先生 後編 -7-

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師匠シリーズ
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問題文

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(じんじゃのさんどうのまえをとおる。いつもはとおりすぎるだけなのに、)

神社の参道の前を通る。いつもは通り過ぎるだけなのに、

(なぜかふらふらとはいってしまう。ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃと)

何故かふらふらと入ってしまう。ギャギャギャギャギャと

(とりのなきごえがどこからともなくひびく。)

鳥の鳴き声がどこからともなく響く。

(おさいせんばこにぽけっとにはいっていたじゅうえんたまをなげいれる。)

お賽銭箱にポケットに入っていた十円玉を投げ入れる。

(ちりんというおとがする。ぼくはてをあわせる。せんせいのかぜがよくなりますように。)

チリンという音がする。僕は手を合わせる。先生の風邪がよくなりますように。

(みんなのかぜがよくなりますように。そしてさんどうをもどる。)

みんなの風邪がよくなりますように。そして参道を戻る。

(とりいのしたをくぐる。そういえば、まえにとおったときにはくぐらなかったことを)

鳥居の下をくぐる。そういえば、前に通った時にはくぐらなかったことを

(おもいだす。なにかがあたまのなかをはしりぬける。じかんがとまったようなきがする。)

思い出す。なにかが頭の中を走り抜ける。時間が止まったような気がする。

(いや、ちがう。とまっていたじかんがいまうごきだしたのだ。)

いや、違う。止まっていた時間が今動き出したのだ。

(ぐるぐるまわるあたまをかかえてもりをぬけ、)

ぐるぐる回る頭を抱えて森を抜け、

(どうやってかえったのかよくおぼえていないけれど、)

どうやって帰ったのかよく覚えていないけれど、

(つぎにきがついたときにはいぶきのみえるにわにめんしたへやのなかで、)

次に気がついた時にはイブキの見える庭に面した部屋の中で、

(ぼくはふとんにはいりびっしょりとあせをかいてうんうんうなっていた。)

僕は布団に入りびっしょりと汗をかいてウンウン唸っていた。

(ねつがでて、ぼくはふつかかんよこになったままだった。ゆめとげんじつのさかいめが)

熱が出て、僕は二日間横になったままだった。夢と現実の境目が

(よくわからなかった。いろいろなものがあらしのようにかけぬけていった。)

よく分からなかった。色々なものが嵐のように駆け抜けて行った。

(ぬるくなったがくのぬれたおるをときどきだれかがかえてくれた。)

ぬるくなった額の濡れタオルを時々誰かが換えてくれた。

(それはおばさんだったようなきもするし、よっちゃんだったようなきもする。)

それはおばさんだったような気もするし、ヨッちゃんだったような気もする。

(せきはあんまりでなかった。ただはなみずがやたらにでた。)

席はあんまり出なかった。ただ鼻水がやたらに出た。

(はながみをそこらじゅうにちらかしてぼくはふうふういいつづけた。)

鼻紙をそこら中に散らかして僕はふうふう言い続けた。

(ようやくねつがひいたみっかめのあさ、)

ようやく熱が引いた三日目の朝、

など

(めをさましたぼくのとなりにしげちゃんがすわっていた。)

目を覚ました僕の隣にシゲちゃんが座っていた。

(「もうほとんどへいねつじゃ」といってぼくからたおるをとりあげる。)

「もうほとんど平熱じゃ」と言って僕からタオルを取り上げる。

(よこになったままもんくをいうぼくとなんどかかるくちをおうしゅうし、それからすっとだまった。)

横になったまま文句を言う僕と何度か軽口を応酬し、それからすっと黙った。

(そとはよいてんきのようだ。)

外は良い天気のようだ。

(かんがえると、このむらにいるあいだ、あめなんかほとんどふっていない。)

考えると、この村にいる間、雨なんかほとんど降っていない。

(ふとはたけのやさいはだいじょうぶだろうかとおもった。)

ふと畑の野菜は大丈夫だろうかと思った。

(やがてしげちゃんはけっしんしたようにとじていたくちをひらく。)

やがてシゲちゃんは決心したように閉じていた口を開く。

(そして、あのかおをかえたのはじぶんだといった。)

そして、あの顔を変えたのは自分だと言った。

(ぼくはしってたよという。おどろいたかお。)

僕は知ってたよと言う。驚いた顔。

(すべてはせんせいのすいりのとおりだった。)

すべては先生の推理の通りだった。

(しっぱいにもへこたれないしげちゃんがあんなにももときがなかったのは)

失敗にもへこたれないシゲちゃんがあんなにも元気がなかったのは

(じぶんのせいでともだちにおおけがをさせてしまったからだ。)

自分のせいで友だちに大怪我をさせてしまったからだ。

(だけどぼくもしらなかったことがひとつ。しげちゃんはじけんのよくじつ、)

