ああ玉杯に花うけて 第四部 3

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プレイ回数511難易度(4.5) 5849打 長文
大正時代の少年向け小説!
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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 りっつ 5133 B+ 5.2 97.8% 1096.0 5753 127 88 2024/04/11
2 Par100 3770 D++ 3.9 96.6% 1473.6 5753 197 88 2024/04/11

関連タイピング

問題文

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(「おもしろい、かくへいがきっとふくしゅうするにちがいない」とひとびとはいった。)

「おもしろい、覚平がきっと復讐するにちがいない」と人々はいった。

(あるひこういちはかくへいをみた、かれはよごれたあわせにふるいはかまをはいて)

ある日光一は覚平を見た、かれはよごれたあわせに古いはかまをはいて

(くびにてぬぐいをまいていた、ひとつきのごくちゅうせいかつでかれはすっかりやせてのらいぬの)

首にてぬぐいをまいていた、一月の獄中生活でかれはすっかりやせて野良犬の

(ようにきたなくなりめばかりがきみょうにひかっていた、かれは)

ようにきたなくなり目ばかりが奇妙に光っていた、かれは

(ひじょうにていちょうなたいどでたたみにあたまをすりつけてないていた。「ごおんは)

非常に鄭重な態度で畳に頭をすりつけてないていた。「ご恩は

(けっしてわすれません、きっときっとおかえしもうします」かれはきっときっとと)

決してわすれません、きっときっとお返し申します」かれはきっときっとと

(いうたびになみだをぼろぼろこぼした。「もういいもういいわかりました、)

いうたびに涙をぼろぼろこぼした。「もういいもういいわかりました、

(だれにもいわないようにしてな、いいかね、いわないようにな」)

だれにもいわないようにしてな、いいかね、いわないようにな」

(とちちはしきりにいった。「きっと、きっと!」かくへいはこういっていえを)

と父はしきりにいった。「きっと、きっと!」 覚平はこういって家を

(でていった、こういちははじめてれいのさしいれものはちちであることをさとった。)

でていった、光一ははじめて例のさしいれものは父であることをさとった。

(そのよくじつからまちまちをてんとうさせるようなこっけいなものがあらわれた。)

その翌日から町々を顛倒させるような滑稽なものがあらわれた。

(ちょうえきじんのきるいふくとおなじものをきたかくへいはおおきなはたをまっすぐに)

懲役人の着る衣服と同じものを着た覚平は大きな旗をまっすぐに

(たててまちまちをあるきまわるのである。はたにはぼっこんりんりとこうかいてある。)

たてて町々を歩きまわるのである。旗には墨痕淋漓とこう書いてある。

(「どうしかいのかんじはごうとうのおやぶんである」かれはつじつじにたち、それから)

「同志会の幹事は強盗の親分である」かれは辻々に立ち、それから

(まちやくばのまえにたち、つぎにさかいのいえのまえにたってどなった。「おりづめをぬすんだやつ)

町役場の前に立ち、つぎに阪井の家の前に立ってどなった。「折詰を盗んだやつ

(とうふをぬすんだやつ、がっこうをおいだされたやつ、そのやつのおやじはさかいごうただ」)

豆腐をぬすんだやつ、学校を追いだされたやつ、そのやつの親父は阪井猛太だ」

(じゅんさがたいきょをめいずればさからわずにおとなしくたいきょするが、じゅんさがさると)

巡査が退去を命ずればさからわずにおとなしく退去するが、巡査が去ると

(すぐまたあらわれる、まちのひとびとはすこぶるきょうみをかんじた、りっけんとうのひとびとは)

すぐまたあらわれる、町の人々はすこぶる興味を感じた、立憲党の人々は

(さかんにかっさいした、ときにはかねやしなものをおくるのであったが、かくへいはいっさいきょぜつした)

さかんに喝采した、時には金や品物をおくるのであったが、覚平は一切拒絶した

(これがどれだけのこうかがあったかはしらぬがせんきょはついにりっけんとうのしょうりにきした)

これがどれだけの効果があったかは知らぬが選挙はついに立憲党の勝利に帰した

など

(かくへいはまちまちをおどりあるいた。「ざまあみろさかいのどろぼう!」)

