岡本かの子『酋長』

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投稿者投稿者由佳梨いいね2お気に入り登録
プレイ回数2044難易度(5.0) 3029打 長文
別荘を借りた朝子が掴み所のない少年と出会う小説。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 kanta 4828 B 5.0 95.5% 588.6 2981 139 41 2024/03/03
2 もっちゃん先生 4420 C+ 4.6 94.4% 644.3 3025 177 41 2024/02/04
3 ねね 3804 D++ 3.8 97.8% 779.8 3035 68 41 2024/03/11

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問題文

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(あさこがげんこうをかくためにくれからしんしゅんへかけて、ともだちからかりたべっそうは、とうきょうの)

朝子が原稿を書く為に暮れから新春へかけて、友達から貸りた別荘は、東京の

(きたはずれにあった。べっそうそのものはたいしたことはないが、べっそうのあるにわは)

北端れに在った。別荘そのものはたいしたことはないが、別荘のある庭は

(たいしたものだった。とうきょうでもくっしのなかであろう。そして、とかいのこういう)

たいしたものだった。東京でも屈指の中であろう。そして、都会のこういう

(めいえんがだんだんそうなるように、こうかいてきのせいしつをおび、はるからあきまでは、)

名園がだんだんそうなるように、公開的の性質を帯び、春から秋までは、

(いろいろなせつびをしてにゅうじょうしゃをあそばせるのである。しかし、ふゆはていれかたがた)

いろいろな設備をして入場者を遊ばせるのである。しかし、冬は手入れかたがた

(へいじょうしているので、まるでさんちゅうのしずけさだった。あさこがべっそうにうつると、すぐ)

閉場しているので、まるで山中の静けさだった。朝子が別荘に移ると、直ぐ

(にわもりのせがれの13になるしまきちがあさこをみにきた。「このおくさん、きにいった。)

庭守の忰の十三になる島吉が朝子を見に来た。「この奥さん、気に入った。

(ふふふ、これからいっしょにあそぼう、おくさん」あさこはあっけにとられてこの)

ふ ふ ふ、これから一緒に遊ぼう、奥さん」朝子はあっけにとられて此の

(しょうねんをみた。あさこにはこのしょうねんがばかかりこうかわからなかった。しょうねんはふしぎな)

少年を見た。朝子にはこの少年が馬鹿か利口か判らなかった。少年は不思議な

(こで、ちちおやのにわもりもむくちだったが、このしまきちは1そうむくちだった。だがくちを)

子で、父親の庭守も無口だったが、子の島吉は一層無口だった。だが口を

(ひらくと、ずばずばものをいった。あさこは、へんかのないにわもりを34だいもつづけて)

開くと、ずばずば物を言った。朝子は、変化のない庭守を三四代も続けて

(いると、1しゅのへんしつしゃがうまれるのではないかとおもった。ゆきもよいのそらでは)

いると、一種の変質者が生れるのではないかと思った。雪もよいの空では

(あるが、ひざしにはりのあるしょしゅんのあるあさであった。「おくさん、ながぐつをはこう。)

あるが、日差しに張りのある初春の或る朝であった。「奥さん、長靴を穿こう。

(くじゃくにえさをやりにいくんだ」しまきちは、おとこようのごむのながぐつをえんさきのくつぬぎのうえに)

孔雀に餌をやりに行くんだ」島吉は、男用のゴムの長靴を椽先の沓脱ぎの上に

(ならべた。「すそをうんとめくりよ。しもがふかくてよごれるよ」なるほどみちはしもばしらが)

並べた。「裾をうんとめくりよ。霜が深くて汚れるよ」なるほど径は霜柱が

(78すんもたっていて、ざくりざくりとあしがめりこむのでながぐつでなければ)

七八寸も立っていて、ざくりざくりと足が滅込むので長靴でなければ

(あるけないのだ。ほのかなさびたにわすみにいけとだんがいとがいくまがりにもつづいて、ながめの)

歩けないのだ。ほのかな錆びた庭隅に池と断崖とが幾曲りにも続いて、眺めの

(よいこだかみにはさじきやちゃざしきがあった。あさこは、なんじゅうねんか、なんびゃくねんかいぜん、)

よい小高見には桟敷や茶座敷があった。朝子は、何十年か、何百年か以前、

(にんげんがいよくをなにかによっておさえられたじだいに、にんげんのちからがしぜんをそうぞうするほうめんへ)

