先生 前編 -7-

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師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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問題文

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(「いまはなつやすみでしょう。わたし、なつやすみのあいだこのあたりのこどもたちに)

「今は夏休みでしょう。私、夏休みのあいだこのあたりの子供たちに

(ここでべんきょうをおしえてあげてるの」)

ここで勉強を教えてあげてるの」

(「べんきょう?」)

「勉強?」

(「うん。わたし、となりのまちでしょうがっこうのせんせいをしてるの。りんじやといだけど。)

「うん。私、隣の街で小学校の先生をしてるの。臨時雇いだけど。

(わたしもなつやすみだから、することがなくって。ひまつぶしもかねてね。)

私も夏休みだから、することがなくって。暇つぶしもかねてね。

(だからこのなつやすみがっこうではおげっしゃはもらってないの。ただしごぜんちゅうだけね。)

だからこの夏休み学校ではお月謝はもらってないの。ただし午前中だけね。

(がっこうのしゅくだいはおしえてあげない。ふだんはきめられたじかんにきめられたかもくを)

学校の宿題は教えてあげない。普段は決められた時間に決められた科目を

(べんきょうしてるこたちを、なつのあいだだけでもそのこのすきなかもく、)

勉強してる子たちを、夏のあいだだけでもその子の好きな科目、

(きょうみがあるかもくをすこしでものばしてあげられたらなぁって」)

興味がある科目を少しでも伸ばしてあげられたらなぁって」

(ゆびがつくえのもくめをなでる。)

指が机の木目を撫でる。

(「でもみんなきょうはおやすみなのよ」)

「でもみんな今日はお休みなのよ」

(そういってかおがすこしくもった。)

そう言って顔が少し曇った。

(「かぜがはやっているみたい」)

「風邪が流行っているみたい」

(そしてまどのそとにめをうつす。ぼくもつられてそちらをむく。)

そして窓の外に目を移す。僕も釣られてそちらを向く。

(「あなた、なんねんせい?どこのこ?ことばがちがうね」)

「あなた、何年生?どこの子?言葉が違うね」

(「え、あ」)

「え、あ」

(ぼくはちょっとどもってから、じぶんがろくねんせいであること、)

僕はちょっとどもってから、自分が六年生であること、

(そしてとおくからきてしんせきのいえにたいざいしていることをせつめいした。)

そして遠くからきて親戚の家に滞在していることを説明した。

(それからいえのなまえをいう。けれど、いってからそのきんじょは)

それから家の名前を言う。けれど、言ってからその近所は

(みんなおなじみょうじばかりだったことをおもいだして)

みんな同じ苗字ばかりだったことを思い出して

など

(「おっきないぶきのきがにわにあるいえです」とつけくわえた。)

「おっきなイブキの木が庭にある家です」と付け加えた。

(するとそのひとは「ああ、しげちゃんのところね」とうなずくのだった。)

するとその人は「ああ、シゲちゃんのところね」と頷くのだった。

(ぼくはなんだかわからないけどくやしくなり、くちをとがらせた。)

僕はなんだかわからないけど悔しくなり、口を尖らせた。

(そしてあのちんじゅのもりのさきにはなにもないといったしげちゃんのことばは、)

そしてあの鎮守の森の先にはなにもないと言ったシゲちゃんの言葉は、

(やっぱりわざとついたうそだったんだとおもった。)

やっぱりわざとついた嘘だったんだと思った。

(なぜって、そのひとはめがおおきくて、すらっとしていて、すこしおとなで、)

なぜって、その人は目が大きくて、すらっとしていて、少し大人で、

(それからはながらのしろいわんぴーすがにあう、ちょっとひみつにしたくなるような)

それから花柄の白いワンピースが似合う、ちょっと秘密にしたくなるような

(きれいなひとだったからだ。)

綺麗な人だったからだ。

(「このきょうしつがいちばんちゃんとしたかたちでのこってるから、いつもここでおしえてるのよ。)

