「桃太郎」3 芥川龍之介

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プレイ回数702難易度(4.5) 2009打 長文
タグ小説 長文
芥川龍之介の小説「桃太郎」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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(さん)

(おにがしまはぜっかいのことうだった。が、せけんのおもっているように)

鬼が島は絶海の孤島だった。が、世間の思っているように

(いわやまばかりだったわけではない。じつはやしのそびえたり、ごくらくちょうのさえずったりする、)

岩山ばかりだった訣ではない。実は椰子の聳えたり、極楽鳥の囀ったりする、

(うつくしいてんねんのらくどだった。こういうらくどにせいをうけたおにはもちろんへいわを)

美しい天然の楽土だった。こういう楽土に生を享けた鬼は勿論平和を

(あいしていた。いや、おにというものはがんらいわれわれにんげんよりもきょうらくてきにできあがった)

愛していた。いや、鬼というものは元来我々人間よりも享楽的に出来上がった

(しゅぞくらしい。こぶとりのはなしにでてくるおにはひとばんじゅうおどりをおどっている。)

種族らしい。瘤取りの話に出てくる鬼は一晩中踊りを踊っている。

(いっすんぼうしのはなしにでてくるおにもいっしんのきけんをかえりみず、ものもうでのひめぎみに)

一寸法師の話に出てくる鬼も一身の危険を顧みず、物詣での姫君に

(みとれていたらしい。なるほどおおえやまのしゅてんどうじやらしょうもんのいばらきどうじは)

見とれていたらしい。なるほど大江山の酒顛童子や羅生門の茨木童子は

(きだいのあくにんのようにおもわれている。しかしいばらきどうじなどはわれわれのぎんざを)

稀代の悪人のように思われている。しかし茨木童子などは我々の銀座を

(あいするようにすざくおおじをあいするあまり、ときどきそっとらしょうもんへすがたを)

愛するように朱雀大路を愛する余り、時々そっと羅生門へ姿を

(あらわしたのではないだろうか?しゅてんどうじもおおえやまのいわやに)

露わしたのではないだろうか?酒顛童子も大江山の岩屋に

(さけばかりのんでいたのはたしかである。そのにょにんをうばっていったというのは)

酒ばかり飲んでいたのは確かである。その女人を奪って行ったというのは

(ーーしんぎはしばらくとわないにもしろ、にょにんじしんのいうところにすぎない。)

ーー真偽はしばらく問わないにもしろ、女人自身のいう所に過ぎない。

(にょにんじしんのいうところをことごとくしんじつとみとめるのは、ーー)

女人自身のいう所をことごとく真実と認めるのは、ーー

(わたしはこのにじゅうねんらい、こういうぎもんをいだいている。あのらいこうやしてんのうは)

わたしはこの二十年来、こういう疑問を抱いている。あの頼光や四天王は

(いずれもたしょうきちがいじみたじょせいすうはいかではなかったであろうか?)

いずれも多少気違いじみた女性崇拝家ではなかったであろうか?

(おにはねったいてきふうけいのうちにことをひいたりおどりをおどったり、こだいのしじんのうたを)

鬼は熱帯的風景の中に琴を弾いたり踊りを踊ったり、古代の詩人の詩を

(うたったり、すこぶるあんのんにくらしていた。そのまたおにのつまやむすめもはたをおったり、)

歌ったり、頗る安穏に暮らしていた。そのまた鬼の妻や娘も機を織ったり、

(さけもかもしたり、らんのはなたばをこしらえたり、われわれにんげんのつまやむすめとすこしも)

酒も醸したり、蘭の花束を拵えたり、我々人間の妻や娘と少しも

(かわらずにくらしていた。ことにもうかみのしろい、きばのぬけたおにのははは)

変らずに暮らしていた。殊にもう髪の白い、牙の脱けた鬼の母は

など

(いつもまごのまもりをしながら、われわれにんげんのおそろしさをはなして)

いつも孫の守りをしながら、我々人間の恐ろしさを話して

(きかせなどしていたものである。ーー)

聞かせなどしていたものである。ーー

(「おまえたちもいたずらをすると、にんげんのしまへやってしまうよ。にんげんのしまへ)

「お前たちも悪戯をすると、人間の島へやってしまうよ。人間の島へ

(やられたおにはあのむかしのしゅてんどうじのように、きっところされてしまうのだからね。)

やられた鬼はあの昔の酒顛童子のように、きっと殺されてしまうのだからね。

(え、にんげんというものかい?にんげんというものはつののはえない、なまじろいかおや)

え、人間というものかい?人間というものは角の生えない、生白い顔や

(てあしをした、なにともいわれずきみのわるいものだよ。おまけにまたにんげんのおんなと)

手足をした、何ともいわれず気味の悪いものだよ。おまけにまた人間の女と

(きたひには、そのなましろいかおやてあしへいちめんになまりのこをなすっているのだよ。)

来た日には、その生白い顔や手足へ一面に鉛の粉をなすっているのだよ。

(それだけならばまだよいのだがね。おとこでもおんなでもおなじように、うそはいうし、)

それだけならばまだ好いのだがね。男でも女でも同じように、嘘はいうし、

(よくはふかいし、やきもちはやくし、うぬぼれはつよいし、なかまどうしころしあうし、)

欲は深いし、焼餅は焼くし、己惚は強いし、仲間同志殺し合うし、

(ひはつけるし、どろぼうはするし、てのつけようのないけだものなのだよ・・・」)

火はつけるし、泥棒はするし、手のつけようのない毛だものなのだよ・・・」

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