人間が意慾を何かによって押えられた時代に、人間の力が自然を創造する方面へ

(そそがれたいきづきが、このにわにせつせつかんじられた。「ここにいたちのけいていがしかけて)

注がれた息づきが、この庭に切々感じられた。「ここに鼬の係蹄が仕掛けて

など

(あるよ」「あれがひよどりをとらえるはごだ」そして、「きのこをはやすき」などとしまきちが)

あるよ」「あれが鵯を捉える羽子だ」そして、「茸を生やす木」などと島吉が

(ゆびさすのをみながら、これがとうきょうとはおもえなかった。つきひのないさんちゅうのせいかつの)

指さすのを見ながら、これが東京とは思えなかった。月日のない山中の生活の

(ようだ。「しまきちつぁん、がっこうにいってるの」「じんじょうのしまいだけでやめた」)

ようだ。「島吉つぁん、学校に行ってるの」「尋常のしまいだけで止めた」

(「なにに、なりたいの」すると、このしょうねんはこうりときょうらくについてださんがすみやかな)

「何に、なり度いの」すると、この少年は功利と享楽に就て打算が速かな

(げんだいじんのがんしょくのうごきをちょっとみせたが、すぐれいめいでしかもどうぶつてきなすんだめに)

現代人の眼色の動きをちょっと見せたが、すぐ霊明で而も動物的な澄んだ眼に

(たちなおっていった。「ひこうきのりになりたいんだがおやじがゆるさないんだ」)

立直って言った。「飛行機乗りになりたいんだがおやじが許さないんだ」

(「それで」「だから、もうなんにもなりたくないんだ。やっぱりこのにわのばんにんに)

「それで」「だから、もう何にもなり度くないんだ。やっぱりこの庭の番人に

(なるんだ」「だけど、おともだちなんかなくってさびしかないの」「うん、あるよ、)

なるんだ」「だけど、お友達なんかなくって淋しかないの」「うん、あるよ、

(ときどきそとからくるよ。ここへくりゃ、みんなぼくのけらいさ」あさこは、ふと、)

時々外から来るよ。ここへ来りゃ、みんな僕のけらいさ」朝子は、ふと、

(こういうしょうねんのきもちをさぐりだすのにぐあいのよさそうなといをおもいついた。)

こういう少年の気持を探り出すのに具合のよさそうな問いを思いついた。

(「しまきちつぁん、どんなおよめさんもらうの」すると、おもいのほかしょうねんはいきごんで)

「島吉つぁん、どんなお嫁さん貰うの」すると、思いの外少年は意気込んで

(きて、「よめかい、ふふふふ、いまにみせてやるよ」「まあ、もう、あるの」)

来て、「嫁かい、ふ ふ ふ ふ、今に見せてやるよ」「まあ、もう、あるの」

(「ふふふふ」あさこは23にち、そのことはわすれていた。ななくさすぎのあさ、しまきちは)

「ふ ふ ふ ふ」朝子は二三日、その事は忘れていた。七草過ぎの朝、島吉は

(7つ8つのおんなのこをつれてかきものをしているあさこのえんさきにたった。そして、)

七つ八つの女の子を連れて書きものをしている朝子の椽先に立った。そして、

(なにともいわずにあさことおんなのことをみくらべて、うふふふふふとわらった。かためがすこし)

何とも言わずに朝子と女の子とを見較べて、うふふふふふと笑った。片眼が少し

(ただれているが、あいくるしいおんなのこだ。あさこは、ふとおもいだしていった。「この)

爛れているが、愛くるしい女の子だ。朝子は、ふと思い出して言った。「この

(おんなのこ、このあいだいったあんたのおよめさんじゃないの」しまきちはやはり、)

女の子、この間言ったあんたのお嫁さんじゃないの」島吉は矢張り、

(うふふふふふとわらって、「おくさんにおじぎしないかよ」と、おんなのこにめいれいする)

うふふふふふと笑って、「奥さんにおじぎしないかよ」と、女の子に命令する

(ようにいった。おんなのこはあさこに、ぴょこんとあたまをさげてから、しまきちをみて、)

ように言った。女の子は朝子に、ぴょこんと頭を下げてから、島吉を見て、

(「あはははは」とわらった。すると、しまきちはやにわにするどいめをしておんなのこを)

「あ は は は は」と笑った。すると、島吉は矢庭に鋭い眼をして女の子を

(にらみこんだ。そのめはこどくでせんせいてきなしゅうちょうのめのようにさびしくひかっていた。)

睨み込んだ。その眼は孤独で専制的な酋長の眼のように淋しく光っていた。

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