ツルゲーネフ はつ恋 ⑫

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問題文

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(ばっきんごっこにあきると、--こんどはなわまわしがはじまった。)

罰金ごっこに飽きると、--こんどは縄まわしが始まった。

(ああ!わたしがついぽかんとして、おにになったかのじょから、したたかぴしゃり)

ああ!わたしがついポカンとして、鬼になった彼女から、したたかピシャリ

(とゆびをぶたれたとき、なんというほうえつをわたしはかんじたことだろう!)

と指をぶたれたとき、なんという法悦をわたしは感じたことだろう!

(そのあとで、わざとわたしがぽかんとしたふりをしていると、かのじょはわたしを)

そのあとで、わざとわたしがポカンとした振りをしていると、彼女はわたしを

(じらそうとして、さしのべたりょうてにふれようともしないのだった!)

じらそうとして、差し伸べた両手に触れようともしないのだった!

(われわれがそのばんのうちにやったことは、まだまだそれだけではなかった!)

我々がその晩のうちにやったことは、まだまだそれだけではなかった!

(ぴあのもひけば、うたもうたい、おどりもおどれば、じぷしーのむれのまねもした。)

ピアノも弾けば、歌もうたい、踊りも踊れば、ジプシーの群れの真似もした。

(にるまーつきいはくまのぬいぐるみをきせられて、しおのはいったみずをのまされた。)

ニルマーツキイは熊のぬいぐるみを着せられて、塩の入った水を飲まされた。

(まれーふすきいはくしゃくは、とらんぷのてじなをつぎからつぎへとひろうしたが、)

マレーフスキイ伯爵は、トランプの手品を次から次へと披露したが、

(あげくのはてにかーどをよくきってから、ふだをよにんにくばるとき、きりふだをぜんぶ)

あげくの果てにカードをよく切ってから、札を四人に配る時、切札を全部

(わがてにおさめてしまったので、るーしんは”せんえつながらしゅくじをのべる”)

我が手に収めてしまったので、ルーシンは”僭越ながら祝辞を述べる”

(ことになった。まいだーのふはじさくの”ひとごろし”というちょうしのいっせつを)

ことになった。マイダーノフは自作の”人殺し”という長詩の一節を

(ろうどくしたが、(それはろまんてぃしずむのぜんせいきにしゅざいしてあった))

朗読したが、(それはロマンティシズムの全盛期に取材してあった)、

(かれはこのさくひんを、くろいひょうしにけっしょくのだいじで、しゅっぱんするつもりだといっていた。)

彼はこの作品を、黒い表紙に血色の題字で、出版するつもりだと言っていた。

(いヴぇーるすきいもんからやってきたこやくにんのひざから、こっそりぼうし)

イヴェールスキイ門からやって来た小役人の膝から、こっそり帽子

(をとってきて、そのみのしろきんとしてかざーくおどりをおどらせたり、)

を取って来て、その身代金としてカザーク踊りをおどらせたり、

(ろうぼくぼにふぁーちいにおんなのしつないぼうをかぶせたり、--そうかとおもうと、)

老僕ボニファーチイに女の室内帽をかぶせたり、--そうかと思うと、

(こうしゃくれいじょうがおとこのぼうしをかぶったり・・・とてもいちいちかぞえきれない。)

侯爵令嬢が男の帽子をかぶったり・・・とても一々数えきれない。

(ただべろうぞーろふだけは、みけんにはちのじをよせてはらだたしげなようすで、)

ただベロウゾーロフだけは、眉間に八の字を寄せて腹立たしげな様子で、

(だんだんすみっこへひっこみがちになった。・・・ときたまかれのめは、)

だんだん隅っこへ引っ込みがちになった。・・・時たま彼の眼は、

など

(さっとちばしって、まんめんにしゅをそそぎ、いまにもみんなにおどりかかって、)

さっと血走って、満面に朱をそそぎ、今にもみんなに躍りかかって、

(わたしたちをこっぱみじんにはっぽうへなげとばしそうなけんまくをみせたが、)

わたしたちを木っ端みじんに八方へ投げ飛ばしそうな剣幕をみせたが、

(れいじょうがちらりとかれをみて、ゆびをたてておどかすと、かれはまたこそこそすみっこへ)

令嬢がちらりと彼を見て、指を立てておどかすと、彼はまたこそこそ隅っこへ

(ひきさがるのだった。しまいにさすがのわたしたちもせいもこんもつきはててしまった。)

引き下がるのだった。しまいにさすがの私たちも精も近も尽き果ててしまった。

(わかれにのぞんで、じないーだはぎゅっとわたしのてをにぎりしめ、)

別れにのぞんで、ジナイーダはぎゅっとわたしの手を握りしめ、

(またもやなぞめいたびしょうをうかべた。)

またもや謎めいた微笑を浮かべた。

(やきがしっとりとおもく、わたしのほてったかおへにおいをふきつけるのだった。)

夜気がしっとりと重く、わたしの火照った顔へ匂いをふきつけるのだった。

(どうやららいうがきそうなもようで、くろいあまぐもがわきだしてそらをはい、しきりに)

どうやら雷雨が来そうな模様で、黒い雨雲が湧き出して空を這い、しきりに

(そのもやもやしたりんかくをかえていた。そよかぜがくらいこだちのなかでざわざわと)

そのもやもやした輪郭を変えていた。そよ風が暗い木立の中でざわざわと

(みぶるいして、どこかちへいのはるかなかなたでは、まるでひとりごとのように、)

身震いして、どこか地平のはるかな彼方では、まるで独り言のように、

(かみなりがはらだたしげなにぶいこえでぶつぶついっていた。)

