「心理試験」21 江戸川乱歩

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江戸川乱歩の小説「心理試験」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(あなたはじけんのふつかまえにあのざしきへはいったとき、そこにびょうぶがあるかないかと)

あなたは事件の二日前にあの座敷へ入った時、そこに屏風があるかないかと

(いうようなことをちゅういしたでしょうか。むろんちゅういしなかったでしょう。じっさいそれは)

いう様なことを注意したでしょうか。無論注意しなかったでしょう。実際それは

(あなたのけいかくにはなにのかんけいもなかったのですし、もしびょうぶがあったとしても、)

あなたの計画には何の関係もなかったのですし、若し屏風があったとしても、

(あれはごしょうちのとおりじだいのついたくすんだいろあわせで、ほかのいろいろなどうぐるいのなかで)

あれは御承知の通り時代のついたくすんだ色合で、他の色々な道具類の中で

(ことさららめだっていたわけでもありませんからね。で、あなたがいま、じけんのとうじつ)

殊更ら目立っていた訳でもありませんからね。で、あなたが今、事件の当日

(そこでみたびょうぶが、ふつかまえにもおなじようにそこにあっただろうとかんがえたのは、)

そこで見た屏風が、二日前にも同じ様にそこにあっただろうと考えたのは、

(ごくしぜんですよ。それにぼくはそうおもわせるようなほうほうでといかけたのですものね。)

ごく自然ですよ。それに僕はそう思わせる様な方法で問いかけたのですものね。

(これはいっしゅのさっかくみたいなものですが、よくかんがえてみると、われわれにはにちじょうざらに)

これは一種の錯覚見たいなものですが、よく考えて見ると、我々には日常ザラに

(あることです。しかし、もしふつうのはんざいしゃだったらけっしてあなたのさまには)

あることです。併し、もし普通の犯罪者だったら決してあなたの様には

(こたえなかったでしょう。かれらは、なんでもかんでも、かくしさえすればいいと)

答えなかったでしょう。彼等は、何でもかんでも、隠しさえすればいいと

(おもっているのですからね。ところが、ぼくにとってこうつごうだったのは、あなたが)

思っているのですからね。ところが、僕にとって好都合だったのは、あなたが

(せけんなみのさいばんかんやはんざいしゃより、じゅうばいもにじゅうばいもすすんだあたまをもって)

世間並みの裁判官や犯罪者より、十倍も二十倍も進んだ頭を持って

(いられたことです。つまり、きゅうしょにふれないかぎりは、できるだけあからさまに)

いられたことです。つまり、急所にふれない限りは、出来る丈けあからさまに

(しゃべってしまうほうが、かえってあんぜんだというしんねんをもっていられたことです。)

喋って了う方が、却って安全だという信念を持っていられたことです。

(うらのうらをいくやりかたですね。そこでぼくはさらにそのうらをいってみたのですよ。)

裏の裏を行くやり方ですね。そこで僕は更らにその裏を行って見たのですよ。

(まさか、あなたはこのじけんになんのかんけいもないべんごしが、あなたをはくじょうさせる)

まさか、あなたはこの事件に何の関係もない弁護士が、あなたを白状させる

(ために、わなをつくっていようとはそうぞうしなかったでしょうね。ははははは」)

為に、罠を作っていようとは想像しなかったでしょうね。ハハハハハ」

(ふきやは、まっさおになったかおの、ひたいのところにびっしょりあせをうかせて、じっとだまり)

蕗谷は、真青になった顔の、額の所にビッショリ汗を浮かせて、じっと黙り

(こんでいた。かれはもうこうなったら、べんめいすればするだけ、ぼろをだすばかり)

込んでいた。彼はもうこうなったら、弁明すればする丈け、ボロを出す許り

(だとおもった。かれは、あたまがいいだけに、じぶんのしつげんがどんなにゆうべんな)

だと思った。彼は、頭がいい丈けに、自分の失言がどんなに雄弁な

など

(じはくだったかということを、よくわきまえていた。かれのあたまのなかには、みょうなことだが、)

自白だったかということを、よく弁えていた。彼の頭の中には、妙なことだが、

(こどものじぶんからのさまざまのできごとが、そうまとうのように、めまぐるしくあらわれては)

子供の時分からの様々の出来事が、走馬燈の様に、めまぐるしく現れては

(きえた。ながいちんもくがつづいた。「きこえますか」あけちがしばらくしてからいった。)

消えた。長い沈黙が続いた。「聞えますか」明智が暫くしてから云った。

(「そら、さらさら、さらさらというおとがしているでしょう。あれはね。)

「そら、サラサラ、サラサラという音がしているでしょう。あれはね。

(さいぜんから、となりのへやで、ぼくたちのもんどうをかきとめているのですよ。・・・・・きみ、)

最前から、隣の部屋で、僕達の問答を書きとめているのですよ。・・・・・君、

(もうよござんすから、それをここへもってきてくれませんか」すると、)

もうよござんすから、それをここへ持って来て呉れませんか」すると、

(ふすまがひらいて、ひとりのしょせいていのおとこがてにようしのたばをもってでてきた。)

襖が開いて、一人の書生体の男が手に洋紙の束を持って出て来た。

(「それをいちどよみあげてください」あけちのめいれいにしたがって、そのおとこはさいしょから)

「それを一度読上げて下さい」明智の命令に随って、その男は最初から

(ろうどくした。「では、ふきやくん、これにしょめいして、ぼいんでけっこうですからおして)

朗読した。「では、蕗谷君、これに署名して、拇印で結構ですから捺して

(くれませんか。きみはまさかいやだとはいいますまいね。だって、さっき、)

呉れませんか。君はまさかいやだとは云いますまいね。だって、さっき、

(びょうぶのことはいつでもしょうげんしてやるとやくそくしたばかりじゃありませんか。)

屏風のことはいつでも証言してやると約束したばかりじゃありませんか。

(もっとも、こんなふうなしょうげんだろうとはそうぞうしなかったかもしれないけれど」)

尤も、こんなふうな証言だろうとは想像しなかったかも知れないけれど」

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