覚平は町々をおどり歩いた。「ざまあ見ろ阪井のどろぼう!」

(もうこういちはがっこうへかようようになった、とこのときこうないで)

もう光一は学校へ通うようになった、とこのとき校内で

(かなしいうわさがどこからとなくおこった。「こうちょうがてんにんする」)

悲しいうわさがどこからとなく起こった。「校長が転任する」

(このうわさはひいちにちとのうこうになった、せいとのに、さんがほかのせんせいたちにきいた。)

このうわさは日一日と濃厚になった、生徒の二、三が他の先生達にきいた。

(「そんなことはありますまい」こうこたえるのだが、そういうせんせいのかおにも)

「そんなことはありますまい」こう答えるのだが、そういう先生の顔にも

(かなしそうないろがかくしきれなかった。せいとのおもなるものがよりよりひたいをあつめて)

悲しそうな色がかくしきれなかった。生徒の主なる者がよりより額をあつめて

(きょうぎした。「ほんとうだろうか」このうたがいのとけぬやさきに)

協議した。「本当だろうか」このうたがいのとけぬ矢先に

(てづかはこういうほうこくをもたらした。「こうちょうがりっけんとうのためにうんどうしたので)

手塚はこういう報告をもたらした。「校長が立憲党のために運動したので

(ゆしめんかんとなるんだそうだ」これはせいとにとってあまりにふしぎなことであった)

諭旨免官となるんだそうだ」これは生徒にとってあまりにふしぎなことであった

(「どういうわけだ」「こうちょうはね、やなぎのいえへしばしばでいりしたのを)

「どういうわけだ」「校長はね、柳の家へしばしば出入りしたのを

(みたものがあるんだよ」とてづかがいった。「それでさかいのおやじがこうちょうはいせきを)

見た者があるんだよ」と手塚がいった。「それで阪井の親父が校長排斥を

(やったんだ」「それはたいへんなまちがいだ」とこういちはさけんだ。)

やったんだ」「それは大変な間違だ」と光一は叫んだ。

(「せんせいがぼくのいえへきたのはにどだ、それはがっこうでふしょうさせたのはこうちょうのせきにんだ)

「先生がぼくの家へきたのは二度だ、それは学校で負傷させたのは校長の責任だ

(というのでこうちょうじしんでぼくのちちにあやまりにきたのと、いまひとつは)

というので校長自身でぼくの父にあやまりにきたのと、いま一つは

(ぼくのみまいのためだ、せんせいはぼくのまくらもとにすわってぼくのかおをみつめたまま)

ぼくの見舞いのためだ、先生はぼくの枕元にすわってぼくの顔を見つめたまま

(ほかのことはなんにもいわない、ぼくのちちとふたりではなしたこともないのだ」)

ほかのことはなんにもいわない、ぼくの父とふたりで話したこともないのだ」

(「そりゃ、そうだろうとも」とひとびとはいった。「もしそれでもこうちょうがわるいと)

「そりゃ、そうだろうとも」と人々はいった。「もしそれでも校長が悪いと

(いうなら、われわれはかくごをきめなきゃならん」とほしゅのこはらがいった。)

いうなら、われわれはかくごを決めなきゃならん」と捕手の小原がいった。

(「むろんだ、がっこうをやいてしまえ」とらいおんがいった。)

「無論だ、学校を焼いてしまえ」とライオンがいった。

(「へんなことをいうな」とほしゅはらいおんをしかりつけて、)

「へんなことをいうな」と捕手はライオンをしかりつけて、

(「こんどこそはだぞ、しょくん!かんとうだんじのいきをしめすのはこのときだ、)

「こんどこそはだぞ、諸君! 関東男児の意気を示すのはこのときだ、

(いいかしょくん!てんかひろしといえどもくぼいせんせいのごときじんかくがたかくしきけんがあり、)

いいか諸君! 天下広しといえども久保井先生のごとき人格が高く識見があり、

(われわれせいとをじぶんのこのごとくあいしてくれるこうちょうがほかにあるとおもうか、)

われわれ生徒を自分の子のごとく愛してくれる校長が他にあると思うか、

(このこうちょうありてこのしょくいんありだ、どのせんせいだってことごとくりっぱなじんかくしゃ)

