「悪魔の紋章」8 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「悪魔の紋章」のタイピング

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問題文

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(「いや、きちがいというよりもむしろてんさいです。じゃあくのてんさいです。)

「イヤ、気違いというよりも寧ろ天才です。邪悪の天才です。

(これほどこうかてきなふくしゅうがあるでしょうか。じぶんのむすめがざんさつされたばかりか、)

これほど効果的な復讐があるでしょうか。自分の娘が惨殺されたばかりか、

(そのしたいが、しかもはだかのしたいが、てんらんかいにちんれつされているのをみるちちおやの)

その死体が、しかも裸体の死体が、展覧会に陳列されているのを見る父親の

(こころもちはどんなでしょう。こんなずばぬけたふくしゅうが、なみなみのはんざいしゃなんかに)

心持はどんなでしょう。こんなずば抜けた復讐が、並々の犯罪者なんかに

(おもいつけるものじゃありません」 むなかたはかせは、はんにんをさんびするような)

思いつけるものじゃありません」 宗像博士は、犯人を讃美するような

(くちょうでさえあった。はかせはいま、このきたいのだいあくにん、ぜっこうのてきしゅをみいだして、)

口調でさえあった。博士は今、この稀代の大悪人、絶好の敵手を見出して、

(むしゃぶるいをきんじえないていであった。するどいりょうがんは、まだみぬたいてきへのとうしに、)

武者震いを禁じ得ない体であった。鋭い両眼は、まだ見ぬ大敵への闘志に、

(らんらんとかがやきはじめたかとみえた。 「ところで、このしたいはゆきこさんにちがいないと)

爛々と輝き初めたかと見えた。 「ところで、この死体は雪子さんに違いないと

(おもいますが、なおねんのためにかわでしにここへきてもらってはどうでしょうか。)

思いますが、尚念のために川手氏にここへ来て貰ってはどうでしょうか。

(ぼくがでんわをかけましょう。それから、ぼくとしてはすぐさまけんしのてつづきを)

僕が電話をかけましょう。それから、僕としては直様検死の手続きを

(しなければなりません。それもいっしょにでんわをかけましょう」)

しなければなりません。それも一緒に電話をかけましょう」

(なかむらけいぶはそういって、かかりいんにでんわのしょざいをたずねた。 「それと、もうひとつ)

中村警部はそう云って、係員に電話の所在を訊ねた。 「それと、もう一つ

(たいせつなことがあります。このしたいをしゅっぴんしたにんぎょうせいさくしゃをとりしらべることです。)

大切なことがあります。この死体を出品した人形製作者を取調べることです。

(じむしょのちょうぼをしらべて、すぐそこへひとをやるのですね」 はかせがちゅういすると、)

事務所の帳簿を調べて、すぐそこへ人をやるのですね」 博士が注意すると、

(けいぶはうなずいて、 「いかにもそうでした。よろしい。でんわのついでにけいじをよんで、)

警部は肯いて、 「如何にもそうでした。よろしい。電話の序に刑事を呼んで、

(すぐちょうさにちゃくしゅさせましょう」 といいすて、そそくさとかいかのでんわしつへ)

すぐ調査に着手させましょう」 と云い捨て、そそくさと階下の電話室へ

(おりていった。 かがくちんれつかんは、ただちにいっぱんかんしゅうのにゅうじょうをきんしして、)

降りて行った。 科学陳列館は、直ちに一般観衆の入場を禁止して、

(げんじょうほぞんにつとめ、はかせとそうさかかりちょうとすうめいのかかりいんとが、ぼそぼそとこごえに)

現状保存に力め、博士と捜査係長と数名の係員とが、ボソボソと小声に

(ささやきかわしながらまつうちに、やがて、まっさおになったかわでしがじかようしゃを)

囁き交しながら待つうちに、やがて、真青になった川手氏が自家用車を

(とばしてかけつけたのをせんとうに、けいしちょうそうさか、かんしきかのひとびと、さいばんしょのいっこう、)

飛ばして駈けつけたのを先頭に、警視庁捜査課、鑑識課の人々、裁判所の一行、

など

(しょかつけいさつしょのひとびととつぎつぎにらいちゃくし、それにつづいて、みみのはやい)

