夏目漱石「こころ」2-4

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投稿者投稿者たけしいいね0お気に入り登録
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夏目漱石「こころ」2-4
(中)両親と私
こっちゃん様が(上)の方を上げて下さっていたものの続きでございます。
タイピングを投稿するのは初めてですので、誤字脱字等ありましたらご連絡何卒宜しくお願い致します。

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こっちゃん様による(上)
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1 mame 5360 B++ 5.6 95.8% 378.5 2122 93 40 2024/11/24

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問題文

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(さん )

(わたくしのためにあかいめしをたいてきゃくをするというそうだんがちちとははのあいだにおこった。)

私のために赤い飯を炊いて客をするという相談が父と母の間に起った。

(わたくしはかえったとうじつから、あるいはこんなことになるだろうとおもって、)

私は帰った当日から、或はこんな事になるだろうと思って、

(こころのうちであんにそれをおそれていた。わたくしはすぐことわった。)

心のうちで暗にそれを恐れていた。私はすぐ断った。

(「あんまりぎょうさんなことはよしてください」)

「あんまり仰山な事は止して下さい」

(わたくしはいなかのきゃくがきらいだった。)

私は田舎の客が嫌だった。

(のんだりくったりするのを、さいごのもくてきとしてやってくるかれらは、)

飲んだり食ったりするのを、最後の目的として遣って来る彼等は、

(なにかことがあればいいといったふうのひとばかりそろっていた。)

何か事があれば好いといった風の人ばかり揃っていた。

(わたくしはこどものときからかれらのせきにじするのをこころぐるしくかんじていた。)

私は子供の時から彼等の席に侍するのを心苦しく感じていた。

(ましてじぶんのためにかれらがくるとなると、)

まして自分のために彼等が来るとなると、

(わたくしのくつうはいっそうはなはだしいようにそうぞうされた。)

私の苦痛は一層甚だしいように想像された。

(しかしわたくしはちちやははのてまえ、あんなやひなひとをあつめてさわぐのはよせともいいかねた。)

然し私は父や母の手前、あんな野鄙な人を集めて騒ぐのは止せとも云いかねた。

(それでわたくしはただあまりぎょうさんだからとばかりしゅちょうした。)

それで私はただあまり仰山だからとばかり主張した。

(「ぎょうさんぎょうさんとおいいだが、ちっともぎょうさんじゃないよ。)

「仰山々々と御云いだが、些とも仰山じゃないよ。

(しょうがいににどとあることじゃないんだからね、おきゃくくらいするのはあたりまえだよ。)

生涯に二度とある事じゃないんだからね、御客位するのは当り前だよ。

(そうえんりょをおしでない」)

そう遠慮を御為でない」

(はははわたくしがだいがくをそつぎょうしたのを、ちょうどよめでももらったとおなじていどに、)

母は私が大学を卒業したのを、丁度嫁でも貰ったと同じ程度に、

(おもくみているらしかった。)

重く見ているらしかった。

(「よばなくってもいいが、よばないとまたなんとかいうから」)

「呼ばなくっても好いが、呼ばないと又何とか云うから」

(これはちちのことばであった。ちちはかれらのかげぐちをきにしていた。)

これは父の言葉であった。父は彼等の陰口を気にしていた。

など

(じっさいかれらはこんなばあいに、じぶんたちのよきどおりにならないと、)

実際彼等はこんな場合に、自分達の予期通りにならないと、

(すぐなんとかいいたがるひとびとであった。)

すぐ何とか云いたがる人々であった。

(「とうきょうとちがっていなかはうるさいからね」ちちはこうもいった。)

「東京と違って田舎は蒼蠅いからね」父はこうも云った。

(「おとうさんのかおもあるんだから」とははがつけくわえた。)

「御父さんの顔もあるんだから」と母が付け加えた。

(わたくしはがをはるわけにもいかなかった。)

私は我を張る訳にも行かなかった。

(どうでもふたりのつごうのいいようにしたらとおもいだした。)

どうでも二人の都合の好いようにしたらと思い出した。

(「つまりわたくしのためなら、よしてくださいというだけなんです。)

「つまり私のためなら、止して下さいと云うだけなんです。

(かげでなにかいわれるのがいやだからというごしゅいなら、そりゃまたべつです。)

陰で何か云われるのが厭だからという御主意なら、そりゃ又別です。

(あなたがたにふりえきなことをわたくしがしいてしゅちょうしたってしかたがありません」)

あなたがたに不利益な事を私が強いて主張したって仕方がありません」

(「そうりくつをいわれるとこまる」)

「そう理窟を云われると困る」

(ちちはにがいかおをした。)

父は苦い顔をした。

(「なにもおまえのためにするんじゃないとおとうさんがおっしゃるんじゃないけれども、)

「何も御前の為にするんじゃないと御父さんが仰しゃるんじゃないけれども、

(おまえだってせけんへのぎりくらいはしっているだろう」)

御前だって世間への義理位は知っているだろう」

(はははこうなるとおんなだけにしどろもどろなことをいった。)

母はこうなると女だけにしどろもどろな事を云った。

(そのかわりくちかずからいうと、ちちとわたくしをふたりよせてもなかなかかなうどころではなかった。)

その代り口数からいうと、父と私を二人寄せても中々敵うどころではなかった。

(「がくもんをさせるとにんげんがとかくりくつっぽくなっていけない」)

「学問をさせると人間がとかく理屈っぽくなって不可ない」

(ちちはただこれだけしかいわなかった。しかしわたくしはこのかんたんないっくのうちに、)

父はただこれだけしか云わなかった。然し私はこの簡単な一句のうちに、

(ちちがへいぜいからわたくしにたいしてもっているふへいのぜんたいをみた。)

父が平生から私に対して有っている不平の全体を見た。

(わたくしはそのときじぶんのことばづかいのかくばったところにきがつかずに、)

私はその時自分の言葉使いの角張ったところに気が付かずに、

(ちちのふへいのほうばかりをむりのようにおもった。)

父の不平の方ばかりを無理のように思った。

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