黒死館事件122(終)

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小栗虫太郎の作品です。
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1 もっちゃん先生 4072 C 4.4 91.9% 971.7 4338 381 61 2024/02/12

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問題文

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(しかし、れいはいどうであんちゅうにきこえたというふたつのうなりには、のぶこかはたたろうか)

「しかし、礼拝堂で暗中に聞えたという二つの唸りには、伸子か旗太郎かーー

(そのいずれかを、けっていするものがあるようにおもわれるんだが それは、でっどぽいんとと)

そのいずれかを、決定するものがあるように思われるんだが」「それは、死点と

(ふぉーかすのいかん つまり、おんきょうがくのたんじゅんなもんだいにすぎないのさ。)

焦点の如何ーーつまり、音響学の単純な問題にすぎないのさ。

(たぶんくりヴぉふふじんのいちが、のぶこがぺだるでだしたうなりにたいして、でっどぽいんと。)

たぶんクリヴォフ夫人の位置が、伸子がペダルで出した唸りに対して、死点。

(はたたろうのきゅーがすれあっておこったひびきには、あのかすかなささやきさえも、)

旗太郎の弓が擦れ合って起った響には、あの微かな囁きさえも、

(ききとれるというふぉーかすだったにそういないのだ。そして、ふじんがのぶこのほうに)

聴き取れるという焦点だったに相違ないのだ。そして、夫人が伸子の方に

(よったところを、はいごからさしつらぬいたのだ。ねえはぜくらくん、これいじょうろんずるもんだいは)

寄ったところを、背後から刺し貫いたのだ。ねえ支倉君、これ以上論ずる問題は

(ないとおもうが、ただただれんびんをおぼえるのは、のぶこにあやつられてまりぐつをはかせられ、)

ないと思うが、ただただ憐憫を覚えるのは、伸子に操られて鞠沓を履かせられ、

(ぐそくまできせられたあんぐなえきすけなんだよ そういってからのりみずは、さいしょから)

具足まで着せられた暗愚な易介なんだよ」そう云ってから法水は、最初から

(じゅんじょをおい、のぶこのこうどうをかたりはじめた。もちろんそれによって、ぴろかるぴんの)

順序を追い、伸子の行動を語りはじめた。勿論それによって、ピロカルピンの

(ふくようも、いちじょうのわるがしこいえきょうげんであることがはんめいした。それから、かたりおえると)

服用も、一場の悪狡い絵狂言であることが判明した。それから、語り終えると

(のりみずはことばをあらためて、いよいよ、こくしかんさつじんじけんのかくしんをなす)

法水は言葉を改めて、いよいよ、黒死館さつ人事件の核心をなす

(ぎぎちゅうのぎぎ どんなにかんがえてもとうていきちしえべくもなかった、)

疑義中の疑義ーーどんなに考えてもとうてい窺知し得べくもなかった、

(のぶこのさつじんどうきにふれた。それはむごんのげんじつだった。ろだんの きっす の)

伸子のさつ人動機に触れた。それは無言の現実だった。ロダンの「接吻」の

(どうたいからとりだしたものを、のりみずがぽけっとからぬきだしたとき、おもわずふたりのめが)

胴体から取り出したものを、法水が衣袋から抜き出した時、思わず二人の眼が

(そのいってんにくぎづけされてしまった かんぱん。そして、いくつかのはへんを)

その一点に釘付けされてしまったーー乾板。そして、幾つかの破片を

(つなぎあわせてみると、それにはつぎのぜんぶんがあらわれたのである。)

つなぎ合わせて見ると、それには次の全文が現われたのである。

(いち、だ  べ     ひせきの    。)

一、ダ  ベ     砒石の    。

(いち、かわなべ    、きょうせんしのき    。とくいたいしつのかじょうは、)

一、川那部    、胸腺死の危    。(特異体質の箇条は、

(そのふたつにのみつきていて、それいぜんのものはふめいだった)

その二つにのみ尽きていて、それ以前のものは不明だった)

など

(いち、よは、われじ ぎせいとするににん    をおもんみて、うまれたじょじをだんじにかえて、)