所轄警察署の人々と次々に来着し、それにつづいて、耳の早い

(しんぶんきしゃのいちだんが、ちんれつかんのげんかんにおしかけるというさわぎとなった。)

新聞記者の一団が、陳列館の玄関に押しかけるという騒ぎとなった。

(かわでしは、したいをひとめみると、めをしばたたきながら、ゆきこさんに)

川手氏は、死体を一目見ると、目をしばたたきながら、雪子さんに

(そういないことをしょうげんした。それからけいさついのけんし、かんしきかいんのしもんけんしゅつ、)

相違ないことを証言した。それから警察医の検死、鑑識課員の指紋検出、

(じんもんと、とりしらべはかたどおりにすすんでいったが、ゆきこさんのしいんがどくさつらしいこと、)

訊問と、取調べは型通りに進んで行ったが、雪子さんの死因が毒殺らしいこと、

(しごはちくじかんしかけいかしていないことなどがすいていされたほかは、)

死後八九時間しか経過していないことなどが推定された外は、

(べつだんのはっけんもなかった。れいのかいしもんはむなかたはかせがはっけんしたもののほかには)

別段の発見もなかった。例の怪指紋は宗像博士が発見したものの外には

(ひとつもけんしゅつされなかった。 そのとりしらべのさいちゅう、げんばにたちあっていた)

一つも検出されなかった。 その取調べの最中、現場に立合っていた

(むなかたはかせのところに、あわただしくいちまいのめいしがとりつがれた。はかせはそれを)

宗像博士のところに、惶しく一枚の名刺がとりつがれた。博士はそれを

(ちらっとみると、すぐさまかたわらにいたなかむらそうさかかりちょうにささやいた。)

チラッと見ると、すぐさま傍らにいた中村捜査係長に囁いた。

(「じょしゅのこいけくんがやってきたのですよ。れいのかふぇ・あとらんちすのけんで)

「助手の小池君がやって来たのですよ。例のカフェ・アトランチスの件で

(しきゅうにあいたいというのです。わざわざこんなところまでおっかけて)

至急に会いたいというのです。態々こんなところまで追っかけて

(くるほどだから、おそらくなにかおおきなてがかりをつかんだのでしょう。べっしつをかりて)

くる程だから、恐らく何か大きな手掛りを掴んだのでしょう。別室を借りて

(ほうこくをきこうとおもいますが、あなたもきませんか」 「あとらんちすというと、)

報告を聞こうと思いますが、あなたも来ませんか」 「アトランチスというと、

(きじまくんがてがみをかいたかふぇですね」 「そうです。あのてがみを)

木島君が手紙を書いたカフェですね」 「そうです。あの手紙を

(はくしとすりかえたやつがわかったかもしれません」 「それはみみよりだ。ぜひぼくも)

白紙とすり換えた奴が分ったかも知れません」 「それは耳よりだ。ぜひ僕も

(たちあわせてください」 けいぶはそこにいたかかりいんにみみうちして、かいかのおうせつしつを)

立合わせて下さい」 警部はそこにいた係員に耳打ちして、階下の応接室を

(かりうけることにし、こいけじょしゅをそこにとおすようにたのんだ。 ふたりがいそいで)

借り受けることにし、小池助手をそこに通すように頼んだ。 二人が急いで

(おうせつしつにはいっていくと、せびろすがたのこいけじょしゅが、きんちょうにあおざめてまちうけていた。)

応接室に入って行くと、背広姿の小池助手が、緊張に青ざめて待ちうけていた。

(「せんせい、またたいへんなことがおこったらしいですね。・・・・・・かわでさんの)

「先生、又大変なことが起ったらしいですね。・・・・・・川手さんの

(おたくではないかとおもって、でんわをかけますと、かわでさんはせんせいによばれて)

お宅ではないかと思って、電話をかけますと、川手さんは先生に呼ばれて

(ここへこられたというへんじでしょう。それでせんせいのおでさきがやっと)

ここへ来られたという返事でしょう。それで先生のお出先がやっと

(わかったのです」 「うん、とつぜんここへくるようなことになったものだからね。)

