防衛本能

(ぬれたほおにぬりこんだだれかのよぶこえで)

濡れた頬に塗りこんだ誰かの呼ぶ声で

(かんたんにずれていくんだ)

簡単にズレていくんだ

(そうぞうをつめたあしたはつめたくなってしぼんでく)

想像を詰めた明日は冷たくなって萎んでく

(かれないぞうかみえないしょうしゃ)

枯れない造花　見えない勝者

(やりすごしてけばいい)

やり過ごしてけばいい

(くだらないとすりこんでゆがんだあいそわらいも)

下らないと刷り込んで歪んだ愛想笑いも

(さいしょからわかってたなんてつごうのいいことばでのみこんでさ)

｢最初からわかってた｣なんて都合のいい言葉で飲み込んでさ

(ずっといつわりでかさねたかおきずつかないいきかたのせおりーを)

ずっと偽りで重ねた顔　傷つかない生き方のセオリーを

(つみあげていまとほうにくれている)

積み上げて　いま途方にくれている

(かなわないみらいをただわらうことでなにをまもってるの)

叶わない未来をただ嘲笑(わら)うことで何を守ってるの？

(からだじゅうにからみついたこのぼうえいほんのう)

体中に絡みついた　この防衛本能

(だれかほどいてよ)

誰かほどいてよ

(ごみばこにほうりこんだにびいろのはもの)

ゴミ箱に放り込んだ　鈍色(にびいろ)の刃物

(きづいたらにぎってたれいしょうとやゆのあめのなか)

気付いたら握ってた　冷笑と揶揄(やゆ)の雨の中

(ほんとうはわかってたたたかうことやめちゃいけないんでしょ)

本当は分かってた　闘うことやめちゃいけないんでしょ？

(そしていつわりにもがれたうでとどかないのをみられたくなくて)

そして偽りにもがれた腕　届かないのを見られたくなくて

(しんだめのかおのないかげにおびえてる)

死んだ目の顔のない影に怯えてる

(だれもうばいにこないものをいつまでかかえつづけるんだろう)

誰も奪いにこないものをいつまで抱え続けるんだろう？

(あわのようにうかんできえるこのとうそうほんのう)

泡のように浮かんで消える　この闘争本能

(だれかきづいてよ)

誰か気付いてよ

(きみがすきなうたをうたいたかったそれだけだった)

君が好きな歌を歌いたかった　それだけだった

(いいわけがふえていったむかえのばすをまちつづけても)

言い訳が増えていった　迎えのバスを待ち続けても

(こないのにこないのに)

こないのに　こないのに

(ずっといつわりでかさねたかおまもらなきゃいけないものはぜんぶ)

ずっと偽りで重ねた顔　守らなきゃいけないものは全部

(つみあがったしせんのなかにはないよ)

積み上がった視線の中にはないよ

(いくえにもはりめぐらすだれかのためだけのよぼうせんを)

幾重にも張り巡らす　誰かの為だけの予防線を

(きりさいてきずつくのはじぶんだとしても)

切り裂いて傷つくのは自分だとしても

(もうかまいはしないそれでいいんだよ)

もう構いはしない　それでいいんだよ