未帰還の友に~(4)~太宰治

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問題文
(ごにちごにおこなわれたことになるなんだかそこにかすかでもしょうじのとりかげの)
,五日後に行われた事になる。何だか、そこに、幽かでも障子の鳥影の
(ようにかすめてとおりすぎるきがかりのものがかんじられてぼくはいよいよ)
ように、かすめて通り過ぎる気がかりのものが感じられて、僕はいよいよ
(ゆううつになるばかりであったそれからはんとしほどもたったろうかせんちの)
憂鬱になるばかりであった。それから半年ほども経ったろうか、戦地の
(きみからひこうゆうびんがきたきみはなんぽうのあるしまにいるらしいそのてがみには)
君から飛行郵便が来た。君は南方のある島にいるらしい。その手紙には、
(べつにきくやのことはかいてなかったちはやじょうのまさなりになるつもりだなどと)
別に菊屋の事は書いてなかった。千早城の正成になるつもりだなどと
(かかれているだけであったぼくはすぐにへんじをかきまさしげにきくすいのはたを)
書かれているだけであった。僕はすぐに返事を書き、正成に菊水の旗を
(おくりたいがしかしきみにはきくすいのはたよりもきくかわのはたがおきにめす)
送りたいが、しかし、君には、菊水の旗よりも、菊川の旗がお気に召す
(ようにおもわれるしかしそのきくかわもそのごのようすふめいでこまっている)
ように思われる。しかし、その菊川も、その後の様子不明で困っている。
(わかりしだいこうびんでおしらせするといってったがどうにもかれら)
わかり次第、後便でお知らせする、と言ってったが、どうにも、彼等
(いっかのようすをさぐるしゅだんはなかったそれからもぼくはきみにてがみをかき)
一家の様子を探る手段は無かった。それからも僕は、君に手紙を書き、
(またざっしなどもおくってやったがきみからのへんじはぱったりなくなった)
また雑誌なども送ってやったが、君からの返事は、ぱったり無くなった。
(そのうちにれいのくうしゅうがはじまりないちもせんじょうになってきた)
そのうちに、れいの空襲がはじまり、内地も戦場になって来た。
(ぼくはにどもりさいしてとうとうこきょうのつがるのいえのいそうろうということになり)
僕は二度も罹災して、とうとう、故郷の津軽の家の居候という事になり、
(まいにちうかぬきもちでくらしているきみはいまだにきかんしたようすもない)
毎日、浮かぬ気持ちで暮らしている。君は未だに帰還した様子も無い。
(きかんしたらきっとぼくのところにそのしらせのてがみがきみからくるだ)
帰還したら、きっと僕のところに、その知らせの手紙が君からくるだ
(ろうとおもってまっているのだがなんのおとさたもないきみたちぜんぶが)
ろうと思って待っているのだが、なんの音沙汰も無い。君たち全部が
(げんきできかんしないうちはぼくはさけをのんでもまるでよえないきもち)
元気で帰還しないうちは、僕は酒を飲んでも、まるで酔えない気持
(であるじぶんだけいきのこってさけをのんでいたってばからしい)
である。自分だけ生き残って、酒を飲んでいたって、ばからしい。
(ひょっとしたらぼくはもうさけをよすことになるかもしれぬ)
ひょっとしたら、僕はもう、酒をよす事になるかもしれぬ