蟹工船4

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プレイ回数724難易度(4.0) 3132打 長文 かな
1929年小林多喜二の小説。プロレタリア文学を代表する作品。
原文は青空文庫から。感嘆符、疑問符、句読点などを除き記号は省略しています。 ルビを<>で示し、一部の原文の読みを読みやすさを優先して無視し、わかりやすくしています。当用漢字が使われていることに注意してください。

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問題文

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(あきた、あおもり、いわてからきたひゃくしょうのぎょふのうちでは、おおきくあぐらをかいて、)

秋田、青森、岩手から来た「百姓の漁夫」のうちでは、大きく安坐をかいて、

(りょうてはすがいにまたにさしこんでむしっとしているのや、)

両手をはすがいに股に差しこんでムシッとしているのや、

(ひざをかかえこんではしらによりかかりながら、むしんにみながさけをのんでいるのや、)

膝を抱えこんで柱によりかかりながら、無心に皆が酒を飲んでいるのや、

(かってにしゃべりあっているのにききいっているのがある。)

勝手にしゃべり合っているのに聞き入っているのがある。

(あさくらいうちからはたけにでて、それでくえないで、)

----朝暗いうちから畑に出て、それで食えないで、

(おいはらわれてくるものたちだった。ちょうなんひとりをのこして)

追払われてくる者達だった。長男一人を残して

(それでもまだくえなかったおんなはこうじょうのじょこうに、)

----それでもまだ食えなかった----女は工場の女工に、

(じなんもさんなんもどこかへでてはたらかなければならない。)

次男も三男も何処かへ出て働かなければならない。

(なべでまめをえるように、あまったにんげんはどしどしとちからはねとばされて、)

鍋で豆をえるように、余った人間はドシドシ土地からハネ飛ばされて、

(いちにながれでてきた。)

市に流れて出てきた。

(かれらはみんなかねをのこしてくににかえることをかんがえている。)

彼等はみんな「金を残して」内地<くに>に帰ることを考えている。

(しかしはたらいてきて、いちどりくをふむ、するともちをふみつけたことりのように、)

然し働いてきて、一度陸を踏む、するとモチを踏みつけた小鳥のように、

(はこだてやおたるでばたばたやる。)

函館や小樽でバタバタやる。

(そうすれば、まるっきりかんたんにうまれたときとちっともかわらないあかはだかになって、)

そうすれば、まるッきり簡単に「生れた時」とちっとも変らない赤裸になって、

(おっぽりだされた。くにへかえれなくなる。)

おっぽり出された。内地<くに>へ帰れなくなる。

(かれらは、みよりのないゆきのほっかいどうでおつねんするために、)

彼等は、身寄りのない雪の北海道で「越年<おつねん>」するために、

(じぶんのからだをてばなくらいのねでうらなければならない)

自分の身体を手鼻位の値で「売らなければならない」

(かれらはそれをなんどくりかえしても、できのわるいこどものように、)

----彼等はそれを何度繰りかえしても、出来の悪い子供のように、

(つぎのとしにはまたへいきでおなじことをやってのけた。)

次の年には又平気で(?)同じことをやってのけた。

(かしおりをせおったおきうりのおんなや、くすりや、それににちようひんをもったしょうにんがはいってきた。)

菓子折を背負った沖売の女や、薬屋、それに日用品を持った商人が入ってきた。

など

(まなかのりとうのようにくぎられているところに、それぞれのしなものをひろげた。)

真中の離島のように区切られている所に、それぞれの品物を広げた。

(みなはしほうのたなのじょうげのねどこからからだをのりだして、)

皆は四方の棚の上下の寝床から身体を乗り出して、

(ひやかしたり、じょうだんをいった。)

ひやかしたり、笑談<じょうだん>を云った。

(おがしめか、ええ、ねっちゃよ?)

「お菓子<おがし>めえか、ええ、ねっちゃよ?」

(あっ、もっちょこい!おきうりのおんながとんきょうなこえをだして、はねあがった。)

「あッ、もッちょこい!」沖売の女が頓狂な声を出して、ハネ上った。

(ひとのしりさてばやったりして、いけすかない、このおとこ!)

