花祭り

(あおいそらがかすむあわいうすべにいろで)

青い空がかすむ　淡い薄紅色で

(こころかすかにおどるさきほこるはなのかおりに)

心かすかに踊る　咲き誇る花の香りに

(かぞくよにんがそろいながめたあのさくらを)

家族四人がそろい　眺めたあの桜を

(ことしはむすめのてをにぎりしめみあげてる)

今年は娘の手を　握りしめ見上げてる

(はなびらひらりひらり)

花びら　ひらり　ひらり

(ちってゆくせつなに)

散ってゆく刹那に

(だれかをゆらりゆらり)

誰かをゆらり　ゆらり

(そっとおもいだしている)

そっと思い出している

(ひさしぶりすずさん)

久しぶり　すずさん

(りんさん)

リンさん！

(いろうかいでおとくいさんと みんなときとるんよ)

慰労会でお得意さんと みんなと来とるんよ

(うちもかぞくと)

うちも家族と

(ねえおちゃわんくれたの すずさんじゃろ)

ねえ　お茶碗くれたの すずさんじゃろ？

(ありがとうね)

ありがとうね

(おっとがむかしこうたおちゃわん)

夫が昔買うたお茶碗

(なんかりんさんににあうきがしたけえ)

なんかリンさんに似合う気がしたけえ

(すずさんこれつこうたって てるちゃんのくちべに)

すずさん　これ使うたって テルちゃんの口紅

(てるちゃん)

テルちゃん？

(あんたがおちゃわんあずけたこまいこじゃ)

あんたがお茶碗預けたこまい子じゃ

(ああ)

ああ！

(あのこねあのあとはいえんでしんだんよ)

あの子ね　あの後肺炎で死んだんよ

(しんだ)

死んだ...？

(なんかわからんけど あんたのことようおぼえとった)

なんか分からんけど あんたのことよう覚えとった

(これできれいにし)

これで綺麗にし

(はるをまちのぞんでひとはむねをこがす)

春を待ち望んで　人は胸を焦がす

(いつかはみたされるとねがってはそらをあおぐ)

いつかは満たされると　願っては空を仰ぐ

(くうしゅうにおうたら きれいなしたいからはようかたづけてもらえるそうな)

空襲におうたら 綺麗な死体から早う片付けてもらえるそうな

(ありがとう)

ありがとう

(すずさんひとがきえたらきおくはのおなる)

すずさん　人が消えたら記憶はのおなる

(ひみつはなかったことになる)

秘密はなかったことになる

(それはそれで ぜいたくなことなのかもしれんよ)

それはそれで 贅沢なことなのかもしれんよ

(じぶんせんようのおちゃわんとおなじくらいにね)

自分専用のお茶碗と同じくらいにね

(さてもういかんと にげたとおもわれるわい)

さて　もう行かんと 逃げたと思われるわい

(ええまた)

ええ　また

(あおいそらがかすむあわいうすべにいろで)

青い空がかすむ　淡い薄紅色で

(しらないはずのあなたに)

知らないはずのあなたに

(おもいをはせた)

思いを馳せた

(あのこにひらりひらりひらり)

あの子にひらり　ひらりひらり

(はなびらがまいちる)

花びらが舞い散る

(はなびらひらりひらり)

花びらひらりひらり

(ちってゆくせつなに)

散ってゆく刹那に

(だれかをゆらりゆらり)

誰かをゆらりゆらり

(そっとおもいだすの)

そっと思い出すの

(はなびらひらりひらり)

花びらひらりひらり

(きえてゆくきせつも)

消えてゆく季節も

(もどらないひびもひとも)

戻らない日々も人も

(あわいうすべにいろに)

淡い薄紅色に

(そっとそまってゆく)

そっと染まってゆく