分ったのです」 「ウン、突然ここへ来るようなことになったものだからね。

(じむしょへしらせておくひまがなくて・・・・・・ところで、ようけんは?」)

事務所へ知らせて置く暇がなくて・・・・・・ところで、用件は?」

(はかせがたずねると、こいけはぐっとこえをおとして、 「はんにんのふうていがわかったのです」)

博士が訊ねると、小池はグッと声を落として、 「犯人の風体が分ったのです」

(と、とくいらしくささやいた。 「ほう、それははやかったね。で、どんなやつだね」)

と、得意らしく囁いた。 「ホウ、それは早かったね。で、どんな奴だね」

(「ゆうべあれからあとらんちすへいったところが、ひどくきゃくがこんでいて、)

「昨夜あれからアトランチスへ行ったところが、ひどく客が込んでいて、

(ゆっくりはなしもできなかったものですから、きょうもういちどでかけてみたのです。)

ゆっくり話も出来なかったものですから、今日もう一度出掛けて見たのです。

(じょきゅうたちがやっとめをさましたばかりのところへとびこんでいったのです。)

女給達がやっと目を覚ましたばかりのところへ飛び込んで行ったのです。

(すると、ちょうどきじまくんはごごさんじごろあのかふぇへいって、のみものもめいじないで、)

すると、丁度木島君は午後三時頃あのカフェへ行って、飲物も命じないで、

(ようせんとふうとうをかりて、しきりとなにかかいていたそうです。それをかきおわると、)

用箋と封筒を借りて、しきりと何か書いていたそうです。それを書き終ると、

(ほっとしたようにじょきゅうをよんで、すきなようしゅをめいじ、それから)

ホッとしたように女給を呼んで、好きな洋酒を命じ、それから

(にじゅっぷんばかりいて、ぷいとでていってしまったというのです」)

二十分ばかりいて、プイと出て行ってしまったというのです」

(「それで、そのとききじまくんのちかくに、あやしいやつはいなかったのかね」)

「それで、その時木島君の近くに、怪しい奴はいなかったのかね」

(「いたのですよ。じょきゅうはよくおぼえていて、そのおとこのふうさいをおしえてくれましたが、)

「いたのですよ。女給はよく覚えていて、その男の風采を教えてくれましたが、

(なんでもとしはさんじゅうごろくくらい、こがらなきゃしゃなおとこで、あおじろいかおにおおきなくろめがねを)

何でも年は三十五六位、小柄な華奢な男で、青白い顔に大きな黒眼鏡を

(かけていたといいます。ひげはなかったそうです。ふくそうは、くろっぽいせびろで、)

かけていたといいます。髭はなかったそうです。服装は、黒っぽい背広で、

(かふぇにいるあいだ、まぶかにかぶったとりうちぼうをいちどもぬがなかったといいます。)

カフェにいる間、まぶかに冠った鳥打帽を一度も脱がなかったといいます。

(そのおとこが、きじまくんがてがみをかきおわったころ、となりのせきへうつってきて、)

その男が、木島君が手紙を書き終った頃、隣の席へ移って来て、

(なんだかなれなれしくきじまくんにはなしかけ、べつにしぇりーしゅをめいじて、)

何だか慣れなれしく木島君に話しかけ、別にシェリー酒を命じて、

(きじまくんにすすめたりしていたそうです。おそらくそのしぇりーしゅのなかへどくやくを)

木島君に勧めたりしていたそうです。恐らくそのシェリー酒の中へ毒薬を

(まぜたのではないでしょうか」 「うん、どうやらそいつがうたがわしいね。)

混ぜたのではないでしょうか」 「ウン、どうやらそいつが疑わしいね。

(しかしじょきゅうのばくぜんとしたはなしだけでは、そのまましんじるわけにも)

しかし女給の漠然とした話だけでは、そのまま信じる訳にも

(いかぬが・・・・・・」 「いや、じょきゅうのはなしだけじゃありません。)

行かぬが・・・・・・」 「イヤ、女給の話だけじゃありません。

(ぼくはうごかすことのできないしょうこひんをてにいれたのです」)

僕は動かすことの出来ない証拠品を手に入れたのです」

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