「人の尻さ手ばやったりして、いけすかない、この男!」

(かしでくちをもぐもぐさせていたおとこが、)

菓子で口をモグモグさせていた男が、

(みなのしせんがじぶんにあつまったことにてれて、げらげらわらった)

皆の視線が自分に集ったことにテレて、ゲラゲラ笑った。

(このあねこ、めんこいな)

「この女子<あねこ>、可愛い<めんこい>な」

(べんじょから、かたがわのかべにかたてをつきながら、)

便所から、片側の壁に片手をつきながら、

(あぶないあしどりでかえってきたよっぱらいが、とおりすがりに、)

危い足取りで帰ってきた酔払いが、通りすがりに、

(あかぐろくぷくんとしているおんなのほっぺたをつっついた。)

赤黒くプクンとしている女の頬ぺたをつッついた。

(なんだね)

「何んだね」

(おこんなよ。このあねこばだいてねてやるべよ)

「怒んなよ。----この女子<あねこ>ば抱いて寝てやるべよ」

(そういって、おんなにおどけたかっこうをした。みながわらった。)

そう云って、女におどけた恰好をした。皆が笑った。

(おいまんじゅう、まんじゅう!)

「おい饅頭、饅頭!」

(ずうとすみのほうからだれかおおごえでさけんだ。)

ずウと隅の方から誰か大声で叫んだ。

(はあい)

「ハアイ......」

(こんなところではめずらしいおんなのよくとおるすんだこえでへんじをした。)

こんな処ではめずらしい女のよく通る澄んだ声で返事をした。

(なんぼですか?)

「幾ぼですか?」

(なんぼ?ふたつもあったらかたわだべよ。おまんじゅう、おまんじゅう!)

「幾ぼ? 二つもあったら不具<かたわ>だべよ。----お饅頭、お饅頭!」

(きゅうにわっとわらいごえがおこった。)

----急にワッと笑い声が起った。

(このまえ、たけだっておとこが、)

「この前、竹田って男が、

(あのおきうりのおんなばむりやりにだれもいねえどこさひっぱりこんでいったんだとよ。)

あの沖売の女ば無理矢理に誰もいねえどこさ引っ張り込んで行ったんだとよ。

(んだけ、おもしろいんでないか。)

んだけ、面白いんでないか。

(なんぼ、どうやってもだめだっていうんだよったわかいおとこだった。)

何んぼ、どうやっても駄目だって云うんだ......」酔った若い男だった。

(さるまたはいてるんだとよ。)

「......猿又はいてるんだとよ。

(たけだがいきなりそれをちからいっぱいにさきにとってしまったんだども。)

竹田がいきなりそれを力一杯にさき取ってしまったんだども、

(まだしたにはいてるっていうんでねか。)

まだ下にはいてるッて云うんでねか。

(さんまいもはいてたとよおとこがくびをすくめてわらいだした。)

----三枚もはいてたとよ......」男が頸を縮めて笑い出した。

(そのおとこはふゆのあいだはごむぐつがいしゃのしょっこうだった。)

その男は冬の間はゴム靴会社の職工だった。

(はるになりしごとがなくなると、かむさつかへでかせぎにでた。)

春になり仕事が無くなると、カムサツカへ出稼ぎに出た。

(どっちのしごともきせつろうどうなので、ほっかいどうのしごとはほとんどそれだった)

どっちの仕事も「季節労働」なので、(北海道の仕事は殆んどそれだった)

(いざやぎょうとなると、ぶっつづけにつづけられた。)

イザ夜業となると、ブッ続けに続けられた。

(もうさんねんもいきれたらありがたいといっていた。)

「もう三年も生きれたら有難い」と云っていた。

(そせいごむのような、しんだいろのはだをしていた。)

粗製ゴムのような、死んだ色の膚<はだ>をしていた。

(ぎょふのなかまには、ほっかいどうのおくちのかいたくちや、)

漁夫の仲間には、北海道の奥地の開墾地や、

(てつどうふせつのどこうべやへたこにうられたことのあるものや、)

鉄道敷設の土工部屋へ「蛸」に売られたことのあるものや、

(かくちをくいつめたわたりものや、さけだけのめばなにもかもなく、)

各地を食いつめた「渡り者」や、酒だけ飲めば何もかもなく、

(ただそれでいいものなどがいた。)

ただそれでいいものなどがいた。

(なにもしらないきのねっこのようにしょうじきなひゃくしょうもそのなかにまじっている。)

「何も知らない」「木の根ッこのように」正直な百姓もその中に交っている。

(そして、こういうてんでんばらばらのものらをあつめることが、)

----そして、こういうてんでんばらばらのもの等を集めることが、

(やとうものにとって、このうえなくつごうのいいことだった。)

雇うものにとって、この上なく都合のいいことだった。

(はこだてのろうどうくみあいはかにこうせん)

(函館の労働組合は蟹工船、

(かむさつかいきのぎょふのなかにそしきしゃをいれることにしにものぐるいになっていた。)

カムサツカ行の漁夫のなかに組織者を入れることに死物狂いになっていた。

(あおもり、あきたのくみあいなどともれんらくをとって。それをなによりおそれていた)

青森、秋田の組合などとも連絡をとって。----それを何より恐れていた)

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