夏目漱石「こころ」3-65

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投稿者投稿者たけしいいね0お気に入り登録
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夏目漱石「こころ」3-65
下)先生と遺書
夏目漱石の「こころ」(下)でございます。
なるべく原文ママで問題を設定しておりますので、誤字なのか原文なのかややこしいとは思われますが最後までお付き合い下さい。

オリジナルの書き方・読み方については以下に載せますので、参考の程よろしくお願い致します。
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5:空虚う(がらんどう)
27:歇った(あがった)
32:真直(まっすぐ)
34:放水(みずはき)
50:替せました(かわせました)
54:少からず(すくなからず)
60:踏ん込みました(ふんごみました)
65:飛泥(はね)
65:糠る海(ぬかるみ)
65:自棄に(やけに)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
切りがいい所で終わらそうと考えている内に今回はやけに長くなってしまいました。
頑張ってくださいネ。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 berry 7976 8.1 98.4% 419.0 3394 52 66 2024/08/14

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問題文

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(さんじゅうさん)

三十三

(「じゅういちがつのさむいあめのふるひのことでした。)

「十一月の寒い雨の降る日の事でした。

(わたくしはがいとうをぬらして)

私は外套を濡らして

(れいのとおりこんにゃくえんまをぬけてほそいさかみちをあがってうちへかえりました。)

例の通り蒟蒻閻魔を抜けて細い坂路を上って宅へ帰りました。

(けいのへやはがらんどうでしたけれども、)

Kの室は空虚うでしたけれども、

(ひばちにはつぎたてのひがあたたかそうにもえていました。)

火鉢には継ぎたての火が暖かそうに燃えていました。

(わたくしもつめたいてをはやくあかいすみのうえにかざそうとおもって、)

私も冷たい手を早く赤い炭の上に翳そうと思って、

(いそいでじぶんのへやのしきりをあけました。)

急いで自分の室の仕切を開けました。

(するとわたくしのひばちにはつめたいはいがしろくのこっているだけで、)

すると私の火鉢には冷たい灰が白く残っているだけで、

(ひだねさえつきているのです。)

火種さえ尽きているのです。

(わたくしはきゅうにふゆかいになりました。)

私は急に不愉快になりました。

(そのときわたくしのあしおとをきいてでてきたのは、おくさんでした。)

その時私の足音を聞いて出て来たのは、奥さんでした。

(おくさんはだまってへやのまんなかにたっているわたくしをみて、)

奥さんは黙って室の真中に立っている私を見て、

(きのどくそうにがいとうをぬがせてくれたり、にほんふくをきせてくれたりしました。)

気の毒そうに外套を脱がせてくれたり、日本服を着せてくれたりしました。

(それからわたくしがさむいというのをきいて、)

それから私が寒いというのを聞いて、

(すぐつぎのまからけいのひばちをもってきてくれました。)

すぐ次の間からKの火鉢を持って来てくれました。

(わたくしがけいはもうかえったのかとききましたら、)

私がKはもう帰ったのかと聞きましたら、

(おくさんはかえってまたでたとこたえました。)

奥さんは帰って又出たと答えました。

(そのひもけいはわたくしよりおくれてかえるじかんわりだったのですから、)

その日もKは私より後れて帰る時間割だったのですから、

(わたくしはどうしたわけかとおもいました。)

私はどうした訳かと思いました。

など

(おくさんはおおかたようじでもできたのだろうといっていました。)

奥さんは大方用事でも出来たのだろうと云っていました。

(わたくしはしばらくそこにすわったまましょけんをしました。)

私はしばらく其所に坐ったまま書見をしました。

(うちのなかがしんとしずまって、だれのはなしごえもきこえないうちに、)

宅の中がしんと静まって、誰の話し声も聞こえないうちに、

(はつふゆのさむさとわびしさとが、わたくしのからだにくいこむようなかんじがしました。)

初冬の寒さと侘びしさとが、私の身体に食い込むような感じがしました。

(わたくしはすぐしょもつをふせてたちあがりました。)

私はすぐ書物を伏せて立ち上りました。

(わたくしはふとにぎやかなところへいきたくなったのです。)

私は不図賑やかな所へ行きたくなったのです。

(あめはやっとあがったようですが、そらはまだつめたいなまりのようにおもくみえたので、)

雨はやっと歇ったようですが、空はまだ冷たい鉛のように重く見えたので、

(わたくしはようじんのため、じゃのめをかたにかついで、)

私は用心のため、蛇の目を肩に担いで、

(ほうへいこうしょうのうらてのどべいについてひがしへさかをおりました。)

砲兵工廠の裏手の土塀について東へ坂を下りました。

(そのじぶんはまだどうろのかいせいができないころだったので、)

その時分はまだ道路の改正が出来ない頃だったので、

(さかのこうばいがいまよりもずっときゅうでした。)