一、余は、吾児 犠牲とするに忍    を以て、生れた女児を男児に換えて、

(せいちょうごよがひしょとしててもと     かみたにのぶこなり。それゆえ、はたたろうは)

生長後余が秘書として手許     紙谷伸子なり。それ故、旗太郎は

(けっけいにはぜんぜんふれざるものなり。)

血系には全然触れざるものなり。

(こうして、ふんきゅうこんらんをかさねたこくしかんさつじんじけんは、ついにさいしゅうのまくぎれにおいて)

こうして、紛糾混乱を重ねた黒死館さつ人事件は、ついに最終の幕切れにおいて

(かみたにのぶこをさんてつのいしとしてあらわすにいたった。そうなると、もちろんさんてつのもだえじには、)

紙谷伸子を算哲の遺子として露わすに至った。そうなると、勿論算哲の悶死は、

(のぶこのふぁるてーるてーつんぐであり、ぱてる・ほも・すむ のいちぶんは、とうぜんそのしんこくを)

伸子の親殺しであり、父よ吾も人の子なりーーの一文は、当然その深刻を

(きわめた、ふっきゅうのいしにほかならないのだった。しかし、そのかんぱんというのが、)

きわめた、復仇の意志にほかならないのだった。しかし、その乾板と云うのが、

(のりみずのむそうのはな しようずのはんようであったとはいえ、ようするに、げんそんのものは)

法水の夢想の華ーー屍様図の半葉であったとは云え、要するに、現存のものは

(そのいちぶのみであって、ほかはおとしたさいにみじんとなったか、それとも、のぶこが)

その一部のみであって、他は落した際に微塵となったか、それとも、伸子が

(はきしてしまったものか、いずれにしてもふたりいがいのとくいたいしつのせんめいは、)

破棄してしまったものか、いずれにしても二人以外の特異体質の闡明は、

(くおんのなぞとしてほうむられなければならなかった。やがてけんじは、ゆめから)

久遠の謎として葬られなければならなかった。やがて検事は、夢から

(さめたようなかおになってたずねた。なるほど、とうぜんじぶんがとうしゅでありながら、)

醒めたような顔になって訊ねた。「なるほど、当然自分が当主でありながら、

(いまさらどうにもならない それがいんで、のぶこをざんにんなよっきゅうのははたらしめた。)

今さらどうにもならないーーそれが因で、伸子を残忍な欲求の母たらしめた。

(あのしちへきのきいんは、ぼくにもようくわかるんだ。しかし、はんこうのつどに、おそらく)

あの嗜血癖の起因は、僕にもようく判るんだ。しかし、犯行のつどに、恐らく

(にんげんのせかいをちょうぜつしているとしかおもわれない、かいいびとたいかんとを)

人間の世界を超絶しているとしか思われない、怪異美と大観とを

(つくりだしたのは 。のりみずくん、それをしんりがくてきにせつめいしてくれたまえ)

作り出したのはーー。法水君、それを心理学的に説明してくれ給え」

(それは、ひとくちにいえばゆうぎてきかんじょう いっしゅのせいりてきせんじょうさ。にんげんには、)

「それは、一口に云えば遊戯的感情ーー一種の生理的洗滌さ。人間には、

(よくあつされたかんじょうやかわききったじょうちょをみたすものとして、なにかひとつのかたるしすが)

抑圧された感情や乾ききった情緒を充すものとして、何か一つの生理的洗滌が

(ようきゅうされる。ねえはぜくらくん、ざべりくす わかきふぁうすととよばれ、じゅうろくせいきの)

要求される。ねえ支倉君、ザベリクス(若きファウストと呼ばれ、十六世紀の

(ぜんはん、どいつこくないをるろうしたようじゅつし やでぃーつのふぁうすちぬすそうじょうなどが)

前半、独乙国内を流浪した妖術師)やディーツのファウスチヌス僧正などが

(おくるちすむすにおちこんだというのも・・・。すべて、にんげんがちからつきはんぜいするほうほうを)