この校長ありてこの職員ありだ、どの先生だってことごとくりっぱな人格者

(ばかりだ、くぼいせんせいがいなくなったらだいいちかとれっとせんせいがでてゆく、)

ばかりだ、久保井先生がいなくなったら第一カトレット先生がでてゆく、

(さんかくせんせいもでてゆく、やまのいもせんせいも、なぽれおんせんせい・・・・・・」「さいけいれいも」と)

三角先生もでてゆく、山のいも先生も、ナポレオン先生……」「最敬礼も」と

(だれかがいった。「まじめなはなしだよ」とほしゅはふつぜんとしてとがめた、)

だれかがいった。「まじめな話だよ」と捕手は怫然としてとがめた、

(そうしてつづけた。「いいかしょくん、くぼいせんせいがなければがっこうがほろびるんだぞ)

そうして続けた。「いいか諸君、久保井先生がなければ学校がほろびるんだぞ

(ぼくらはなんのためにかんぶんやしゅうしんやれきしでここんのいじんのじれきをまなんでるのだ、)

ぼくらはなんのために漢文や修身や歴史で古今の偉人の事歴を学んでるのだ、

(「しはおのれをしるもののためにしす」だ、いいかぼくらは)

『士はおのれを知るもののために死す』だ、いいかぼくらは

(くぼいせんせいのためうらわちゅうがくのため、しをもってあたらなきゃならん」)

久保井先生のため浦和中学のため、死をもってあたらなきゃならん」

(「それでなければおとこじゃないぞ」とさけんだものがある。そのひがっこうのひろにわに)

「それでなければ男じゃないぞ」と叫んだものがある。その日学校の広庭に

(ぜんこうのせいとがあつまった、そうしていっきゅうからさんにんずつのいいんをせんていして)

全校の生徒が集まった、そうして一級から三人ずつの委員を選定して

(じじつをたしかめることにした、もしそれがじじつであるとすれば、ぜんこうれんしょのうえ)

事実をたしかめることにした、もしそれが事実であるとすれば、全校連署のうえ

(けんちょうへりゅうにんをあいがんしようというのである。こういちはにねんのいいんにあげられた。)

県庁へ留任を哀願しようというのである。光一は二年の委員にあげられた。

(こういちはかなしかった、かれのこころはせいとうにたいするふんぬにもえていた。)

光一は悲しかった、かれの心は政党に対する憤怒に燃えていた。

(どういうりゆうかしらぬが、こうちょうがぼくのいえへみまいにきただけでせいとうがこうちょうを)

どういう理由か知らぬが、校長がぼくの家へ見舞いにきただけで政党が校長を

(はいせきするのはあまりにろうれつだ。)

排斥するのはあまりに陋劣だ。

(こはらのいうごとくくぼいせんせいのようなりっぱなこうちょうはふたたびえられない。)

小原のいうごとく久保井先生のようなりっぱな校長はふたたび得られない。

(いまのせんせいがたのようなりっぱなせんせいもふたたびえられない。それにかかわらず)

いまの先生方のようなりっぱな先生もふたたび得られない。それにかかわらず

(がっこうがめちゃめちゃになる、それではぼくらをどうしようというんだろう、)

学校がめちゃめちゃになる、それではぼくらをどうしようというんだろう、

(せいとうのつごうがよければがっこうがどうなってもかまわないのだろうか。)

政党の都合がよければ学校がどうなってもかまわないのだろうか。

(そんなばかなはなしはない、これはせいぎをもってたたかえばかならずかてる、)

そんなばかな話はない、これは正義をもって戦えばかならず勝てる、

(ちちにしさいをはなしてなんとかしてもらおう。いろいろなかんがいがむねにあふれて)

父に仔細を話してなんとかしてもらおう。いろいろな感慨が胸にあふれて

(あるくともなくあるいてくると、かれはまちのつじつじにすうめいのじゅんさがたってるのをみた、)

歩くともなく歩いてくると、かれは町の辻々に数名の巡査が立ってるのを見た、

(まちはなにやらそうぞうしく、いろいろなひとがおうらいし、みせみせのひとは)