坂の勾配が今よりもずっと急でした。

(みちはばもせまくて、ああまっすぐではなかったのです。)

道幅も狭くて、ああ真直ではなかったのです。

(そのうえあのたにへおりると、みなみがたかいたてものでふさがっているのと、)

その上あの谷へ下りると、南が高い建物で塞がっているのと、

(みずはきがよくないのとで、おうらいはどろどろでした。)

放水がよくないのとで、往来はどろどろでした。

(ことにほそいいしばしをわたってやなぎちょうのとおりへでるあいだがひどかったのです。)

ことに細い石橋を渡って柳町の通りへ出る間が非道かったのです。

(あしだでもながぐつでもむやみにあるくわけにはいきません。)

足駄でも長靴でも無暗に歩く訳には行きません。

(だれでもみちのまんなかにしぜんとほそながくどろがかきわけられたところを、)

誰でも路の真中に自然と細長く泥が掻き分けられた所を、

(ごしょうだいじにたどっていかなければならないのです。)

後生大事に辿って行かなければならないのです。

(そのはばはわずかいちにしゃくしかないのですから、)

その幅は僅か一二尺しかないのですから、

(てもなくおうらいにしいてあるおびのうえをふんでむこうへこすのとおなじことです。)

手もなく往来に敷いてある帯の上を踏んで向へ越すのと同じ事です。

(いくひとはみんないちれつになってそろそろとおりぬけます。)

行く人はみんな一列になってそろそろ通り抜けます。

(わたくしはこのほそおびのうえで、はたりとけいにであいました。)

私はこの細帯の上で、はたりとKに出会いました。

(あしのほうにばかりきをとられていたわたくしは、かれとむきあうまで、)

足の方にばかり気を取られていた私は、彼と向き合うまで、

(かれのそんざいにまるできがつかずにいたのです。)

彼の存在にまるで気が付かずにいたのです。

(わたくしはふいにじぶんのまえがふさがったのでぐうぜんめをあげたとき、)

私は不意に自分の前が塞がったので偶然眼を上げた時、

(はじめてそこにたっているけいをみとめたのです。)

始めて其所に立っているKを認めたのです。

(わたくしはけいにどこへいったのかとききました。)

私はKに何処へ行ったのかと聞きました。

(けいはちょっとそこまでといったぎりでした。)

Kは一寸其所までと云ったぎりでした。

(かれのこたえはいつものとおりふんというちょうしでした。)

彼の答えは何時もの通りふんという調子でした。

(けいとわたくしはほそいおびのうえでからだをかわせました。)

Kと私は細い帯の上で身体を替せました。

(するとけいのすぐうしろにひとりのわかいおんながたっているのがみえました。)

するとKのすぐ後に一人の若い女が立っているのが見えました。

(きんがんのわたくしには、いままでそれがよくわからなかったのですが、)

近眼の私には、今までそれが能く分らなかったのですが、

(けいをやりこしたあとで、そのおんなのかおをみると、)

Kを遣り越した後で、その女の顔を見ると、

(それがうちのおじょうさんだったので、わたくしはすくなからずおどろきました。)

それが宅の御嬢さんだったので、私は少からず驚ろきました。

(おじょうさんはこころもちうすあかいかおをして、わたくしにあいさつをしました。)

御嬢さんは心持薄赤い顔をして、私に挨拶をしました。

(そのじぶんのそくはつはいまとちがってひさしがでていないのです。)

その時分の束髪は今と違って廂が出ていないのです。

(そうしてあたまのまんなかにへびのようにぐるぐるまきつけてあったものです。)

そうして頭の真中に蛇のようにぐるぐる巻きつけてあったものです。

(わたくしはぼんやりおじょうさんのあたまをみていましたが、つぎのしゅんかんに、)

私はぼんやり御嬢さんの頭を見ていましたが、次の瞬間に、

(どっちかみちをゆずらなければならないのだということにきがつきました。)

何方か路を譲らなければならないのだという事に気が付きました。

(わたくしはおもいきってどろどろのなかへかたあしふんごみました。)

私は思い切ってどろどろの中へ片足踏ん込みました。

(そうしてひかくてきとおりやすいところをあけて、おじょうさんをわたしてやりました。)

そうして比較的通り易い所を空けて、御嬢さんを渡して遣りました。

(それからやなぎちょうのとおりへでたわたくしはどこへいっていいか)

それから柳町の通りへ出た私は何処へ行って好いか

(じぶんにもわからなくなりました。)

自分にも分らなくなりました。

(どこへいってもおもしろくないようなこころもちがするのです。)

何処へ行っても面白くないような心持がするのです。

(わたくしははねのあがるのもかまわずに、ぬかるみのなかをやけにどしどしあるきました。)

私は飛泥の上がるのも構わずに、糠る海の中を自棄にどしどし歩きました。

(それからすぐうちへかえってきました。)

それから直ぐ宅へ帰って来ました。

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