じゃっ夏なんで　/かせきさいだぁ

(ぼくがずいぶんすばやくきしゃからおりたためくもをこがしたくらいさ)

僕が随分すばやく 汽車から降りたため 雲を焦がしたくらいさ

(かじいもとじろうのれもんのなかにでてくるようなまちのなかは)

梶井基次郎の『檸檬』の中に 出てくるような街の中は

(ほこりっぽいにおいがたちこめるとおりあめのあとで)

埃っぽいにおいが立ち込める 通り雨の後で

(またなきだしたせみのこえひびくろじはこまえとかしたかのよう)

また鳴きだした蝉の声響く路地は 駒絵と化したかのよう

(とおくからきこえるまつりばやしせすじをのばしたひまわり)

遠くから聞こえる祭囃子 背筋を伸ばした向日葵

(よこをすりぬけるしょうねんのとびこすみずたまりをまたいでから)

横をすり抜ける少年の 飛び越す水たまりを跨いでから

(ちょうどそこのかどをまがるぼくのしかいにとびこむのは)

ちょうどそこの角を曲がる僕の視界に飛び込むのは

(どこかおとなびたきみともこもことそふとくりーむのようなにゅうどうぐも)

どこか大人びた君と モコモコとソフトクリームのような入道雲

(いままでだんまりをきめこんでたふうりんたちさえいきおいさわぎだしたのは)

今までだんまりを決め込んでた風鈴たちさえ 勢い騒ぎだしたのは

(ぼくでさえはじめてみるきみのゆかたすがたのせいだけじゃなくて)

僕でさえはじめてみる 君の浴衣姿のせいだけじゃなくて

(そのくちもとすっとひかれたべにのねつにうかされたぼくが)

その口元 すっと引かれた紅の熱に浮かされた僕が

(かぜをこうどっとあたりにまきおこしたからさじんじゃへのみちは)

風をこうドッと辺りに巻き起こしたからさ 神社への道は

(ちょっとしたにぎわいをみせゆらゆらもえるかげろうせみしぐれ)

ちょっとした賑わいを見せ ゆらゆら燃えるカゲロウ 蝉しぐれ

(ゆかたすがたうすげしょうのそのほんのちょっとあかいくちびるのせいで)

浴衣姿 薄化粧のそのほんのちょっと 赤い唇のせいで

(のどはからからさあぁさいだーがあればこんなひは)

喉はカラカラさ あぁ サイダーがあればこんな日は

(でもきみのりくえすとにこたえしゃくしゃくときみといっしょにたべるかきごおり)

でも君のリクエストにこたえ シャクシャクと君と一緒に食べる かき氷

(よるともなればふたりはゆうがとうにさそいよせられるむしたちのごとく)

夜ともなれば 二人は誘蛾灯に誘い寄せられる 虫たちのごとく

(まつりにむかうひとなみのなかうすばかげろうさきみは)

祭りに向かう人並みの中 ウスバカゲロウさ 君は

(ぼくのつぶやきごえにうすげしょうをなおしたきみがふりむくとしたら)

僕のつぶやき声に薄化粧を直した 君が振り向くとしたら

(ゆあがりのしっかろーるのにおいをほんのすこしだけふわっとよかぜにのせる)

湯上りのシッカロールのにおいを　ほんの少しだけフワっと夜風に乗せる

(またはなつのふろーらからんころんとりいくぐり)

または夏のフローラ カランコロン鳥居くぐり

(かんらかんらとわらいごえひびくけいだいにしゃくだまはなびもくわわり)

カンラカンラと笑い声響く境内に 尺玉花火も加わり

(きみのくちびるべにをましうかんだほらしかもまうなつのよぞら)

君の唇 紅を増し浮かんだ ほら 鹿も舞う夏の夜空

(かえりみちのかわらはころころとかじかなき)

帰り道の川原はコロコロと 河鹿（かじか）鳴き

(くちによせるりんごあめ)

口に寄せる リンゴ飴