夏目漱石「こころ」3-31

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投稿者投稿者たけしいいね0お気に入り登録
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夏目漱石「こころ」3-31
下)先生と遺書
夏目漱石の「こころ」(下)でございます。
なるべく原文ママで問題を設定しておりますので、誤字なのか原文なのかややこしいとは思われますが最後までお付き合い下さい。

オリジナルの書き方・読み方については以下に載せますので、参考の程よろしくお願い致します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
4:頗ぶる(すこぶる)
42:誘き寄せられる(おびきよせられる)
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前回からの続きです。少し長くなっちゃいました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 berry 7277 7.5 96.2% 301.6 2283 88 45 2024/09/26
2 なおきち 7254 7.5 96.5% 305.2 2295 81 45 2024/10/23
3 ヤス 6890 S++ 7.4 92.7% 309.1 2310 180 45 2024/10/27
4 饅頭餅美 5523 A 5.7 96.6% 404.6 2314 79 45 2024/10/11
5 やまちゃん 4629 C++ 4.8 95.6% 472.6 2291 103 45 2024/10/31

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問題文

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(しかしこれはただおもいだしたついでにかいただけで、じつはどうでもかまわないてんです。)

然しこれはただ思い出した序に書いただけで、実はどうでも構わない点です。

(ただそこにどうでもよくないことがひとつあったのです。)

ただ其所にどうでも可くない事が一つあったのです。

(ちゃのまか、さもなければおじょうさんのへやで、とつぜんおとこのこえがきこえるのです。)

茶の間か、さもなければ御嬢さんの室で、突然男の声が聞こえるのです。

(そのこえがまたわたくしのきゃくとちがって、すこぶるひくいのです。)

その声が又私の客と違って、頗ぶる低いのです。

(だからなにをはなしているのかまるでわからないのです。)

だから何を話しているのかまるで分らないのです。

(そうしてわからなければわからないほど、わたくしのしんけいにいっしゅのこうふんをあたえるのです。)

そうして分らなければ分らない程、私の神経に一種の昂奮を与えるのです。

(わたくしはすわっていてへんにいらいらしだします。)

私は坐っていて変にいらいらし出します。

(わたくしはあれはしんるいなのだろうか、)

私はあれは親類なのだろうか、

(それともただのしりあいなのだろうかとまずかんがえてみるのです。)

それとも唯の知り合いなのだろうかとまず考えて見るのです。

(それからわかいおとこだろうかねんぱいのひとだろうかとしあんしてみるのです。)

それから若い男だろうか年輩の人だろうかと思案して見るのです。

(すわっていてそんなことのしれようはずがありません。)

坐っていてそんな事の知れよう筈がありません。

(そうかといって、たっていってしょうじをあけてみるわけにはなおいきません。)

そうかと云って、起って行って障子を開けて見る訳には猶行きません。

(わたくしのしんけいはふるえるというよりも、おおきなはどうをうってわたくしをくるしめます。)

私の神経は震えるというよりも、大きな波動を打って私を苦しめます。

(わたくしはきゃくのかえったあとで、きっとわすれずにそのひとのなをききました。)

私は客の帰った後で、きっと忘れずにその人の名を聞きました。

(おじょうさんやおくさんのへんじは、またきわめてかんたんでした。)

御嬢さんや奥さんの返事は、又極めて簡単でした。

(わたくしはものたりないかおをふたりにみせながら、)

私は物足りない顔を二人に見せながら、

(ものたりるまではくきゅうするゆうきをもっていなかったのです。)

物足りるまで迫窮する勇気を有っていなかったのです。

(けんりはむろんもっていなかったのでしょう。)

権利は無論有っていなかったのでしょう。

(わたくしはじぶんのひんかくをおもんじなければならないというきょういくからきたじそんしんと、)

私は自分の品格を重んじなければならないという教育から来た自尊心と、

(げんにそのじそんしんをうらぎりしているものほしそうなかおつきとをどうじに)

現にその自尊心を裏切している物欲しそうな顔付とを同時に

など

(かれらのまえにしめすのです。)

彼等の前に示すのです。

(かれらはわらいました。)

彼等は笑いました。

(それがちょうしょうのいみでなくって、こういからきたものか、)

それが嘲笑の意味でなくって、好意から来たものか、

(またこういらしくみせるつもりなのか)

又好意らしく見せる積りなのか、

(わたくしはそくざにかいしゃくのよちをみいだしえないほどおちつきをうしなってしまうのです。)

私は即座に解釈の余地を見出し得ない程落付を失ってしまうのです。

(そうしてことがすんだあとで、)

そうして事が済んだ後で、

(いつまでも、ばかにされたのだ、ばかにされたんじゃなかろうかと、)

いつまでも、馬鹿にされたのだ、馬鹿にされたんじゃなかろうかと、

(なんべんもこころのうちでくりかえすのです。)

何遍も心のうちで繰り返すのです。

(わたくしはじゆうなからだでした。)

私は自由な身体でした。

(たといがっこうをちゅうとでやめようが、またどこへいってどうくらそうが、)

たとい学校を中途で已めようが、又何処へ行ってどう暮らそうが、

(あるいはどこのなにものとけっこんしようが、)

或はどこの何者と結婚しようが、

(だれともそうだんするひつようのないいちにたっていました。)

誰とも相談する必要のない位地に立っていました。

(わたくしはおもいきって)

私は思い切って

(おくさんにおじょうさんをもらいうけるはなしをしてみようか)

奥さんに御嬢さんを貰い受ける話をして見ようか

(というけっしんをしたことがそれまでになんどとなくありました。)

という決心をした事がそれまでに何度となくありました。

(けれどもそのたびごとにわたくしはちゅうちょして、くちへはとうとうださずにしまったのです。)

けれどもその度毎に私は躊躇して、口へはとうとう出さずにしまったのです。

(ことわられるのがおそろしいからではありません。)

断られるのが恐ろしいからではありません。

(もしことわられたら、わたくしのうんめいがどうへんかするかわかりませんけれども、)

もし断られたら、私の運命がどう変化するか分りませんけれども、

(そのかわりいままでとはほうがくのちがったばしょにたって、)

その代わり今までとは方角の違った場所に立って、

(あたらしいよのなかをみわたすべんぎもしょうじてくるのですから、)

新らしい世の中を見渡す便宜も生じて来るのですから、

(そのくらいのゆうきはだせばだせたのです。)

そのくらいの勇気は出せば出せたのです。

(しかしわたくしはおびきよせられるのがいやでした。)

然し私は誘き寄せられるのが厭でした。

(ひとのてにのるのはなによりもごうはらでした。)

他の手に乗るのは何よりも業腹でした。

(おじにだまされたわたくしは、)

叔父に欺まされた私は、

(これからさきどんなことがあっても、ひとにはだまされまいとけっしんしたのです。)

これから先どんな事があっても、人には欺まされまいと決心したのです。

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