蟹工船2

順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | Par2 | 4009 | C | 4.1 | 97.8% | 563.6 | 2312 | 52 | 56 | 2025/02/20 |
問題文
(うすぐらいすみのほうで、はんてんをき、ももひきをはいた、)
薄暗い隅の方で、袢天を着、股引をはいた、
(ふろしきをさんかくにかぶったおんなでめんらしいははおやが、りんごのかわをむいて、)
風呂敷を三角にかぶった女出面らしい母親が、林檎の皮をむいて、
(たなにはらんばいになっているこどもにくわしてやっていた。)
棚に腹ん這いになっている子供に食わしてやっていた。
(こどものくうのをみながら、)
子供の食うのを見ながら、
(じぶんではむいたぐるぐるのわになったかわをくっている。)
自分では剥いたぐるぐるの輪になった皮を食っている。
(なにかしゃべったり、こどものそばのちいさいふろしきづつみをなんどもほどいたり、)
何かしゃべったり、子供のそばの小さい風呂敷包みを何度も解いたり、
(なおしてやっていた。そういうのがしち、はちにんもいた。)
直してやっていた。そういうのが七、八人もいた。
(だれもおくってきてくれるもののいないないちからきたこどもたちは、)
誰も送って来てくれるもののいない内地から来た子供達は、
(ときどきそっちのほうをぬすみみるように、みていた。)
時々そっちの方をぬすみ見るように、見ていた。
(かみやからだがせめんとのこなまみれになっているおんなが、)
髪や身体がセメントの粉まみれになっている女が、
(きゃらめるのはこからふたつぶくらいずつ、そのふきんのこどもたちにわけてやりながら、)
キャラメルの箱から二粒位ずつ、その附近の子供達に分けてやりながら、
(うちのけんきちとなかよくはたらいてやってけれよ、なといっていた。)
「うちの健吉と仲よく働いてやってけれよ、な」と云っていた。
(きのねのようにぶかっこうにおおきいざらざらしたてだった。)
木の根のように不恰好に大きいザラザラした手だった。
(こどもにはなをかんでやっているのや、てぬぐいでかおをふいてやっているのや、)
子供に鼻をかんでやっているのや、手拭で顔をふいてやっているのや、
(ぼそぼそなにかをいっているのや、あった。)
ボソボソ何か云っているのや、あった。
(おまえさんどこのこどもは、からだはええべものな)
「お前さんどこの子供は、身体はええべものな」
(ははおやどうしだった。)
母親同志だった。
(ん、まあおれどこのあ、とてもよわいんだ。)
「ん、まあ」「俺どこのア、とても弱いんだ。
(どうすべかっておもうんだども、なんしろ)
どうすべかッて思うんだども、何んしろ......」
(それあどこでも、ね)
「それア何処でも、ね」
(ふたりのぎょふがはっちからかんぱんへかおをだすと、ほっとした。)
----二人の漁夫がハッチから甲板へ顔を出すと、ホッとした。
(ふきげんに、きゅうにだまりあったままざつふのあなより、)
不機嫌に、急にだまり合ったまま雑夫の穴より、
(もっとせんしゅの、ていけいのじぶんたちのすにかえった。)
もっと船首の、梯形の自分達の「巣」に帰った。
(いかりをあげたり、くだしたりするたびに、)
錨を上げたり、下したりする度に、
(こんくりーと・みきさのなかになげこまれたように、みなははねあがり、)
コンクリート・ミキサの中に投げ込まれたように、皆は跳ね上り、
(ぶっつかりあわなければならなかった。)
ぶッつかり合わなければならなかった。
(それにぶたごやそっくりの、むねがすぐげえときそうなにおいがしていた。)
それに豚小屋そっくりの、胸がすぐゲエと来そうな臭いがしていた。
(くせえ、くせえ)
「臭せえ、臭せえ」
(そよ、おれだちだもの。ええかげん、こったらくさりかけたにおいでもすべよ)
「そよ、俺だちだもの。ええ加減、こったら腐りかけた臭いでもすべよ」
(あかいうすのようなあたまをしたぎょふが、いっしょうびんそのままで、)
赤い臼のような頭をした漁夫が、一升瓶そのままで、
(さけをはしのかけたちゃわんにそそいで、)
酒を端のかけた茶碗に注いで、
(するめをむしゃむしゃやりながらのんでいた。)
鯣<するめ>をムシャムシャやりながら飲んでいた。
(そのよこにあおむけにひっくりかえって、りんごをくいながら、)
その横に仰向けにひっくり返って、林檎を食いながら、
(こげのことをはなしたぎょふがきゅうにいかったようにいった。)
白首<こげ>のことを話した漁夫が急に怒ったように云った。
(ひょうしのぼろぼろしたこうだんざっしをみているのがいた。)
表紙のボロボロした講談雑誌を見ているのがいた。
(よにんわになってのんでいたのに、)
四人輪になって飲んでいたのに、
(まだのみたりなかったひとりがわりこんでいった。)
まだ飲み足りなかった一人が割り込んで行った。
(んだべよ。よんかげつもうみのうえだ。)
「.....んだべよ。四カ月も海の上だ。
(もう、これんかやれねべとおもって)
もう、これんかやれねべと思って......」
(がんじょうなからだをしたのが、そういって、)
頑丈な身体をしたのが、そう云って、
(あついしたくちびるをときどきくせのようになめながらめをほそめた。)
厚い下唇を時々癖のように嘗めながら眼を細めた。
(んで、さいふこれさ)
「んで、財布これさ」
(あのこげ、からだこったらにちいせえくせに、)
「あの白首<こげ>、身体こったらに小せえくせに、
(とてもうめえがったどお!)
とても上手えがったどオ!」
(おい、よせ、よせ!ええ、ええ、やれやれ)
「おい、止せ、止せ!」「ええ、ええ、やれやれ」
(あいてはへへへへへとわらった。)
相手はへへへへへと笑った。
(みれ、ほら、かんしんなもんだ。ん?よっためをちょうどむかいがわのたなのしたにすえて、)
「見れ、ほら、感心なもんだ。ん?」酔った眼を丁度向い側の棚の下にすえて、
(あごで、ん!とひとりがいった。)
顎で、「ん!」と一人が云った。
(ぎょふがそのにょうぼうにかねをわたしているところだった。)
漁夫がその女房に金を渡しているところだった。
(みれ、みれ、なあ!)
「見れ、見れ、なア!」
(ちいさいはこのうえに、しわくちゃになったさつやぎんかをならべて、)
小さい箱の上に、皺くちゃになった札や銀貨を並べて、
(ふたりでそれをかぞえていた。)
二人でそれを数えていた。
(おとこはちいさいてちょうにえんぴつをなめ、なめなにかかいていた。)
男は小さい手帖に鉛筆をなめ、なめ何か書いていた。
(みれ。ん!)
「見れ。ん!」
(おれにだってかかあやこどもはいるんだで)
「俺にだって嬶<かかあ>や子供はいるんだで」
(こげのことをはなしたぎょふがきゅうにおこったようにいった。)
白首<こげ>のことを話した漁夫が急に怒ったように云った。