「この教室が一番ちゃんとした形で残ってるから、いつもここで教えてるのよ。

(たんけんにきてまよったんでしょ。べんきょうしていきなさいよ。)

探検にきて迷ったんでしょ。勉強していきなさいよ。

(ね、だれもこなくて、わたしもたいくつしてたから」)

ね、誰もこなくて、私も退屈してたから」

(そうしてそのひとはぼくのせんせいになった。)

そうしてその人は僕の先生になった。

(きょうしつにはつくえはいつつ。ひとつはせんせいがすわるせき。さっきみたいに)

教室には机は五つ。一つは先生が座る席。さっきみたいに

(まどぎわでほおづえをつくためのせきだ。そしてのこりがなつやすみがっこうのせいとのかずだった。)

窓際で頬杖をつくための席だ。そして残りが夏休み学校の生徒の数だった。

(せんせいはわざわざほかのきょうしつからぼくのためのつくえといすをはこんできてくれた。)

先生はわざわざほかの教室から僕のための机と椅子を運んできてくれた。

(ごにんめのせいとね、といってわらったあと、このがっこうのさいごのそつぎょうせいのせきが)

五人目の生徒ね、と言って笑った後、この学校の最後の卒業生の席が

(そのままのこっているかとおもったことをはなすぼくに、ゆっくりとくびをふった。)

そのまま残っているかと思ったことを話す僕に、ゆっくりと首を振った。

(「さいごのそつぎょうせいはふたりだった。ひとりはわたし。)

「最後の卒業生は二人だった。一人は私。

(そつぎょうするのはさびしくてかなしかったけど、ちゅうがくせいになることはうれしかったし、)

卒業するのは寂しくて悲しかったけど、中学生になることは嬉しかったし、

(それからがっこうがなくなってしまうことがかなしかったな。)

それから学校がなくなってしまうことが悲しかったな。

(まいなす1ぷらす1まいなす1で、やっぱりかなしいほうがおおきかったきがする。)

マイナス1プラス1マイナス1で、やっぱり悲しい方が大きかった気がする。

(もうじゅうねんいじょうたつのね」)

もう十年以上経つのね」

(せんせいがめをすこしほそめるとひとみのなかのひかりのかげんがかわって、)

先生が目を少し細めると瞳の中の光の加減が変わって、

(ちょっぴりおとなっぽくみえた。)

ちょっぴり大人っぽく見えた。

(「さあ、なにをべんきょうしましょうか。なにがすき?」)

「さあ、なにを勉強しましょうか。なにが好き?」

(ぼくはかんがえた。)

僕は考えた。

(「さんすうがきらい」)

「算数が嫌い」

(せんせいはぼくのじょうだんにわらいもしないで「うん、それから?」といった。)

先生は僕の冗談に笑いもしないで「うん、それから?」と言った。

(「しゃかいとこくごとりかとかていかとずこうとおんがくがきらい」)

「社会と国語と理科と家庭科と図工と音楽が嫌い」

(ぼくがならべたひとつひとつにうなずいたあと、)

僕が並べた一つ一つに頷いたあと、

(せんせいは「よし、じゃあぴったりのがあるわ」とこくばんにむかった。)

先生は「よし、じゃあぴったりのがあるわ」と黒板に向かった。

(ちいさくてかわいいこくばんだ。ちょーくをひとつつまんで、きゅっとせんをひく。)

小さくてかわいい黒板だ。チョークを一つ摘んで、キュッと線を引く。

(「せかいよんだいぶんめい」)

「世界四大文明」

(そんなもじがならんだ。)

そんな文字が並んだ。

(せんせいのじはかっこよかった。いままでのどんなせんせいよりもかっこいいじだった。)

先生の字はカッコ良かった。今までのどんな先生よりもカッコいい字だった。

(だから、そのせかいよんだいぶんめいということばも、すごくかっこいいものにおもえて)

だから、その世界四大文明という言葉も、凄くカッコいいものに思えて

(なんだかわくわくしたのだった。)

なんだかワクワクしたのだった。

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