Vessel

(きみにとってはくだらないぼくをかたりくたびれるかげ)

君にとってはくだらない「仮説」を語り草臥れる影

(はやすひとみにはうつらないすりぬけたもうじょうのさやで)

囃す瞳には映らない　すり抜けた網状の鞘で

(みえぬならふみつけてもだれのこころもいたまない！)

「見えぬなら踏みつけても　誰の心も痛まない！」

(あらがいもしないひとをまくしてわらったのはだれ？)

抗いもしない人を　捲して笑ったのは誰？

(よいにまどうほどのわらべにもなれず、ひじょうにもいきれない。)

宵に惑うほどの童子にもなれず、非情にも生きれない。

(いまにたおれるじょうかくもかれのせいぎならたえずと、つらぬくだろう。)

今に手折れる城郭も彼の正義なら　絶えずと、貫くだろう。

(つきをかざりしれたひとのはいしょくになつかしむおもかげを)

月を飾り知れた人の敗色に　懐かしむ面影を

(すべてうばいつくしたころなくしたえにしをさがせど、いまさらで。)

全て奪い尽くした頃　失くした縁を探せど、今さらで。

(いつのよるからかくだらないぼくをかたることもなくなり)

いつの夜からかくだらない「仮説」を語る事も無くなり

(こきゅうさえもわすれておもいあがるものにやいばをむけ)

呼吸さえも忘れて　思い上がる者に刃を向け

(われさきとしずみかけたもろきこぶねをおりたがり)

我先と沈みかけた　脆き小舟を降りたがり

(ほこらかにいくおうらいでついそうにうれうのはなぜ？)

誇らかに行く往来で　追想に憂うのは何故？

(たそかれにおきわすれていたしゅじゅのねが、うつせみにめぶくように。)

誰そ彼に置き忘れていた種々の音が、空蝉に芽吹くように。

(かこになぐさみをさがしてうつしえをだけばだれもが、おろかになる。)

過去に慰みを探して写し絵を抱けば　誰もが、愚かになる。

(てをつなぐまでとぎれていたきおくはきずつかないずるさで)

手を繋ぐ迄で途切れていた記憶は　疵付かない狡さで

(なにひとつもどらないならいくえのなおりよのこらずも、さらって。)

何ひとつ戻らないなら　幾重の波折りよ残らずも、攫って。

(だれしもがことばもなくめんをかたてにさぐりあい)

誰しもが本心も無く　面を片手に探り合い

(いぶかるもまちどおしといとしくあろうとした。)

訝るも待ち遠しと　愛しくあろうとした。

(それだけ？)

…それだけ？

(はらりはらりおちていこうわくらばに、ねがいごとたわむれて。)

はらり　はらり落ちて行こうわくら葉に、願い事戯れて。

(いまはたどれないおおぞらにはなつとりとなれあこがれ、くちてゆくなら。)

今は辿れない大空に放つ鳥となれ　憧れ、朽ちてゆくなら。

(まつびまできりとったばめんにはぼくににたおもかげと)

末尾まで切り取った場面には　「僕」に似た面影と

(きげきをゆるしよりそったかげぼうしふたつみはてぬ、ひとのたね。)

喜劇を許し寄り添った影法師ふたつ　見果てぬ、人の夢。

(よのうつわにさかせて)

世の器に　咲かせて