箱根八里

(はこねのやまはてんかのけん)

箱根の山は天下の嶮

(かむこくくわんもものならず)

函谷關もものならず

(ばんぢやうのやませんじんのたに)

萬丈の山 千仞の谷

(まへにそびえしりへにささふ)

前に聳え 後方にささふ

(くもはやまをめぐりきりはたにをとざす)

雲は山を巡り 霧は谷を閉ざす

(ひるなほくらきすぎのなみき)

昼猶闇き杉の並木

(やうちやうのせうけいはこけなめらか)

羊腸の小徑は苔滑らか

(いつぷくわんにあたるやばんぷもひらくなし)

一夫關に当たるや萬夫も開くなし

(てんかにたびするがうきのもののふ)

天下に旅する剛氣の武士

(だいたうこしにあしだがけ)

大刀腰に足駄がけ

(はちりのいはねふみならす)

八里の碞根踏みならす

(かくこそありしかわうじのもののふ)

かくこそありしか 往時の武士

(はこねのやまはてんかのそ)

箱根の山は天下の岨

(しよくのさんだうかずならず)

蜀の棧道數ならず

(ばんぢやうのやませんじんのたに)

萬丈の山 千仞の谷

(まへにそびえしりへにささふ)

前に聳え 後方にささふ

(くもはやまをめぐりきりはたにをとざす)

雲は山を巡り霧は谷を閉ざす

(ひるなほくらきすぎのなみき)

昼猶闇き杉の並木

(やうちやうのせうけいはこけなめらか)

羊腸の小徑は苔滑らか

(いつぷくわんにあたるやばんぷもひらくなし)

一夫關に当たるや萬夫も開くなし

(さんやにかりするがうきのますらを)

山野に狩する剛毅のますらを

(れふじゆうかたにわらぢがけ)

獵銃肩に草鞋がけ

(はちりのいはねふみやぶる)

八里の碞根踏み破る

(かくこそありけれきんじのますらを)

かくこそありけれ 近時のますらを