狐ノ嫁入り

(とあるなつのよのゆめにひどくむねをやかれては)

とある夏の夜の夢に酷く胸を灼かれては

(こころかきみだされるぱらのいあ)

心掻き乱されるパラノヰア

(けものゆえのしょうぶんかあまいみつにじゅうじゅんな)

獣　故の性分か甘い蜜に従順な

(このみこがしこよいもかげんのつきをにらむ)

この身焦がし今宵も　下弦の月を睨む

(ふたつのよをわけへだつものこのてできりきざむために)

二つの世を分け隔つ物　この手で切り刻む為に

(みずかがみにうつるすがたさえもかえてみせよう)

水鏡に写る姿さえも変えて見せよう

(とおりあめでおわるなら)

通り雨で終わるなら

(ないてないてそれでもないて)

泣いて泣いてそれでも泣いて

(おおきなうみになったなら)

大きな湖(うみ)になったなら

(あなたはおぼれてくれますか)

貴方は溺れてくれますか

(わびしきあきのゆうぐれもまいちるゆきへとうつろう)

侘びしき秋の夕暮れも　舞い散る雪へと移ろう

(はせるおもいのたけもふりつもる)

馳せる想いの丈も降り積もる

(ひとめいまひとめよとせくこころをなだめては)

一目いま一目よ　と急く心を宥めては

(たまゆらのおうせへとあしばやにやみをかける)

玉響の逢瀬へと足早に闇を駆ける

(うめのはなかんざしにしてうったしばいのかずよりも)

梅の華　簪にして　打った芝居の数よりも

(いとまごいのわびしさにいくどもまくらぬらす)

暇乞いの侘びしさに幾度も枕濡らす

(とおりあめでおわるとも)

通り雨で終わるとも

(あいしあいしそれでもあいし)

愛し愛しそれでも愛し

(せんりのやまもこえたなら)

千里の山も越えたなら

(わたしをあいしてくれますか)

私を愛してくれますか

(しゅくめいにあらがいながらこいうたつむぐはるのよに)

宿命に抗いながら　恋唄紡ぐ春の夜に

(いとしきひとほほえむそのさきにおんなのかげ)

愛しき人　微笑むその先に女の影

(とおりあめにすぎずとも)

通り雨に過ぎずとも

(あいしあいしあいしつかれて)

愛し愛し愛し疲れて

(ばかしあいにかてぬなら)

化かし合いに勝てぬなら

(いっそふたりで)

いっそ二人で

(さんずのふなばをこえて)

三途の舟場を越えて

(ともにがきのせきにいろうか)

共に餓鬼の籍に入ろうか

(されこうべさえもいとしい)

髑髏さえも愛しい

(これがわたしのよめいり)

此が私の嫁入り

(ちしおのゆあみすんだらほどなくまいります)

血潮の湯浴み済んだら　程なく参ります