だけど僕も知らなかったことが一つ。シゲちゃんは事件の翌日、

(かおにゅうどうのうえにはったもうひとつのかおをはがしたあとで、)

顔入道の上に貼ったもう一つの顔を剥がした後で、

(ひとりでとなりまちのびょういんまであるいていったのだそうだ。たろちゃんのおみまいだ。)

一人で隣町の病院まで歩いて行ったのだそうだ。タロちゃんのお見舞いだ。

(びょうしつのべっどでぐったりしていたたろちゃんは、)

病室のベッドでぐったりしていたタロちゃんは、

(もちろんしげちゃんのしざわだってことをもうわかっていて、)

もちろんシゲちゃんの仕業だってことをもう分かっていて、

(それでおこりもせずてれくさそうなかおをしてにがわらいをうかべた。)

それで怒りもせず照れくさそうな顔をして苦笑いを浮かべた。

(こしをぬかしてにげだしたなんてこと、はずかしいからだれにも)

腰を抜かして逃げ出したなんてこと、恥ずかしいから誰にも

(いわないでくれと、そういってあたまをかくのだった。)

言わないでくれと、そう言って頭を掻くのだった。

(だからしげちゃんはおとなになにをきかれてもだまっていかられているんだ。)

だからシゲちゃんは大人に何を聞かれても黙って怒られているんだ。

(ぼくはしげちゃんがもっとおこられるのがこわくてじぶんのしわざだということを)

僕はシゲちゃんがもっと怒られるのが怖くて自分の仕業だということを

(かくしているんだとおもっていた。)

隠しているんだと思っていた。

(いさぎよくせきにんをとることがおやぶんのあるべきすがただとおもってしつぼうをしかけていたのに、)

潔く責任を取ることが親分のあるべき姿だと思って失望を仕掛けていたのに、

(しげちゃんはたろちゃんのしんじょうをかんがえてさいしょからすべてをのみこんでいたのだ。)

シゲちゃんはタロちゃんの心情を考えて最初からすべてを飲み込んでいたのだ。

(やっぱりしげちゃんはりっぱなおやぶんだった。いたずらずきさえなければ、だけど。)

やっぱりシゲちゃんは立派な親分だった。イタズラ好きさえなければ、だけど。

(「せんせいってなだれのことじゃ」)

「先生ってな誰のことじゃ」

(とつぜんしげちゃんがそういった。ぼくがうわごとでくちにしたらしい。)

突然シゲちゃんがそう言った。僕がうわごとで口にしたらしい。

(しまった、とおもった。なにをくちばしったんだろう。)

しまった、と思った。なにを口走ったんだろう。

(そういえば、ねつをだしてるときにせんせいにあったようなきがする。)

そう言えば、熱を出してる時に先生に会ったような気がする。

(ここにいるはずがないのに。)

ここにいるはずがないのに。

(でもここにいるつもりになってせんせいにはなしかけてしまったかのかもしれない。)

でもここにいるつもりになって先生に話し掛けてしまったかのかも知れない。

(ああ。すべてにちえがまわるしげちゃんのことだ。)

ああ。すべてに知恵が回るシゲちゃんのことだ。

(へたないいのがれはよけいなやっかいをうむかもしれない。)

へたな言い逃れは余計なやっかいを生むかもしれない。

(ぼくはかんねんして、ちんじゅのもりのむこうのしゅうらくのこと、)

僕は観念して、鎮守の森の向こうの集落のこと、

(そしてなつやすみがっこうのことをはなした。)

そして夏休み学校のことを話した。

(じぶんでももう、こそこそするのはしおどきのようなきがしていた。)

自分でももう、コソコソするのは潮時のような気がしていた。

(はなしているうちに、きぶんがはれやかになっていくことにきづいた。)

話している内に、気分が晴れやかになっていくことに気づいた。

(こんなにもせんせいのことをだれかにはなしたかったんだ。じまんしたかったんだ。)

こんなにも先生のことを誰かに話したかったんだ。自慢したかったんだ。

(そうおもいながらしげちゃんのかおをみると、けげんそうなひょうじょうでくびをかしげている。)

そう思いながらシゲちゃんの顔を見ると、怪訝そうな表情で首を傾げている。

(「まだねつがあるようじゃ」)

「まだ熱があるようじゃ」

(しげちゃんは、ちんじゅのもりのむこうにはなにもない、といった。)

シゲちゃんは、鎮守の森の向こうには何もない、と言った。

(そして「ねとれ」とぼくにとりあげていたたおるをなげてよこし、)

そして「寝とれ」と僕に取り上げていたタオルを投げてよこし、

(へやからでていった。)

部屋から出て行った。

(ぼくはきつねにつままれたようなきになり、)

僕は狐につままれたような気になり、

(どうしてしげちゃんはうそをつくんだろうといらいらしながらまたねむりについた。)

どうしてシゲちゃんは嘘をつくんだろうとイライラしながらまた眠りについた。

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