早春散歩

問題文
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(そらははれてても、たてものにはかげがあるよ、)
空は晴れてても、建物には陰があるよ、
(はる、そうしゅんはこころなびかせ、)
春、早春は心なびかせ、
(それがまるでうすぎぬででもあるやうに)
それがまるで薄絹ででもあるやうに
(はんけちででもあるやうに)
ハンケチででもあるやうに
(われらのこころをひきちぎり)
我等の心を引千切り
(きれぎれにしてかぜにちらせる)
きれぎれにして風に散らせる
(わたしはもう、まるでかこがなかつたかのやうに)
私はもう、まるで過去がなかつたかのやうに
(すくなくともかよっているひとたちのてまえさうであるかのごとくにかんじ、)
少くとも通つてゐる人達の手前さうであるかの如くに感じ、
(かぜのなかをふきすぎる)
風の中を吹き過ぎる
(いこくじんのやうなめなざしをして、)
異国人のやうな眼眸をして、
(かっこたるもののごとく、)
確固たるものの如く、
(またすきまかぜにもきえさるもののごとく)
また隙間風にも消え去るものの如く
(さうしてこのさびしいこころをいだいて、)
さうしてこの淋しい心を抱いて、
(ことしもまたはるをむかえへるものであることを)
今年もまた春を迎へるものであることを
(ゆるやかにも、ここにはるはたちかえりつたのであることを)
ゆるやかにも、茲に春は立返つたのであることを
(つちのうえのひざしをみながらつめたいかぜにふかれながら)
土の上の日射しをみながらつめたい風に吹かれながら
(どてのうえをあるきながら、とおくのそらをみやりながら)
土手の上を歩きながら、遠くの空を見やりながら
(ぼくはおもふ、おもふことにもなれきつてぼくはおもふ・・・・・)
僕は思ふ、思ふことにも慣れきつて僕は思ふ・・・・・