雷が腹立たし気な鈍い声でぶつぶつ言っていた。

(うらぐちからこっそり、わたしはじぶんのへやへもぐりこんだ。もりやくのじいやが、)

裏口からこっそり、わたしは自分の部屋へもぐり込んだ。守役の爺やが、

(ゆかべたでねむっていたので、わたしはそれをまたぎこさなければならなかった。)

床べたで眠っていたので、わたしはそれをまたぎ越さなければならなかった。

(じいやはめをさまして、わたしをみるなり、ははがまたぞろわたしにはらをたてて、)

爺やは目をさまして、わたしをみるなり、母がまたぞろわたしに腹を立てて、

(またもむかえにひとをだそうとしたが、ちちがとめたのだ、とほうこくした。)

またも迎えに人を出そうとしたが、父がとめたのだ、と報告した。

((わたしはねどこにはいるまえには、かならずははにおやすみをいい、しゅくふくしてもらうこと)

(わたしは寝床に入る前には、必ず母にお休みを言い、祝福してもらうこと

(にしていた)が、こうなってはもうしかたがない!)

にしていた)が、こうなってはもう仕方がない!

(わたしはじいやに、じぶんできがえをしてねるからいい、といってーー)

わたしは爺やに、自分で着替えをして寝るからいい、と言ってーー

(ろうそくをふきけした。だがわたしは、きがえもしなければ、よこになりもしなかった。)

蝋燭を吹き消した。だが私は、着替えもしなければ、横になりもしなかった。

(わたしはちょっといすにかけたが、それなりまほうにでもかかったように、)

わたしはちょっと椅子にかけたが、それなり魔法にでもかかったように、

(ながいこと、すわったままでいた。そのあいだにかんじたことは、じつにめあたらしい、)

長いこと、坐ったままでいた。その間に感じたことは、実に目新しい、

(じつに、かんびなものだった。・・・わたしはほんのすこしあたりへめをくばりながら、)

実に、甘美なものだった。・・・わたしはほんの少しあたりへ眼を配りながら、

(じっとみじろきもせずにすわって、ゆっくりといきをついていた。そしてただときどき、)

じっと身じろきもせずに坐って、ゆっくりと息をついていた。そしてただ時々、

(こえをたてずにおもいだしわらいをしたり、そうかとおもうと、”おれはこいしているのだ、)

声を立てずに思い出し笑いをしたり、そうかと思うと、”俺は恋しているのだ、

(これがこいなのだ”というそうねんにつきあたって、むねのそこがひやりとするのだった。)

これが恋なのだ”という想念に突き当って、胸の底がひやりとするのだった。

(じないーだのかおがめのまえのやみのなかをしずかにただよっていたーーただよってはいたが、)

ジナイーダの顔が眼の前の闇の中を静かに漂っていたーー漂ってはいたが、

(ただよいさりはしなかった。そのくちびるはあいかわらずなぞめいたびしょうをうかべ、)

漂い去りはしなかった。その唇は相変わらず謎めいた微笑を浮かべ、

(めはすこしよこあいからものといたげに、かんがえぶかそうに、やさしげにわたしを)

眼は少し横合いから物問いたげに、考え深そうに、優しげにわたしを

(みまもっていた。・・・あのわかれたしゅんかんとそっくりそのままのまなざしだった。)

見守っていた。・・・あの別れた瞬間とそっくりそのままの眼差しだった。

(やがてとうとうわたしはたちあがって、つまさきだちでべっどにあゆみより、)

やがてとうとうわたしは立ち上がって、爪先だちでベッドに歩み寄り、

(きがえもせずに、そっとあたまをまくらにのせた。はげしいどうさによって、みうちに)

着替えもせずに、そっと頭を枕にのせた。激しい動作によって、身うちに

(みちみちているものをおどろかしはせぬかと、それがしんぱいでならなかったように・・)

満ち充ちているものを驚かしはせぬかと、それが心配でならなかったように・・

(わたしのむねのなかでも、やはりいなずまはきえてしまった。わたしはひじょうなつかれと)

わたしの胸の中でも、やはり稲妻は消えてしまった。わたしは非常な疲れと

(しずけさをかんじたが・・・じないーだのおもかげはあいかわらずとびめぐって、)

静けさをかんじたが・・・ジナイーダの面影は相変わらず飛びめぐって、

(わたしのたましいのうえに、がいかをそうしていた。ただしそのおもかげも、いつかひとりでに)

わたしの魂の上に、凱歌を奏していた。ただしその面影も、いつかひとりでに

(やすらいできたようにみえた。さながらはくちょうが、ぬまのくさむらからとびたったように)

安らいできたように見えた。さながら白鳥が、沼の草むらから飛び立ったように

(そのおもかげもまた、それをとりまいているさまざまなみにくいものかげから、)

その面影もまた、それを取巻いている様々な醜い物陰から、

(はなれさったもののようだった。そしてわたしはうとうとねいりながら、)

離れ去ったもののようだった。そしてわたしはうとうと寝入りながら、

(これをなごりにもういっぺん、しんらいをこめたすうはいのねんをもって、)

これを名残にもう一遍、信頼をこめた崇拝の念をもって、

(そのおもかげにひしとばかりとりすがった。・・・)

その面影にひしとばかり取りすがった。・・・

(おお、めざまされたたましいの、つつましいじょうかんよ、そのやさしいひびきよ、)

おお、めざまされた魂の、つつましい情感よ、その優しい響きよ、

(そのめでたさとしずもりよ。こいのはじめてのかんどうの、とろけるばかりのよろこびよ。)

そのめでたさと静もりよ。恋の初めての感動の、とろけるばかりの悦びよ。

(ーーなんじらはそも、いまいずこ、いまいずこ?)

ーー汝らはそも、今いずこ、今いずこ?

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