ということだ。「お前の子供」というのは、話ている茂少年自身の

(ことではないか。さあ、へんじをしろ。へんじをしないと、こどもが、)

ことではないか。「サア、ヘンジヲシロ。ヘンジヲシナイト、コドモガ、

(いたいめにあうぞ そのことばがきれるかきれないに、わーっという、)

イタイメニアウゾ」その言葉が切れるか切れないに、ワーッという、

(かなしいこどものなきごえがきこえた。)

悲しい子供の泣き声が聞えた。

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