シャボン王子と無間地獄
歌詞(問題文)
(むかしむかしのおはなしぼうこくのおうじはきづいた)
昔々のお話 某国の王子は気付いた
(「どうやらぼくのひとみはひととはすこしかってがちがうようだ」)
「どうやら僕の瞳は他人とは少し勝手が違うようだ」
(いつからかかしんのこえもみんしゅうのこえもおとうさまのこえも)
いつからか家臣の声も民衆の声もお父様の声も
(いろのついたしゃぼんだまとなってかれのしかいをうめた)
色の付いたシャボン玉となって彼の視界を埋めた
(よろこびはぴんくいろうそをつけばすぐににごった)
喜びはピンク色 嘘をつけばすぐに濁った
(かくれてあくじをはたらくふとどきものもひとめでわかった)
隠れて悪事を働く不届き者も一目で分かった
(「ああこのちからさえあればぜんぶあんたいだ」そうかくしんしたんだ)
「ああ この力さえあれば全部安泰だ」そう確信したんだ
(ひとびとはかれをしゃぼんおうじとよんだ)
人々は彼を“シャボン王子”と呼んだ
(ふわふわふわふわりえほんのなかみたいなこうけい)
ふわふわふわふわり… 絵本の中みたいな光景
(ぱちぱちぱちぱちりぶとうじょうのしゃんでりあよりきれい)
ぱちぱちぱちぱちり… 舞踏上のシャンデリアよりきれい
(「これはきっとさかみさまからみそめられたしょうめい)
「これはきっとさ 神様から見初められた証明
(このくにをまもっていくそのためにうまれてきた)
この国を守っていく そのために生まれてきた
(どうせならさこころのこえもみえたならいいのに」)
どうせならさ 心の声も見えたならいいのに」
(それをきいたかみさまはきまぐれにねがいをかなえた)
それを聞いた神様は気まぐれに願いを叶えた
(しじょうをみまわりちゅうやせぎすのせいねんとであった)
市場を見回り中 痩せぎすの青年と出会った
(じさつがんぼうがまっくろいしゃぼんだまとなってそらをおおっていた)
自殺願望が真っ黒いシャボン玉となって空を覆っていた
(「ぼくがきたからにはもうだいじょうぶだぞ」そういってかたをたたいて)
「僕が来たからにはもう大丈夫だぞ」そう言って肩を叩いて
(おもえばそれがはぐるまをくるわせたしゅんかんだった)
思えばそれが歯車を狂わせた瞬間だった
(しょたいめんのおとこにこころをみすかされたしゅうち)
初対面の男に心を見透かされた羞恥
(なによりきたいというむじゃきなじゅうあつにたえられるわけなく)
何より期待という無邪気な重圧に耐えられるわけなく
(せいねんはちからいっぱいしたをかみきりそのばでしんでしまった)
青年は力一杯舌を嚙み切り その場で死んでしまった
(どこからかかんだかいひめいがきこえた)
どこからか甲高い悲鳴が聞こえた
(ひとごろしといしをなげられてもなげだせぬしょくむとざいあくかん)
“人殺し”と石を投げられても投げ出せぬ職務と罪悪感
(ときをまたずさけにおぼれじことたこのさかいなくすまいや)
時を待たず酒に溺れ 自己と他己の境失くす毎夜
(「めにうつるものすべてかがみのまえじゃぼくもれいにもれずてきなんだ」って)
「目に映るもの全て 鏡の前じゃ僕も例に漏れず敵なんだ」って
(そういいのこしとうとうきがふれた)
そう言い残しとうとう気が触れた
(すうねんまえのえいこうがうそみたいなちかろうで)
数年前の栄光が嘘みたいな地下牢で
(「いちぞくのはじ」と「うまなきゃよかった」と)
「一族の恥」と「産まなきゃよかった」と
(さげすむこえもかれのみみにはもうとどかない)
蔑む声も彼の耳にはもう届かない
(もはやいきするだけのしかばねをもてあましていたところこうつぶやく)
もはや息するだけの屍を持て余していたところこう呟く
(「かみよすべておまえのせいだ」)
「神よ 全てお前のせいだ」
(ひどくちばしったりょうめでくうをにらみつける)
ひどく血走った両目で空を睨み付ける
(かみさまはこうかえした「ちょうしにのんな」って)
神様はこう返した「調子に乗んな」って
(「おれのよみがまちがってたっていうのか)
「俺の読みが間違ってたっていうのか
(それならばおのぞみどおりいきすぎたちからをなくしてしんぜよう)
それならばお望み通り“行き過ぎた力”を無くして進ぜよう
(つちへかえれ、いのちもろどもこんなおんしらずなだけのしっぱいさく)
土へ還れ、命諸共 こんな恩知らずなだけの失敗作
(てんごくにもじごくにさえもいけるなんておもうなよ)
天国にも地獄にさえも行けるなんて思うなよ
(さあ、これでぜんぶおしまい」)
さあ、これで全部おしまい」
(しょせんかれがきえたところで おとずれるへいわもきょあくもなかった)
所詮彼が消えたところで 訪れる平和も巨悪もなかった
(このせかいになにもあたえられなかった)
この世界に何も与えられなかった
(さながらはじめからいなかったかのように)
さながら初めから居なかったかのように
(これからかれはあのひのあやまちをかえりみることもつぐなうことも)
これから彼はあの日の過ちを顧みることも償うことも
(じぶんかってになくこともとうていゆるされず)
自分勝手に泣くことも到底許されず
(むというむげんじごくのなかでえいきゅうにさまよいつづけるのだ)
“無”という無間地獄の中で永久に彷徨い続けるのだ
(めでたしめでたし)
めでたしめでたし…