精霊主義に堕ち込んだと云うのも・・・。すべて、人間が力尽き反噬する方法を

(うしなってしまったさいには、そのげきじょうをかんかいするものが、おくるちすむすだと)

失ってしまった際には、その激情を緩解するものが、精霊主義だと

(いうじゃないか。それにあのききょうへんたいのせかいをつくりだしたいろいろなしゅほうには、)

云うじゃないか。それにあの畸狂変態の世界を作り出した種々な手法には、

(さしずめ、しょこにあるぐいど・ぼなっとー じゅうさんせいきいたりーの)

さしずめ、書庫にあるグイド・ボナットー(十三世紀伊太利の

(ふぁうすとといわれたまじゅつし の あるて・でら・ぴろまんてぃ やヴぁざりの)

ファウストと云われた魔術師)の『点火術要論ア』やヴァザリの

(ふぇすてぃヴぉりー・えと・かるなヴぁれ・あぱらてぃ などのえいきょうがうかがわれるね。もともとのぶこは、)

『祭礼師と謝肉祭装置』などの影響が窺われるね。もともと伸子は、

(あのかんぱんぬすみを、ふとしたわるぎげからやったのだろう。けれども、)

あの乾板盗みを、ふとした悪戯気から演ったのだろう。けれども、

(そのないようをしったときに、おそらくのぶこは、まほうのようなものすごいげっこうをかんじたに)

その内容を知った時に、恐らく伸子は、魔法のような物凄い月光を感じたに

(そういない。そのとつじょとしておこった、ぜつめい そうしん しゅくめいかん、そういったかんじょうが)

相違ない。その突如として起った、絶命ーー喪心ーー宿命感、そう云った感情が

(じゅうじにむらがってきて、それまでのこころのへいこうをたもたせていた、たいりつのいっぽうが)

十字に群がってきて、それまでの心の平衡を保たせていた、対立の一方が

(たたきつぶされたのだ。そして、それがあのはかいてきな、しんせいなきょうきをかりたてて)

叩き潰されたのだ。そして、それがあの破壊的な、神聖な狂気を駆り立てて

(よにもぐろてすくなばくはつをひきおこさせたのだよ。しかし、ぼくはけっして、のぶこを)

世にもグロテスクな爆発を惹き起させたのだよ。しかし、僕はけっして、伸子を

(もーらる・いんさにてぃとはよばないだろう。あれは、ぶらうにんぐのうんのちゃいるど・おぶ・ですちにい、)

悖徳症とは呼ばないだろう。あれは、ブラウニングの云の云う運命の子、

(このじけんは、ひとつのいきたにんげんのし にちがいないのだ そういってのりみずは、)

この事件は、一つの生きた人間の詩ーーに違いないのだ」そう云って法水は、

(すみきったそうめいそうながんしょくでけんじをかえりみた。ねえはぜくらくん、せめて、)

澄みきった聰明そうな眼色で検事を顧みた。「ねえ支倉君、せめて、

(おくりだけでも、このしんせいかぞくのさいごのひとりにふさわしいよう、のぶこを)

送りだけでも、この神聖家族の最後の一人に適しいよう、伸子を

(かざってやろうじゃないか こうして、めでぃちけのけっけい、ようひ)

飾ってやろうじゃないか」こうして、メディチ家の血系、妖妃

(びあんか・かぺるろのまつえい、しんせいかぞくふりやぎのさいごのひとりかみたにのぶこのひつぎは、)

ビアンカ・カペルロの末裔、神聖家族降矢木の最後の一人紙谷伸子の柩は、

(ふぃれんつぇのしきにおおわれ、よにんのあさぬのをまとったそうりょのかたにかつがれた。)

フィレンツェの市旗に覆われ、四人の麻布を纏った僧侶の肩に担がれた。

(そして、わきおこるがっしょうとこうえんのうずのなかを、うらにわのぼこうをさして)

そして、湧き起る合唱と香煙の渦の中を、裏庭の墓宕をさして

(はこばれていったのである かーてん・ふぉーる。)

運ばれて行ったのであるーー閉幕。

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