町はなにやら騒々しく、いろいろな人が往来し、店々の人は

(ふあんそうにそとをのぞいている。「なにがはじまったんだろう」)

不安そうに外をのぞいている。「なにがはじまったんだろう」

(こうかんがえながらこういちはいえのちかくへくると、むこうからおじさんのそうべいが)

こう考えながら光一は家の近くへくると、向こうから伯父さんの総兵衛が

(いそぎあしでやってきた、かれはしまのはおりをきてふところいっぱいなにかいれこんで)

急ぎ足でやってきた、かれはしまの羽織を着てふところ一ぱいなにか入れこんで

(きわめてきゅうしきなやまたかぼうをかぶっていた。おじさんはいつもとりうちぼうであるが、)

きわめて旧式な山高帽をかぶっていた。伯父さんはいつも鳥打帽であるが、

(そうしきやこんれいのときだけやまたかぼうをかぶるのであった、ほていさんのようにふとって)

葬式や婚礼のときだけ山高帽をかぶるのであった、ほていさんのようにふとって

(ほおがたれてあごがにじゅうにもさんじゅうにもなっている、そのむねのところには)

ほおがたれてあごが二重にも三重にもなっている、その胸のところには

(くまのようなけがはえている、こういちはこどものときにいつもおじさんにだかれて)

くまのような毛が生えている、光一は子どものときにいつも伯父さんにだかれて

(むねのけをひっぱったものだ。「おじさんどこへいってきたの」とこういちはきいた)

胸の毛をひっぱったものだ。「伯父さんどこへいってきたの」と光一はきいた

(「ああこういちか、おれはいまちょうかいぼうちょうにいってきた、おもしろいぞ、うむちくしょう!)

「ああ光一か、おれは今町会傍聴にいってきた、おもしろいぞ、うむ畜生!

(おもしろいぞ、ちくしょうめ、うむちくしょう」おもしろいのにちくしょうよばわりは)

おもしろいぞ、畜生め、うむ畜生」おもしろいのに畜生よばわりは

(こういちにがてんがゆかなかった。「なにがおもしろいの?」)

光一に合点がゆかなかった。「なにがおもしろいの?」

(「なにがっておまえ、くそっ」おじさんはひどくこうふんしていた。)

「なにがっておまえ、くそッ」伯父さんはひどく興奮していた。

(「どろぼうめが、ちくしょう」「どろぼうがいたの?」「どろぼうじゃねえか、)

「どろぼうめが、畜生」「どろぼうがいたの?」「どろぼうじゃねえか、

(いちぶのぎいんとさかいとがぐるになって、どうろのしゅうぜんひをごまかしてせんきょひように)

一部の議員と阪井とがぐるになって、道路の修繕費をごまかして選挙費用に

(しようしやがった、それをおまえおおばさんがぎゅうぎゅうしつもんしたもんだから、)

使用しやがった、それをおまえ大庭さんがギュウギュウ質問したもんだから、

(こまりやがってきゅうけいにしやがった、さあおもしろい、おとうさんがいるか」)

困りやがって休憩にしやがった、さあおもしろい、お父さんがいるか」

(「ぼくはいまがっこうのかえりですからしらない」「しらない?ばかっ、)

「ぼくはいま学校の帰りですから知らない」「知らない? ばかッ、

(そんならそうとなぜはやくいわないのだ、そんなふうじゃしゅっせしないぞ」)

そんならそうとなぜ早くいわないのだ、そんな風じゃ出世しないぞ」

(おじさんはぶりぶりしてあしをいそがせたが、なにしろふとってるので)

伯父さんはぶりぶりして足を急がせたが、なにしろふとってるので

(あたまとせなかがゆれるわりあいにいっこうあしがはかどらなかった。そういうせいとうのあらそいは)

頭と背中がゆれる割合に一向足がはかどらなかった。そういう政党の争いは

(こういちにとってなんのきょうみもなかった、かれがいえへはいると、もうおじさんの)

光一にとってなんの興味もなかった、かれが家へはいると、もう伯父さんの

(おおきなこえがきこえていた。「どろぼうのやつめ、ちくしょうっ、さあおもしろいぞ」)

大きな声が聞こえていた。「どろぼうのやつめ、畜生ッ、さあおもしろいぞ」

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