とある長台詞打ち～新約９巻～

(あっさりまたいでいきやがった！ぜんぶあいつにうばわれた！！)

あっさりまたいでいきやがった！全部あいつに奪われた！！

(・・・・・・もうたたかいたくない。)

……もう戦いたくない。

(そんなかいぶつあいてにたちむかいたくない。)

そんな怪物相手に立ち向かいたくない。

(べつに、いつだってたたかいたくてたたかっていたわけじゃないんだ。)

別に、いつだって戦いたくて戦っていた訳じゃないんだ。

(ただ、めにつくところではいつもだれかがなみだをこらえていて)

ただ、目につく所ではいつも誰かが涙を堪えていて

(しぬほどつらいめにあってわんわんないたってだれももんくをいわないのに、)

死ぬほど辛い目に遭ってわんわん泣いたって誰も文句を言わないのに、

(そういうやつにかぎってずっとがまんしていて・・・・・・)

そういうヤツに限ってずっと我慢していて……

(そういうのがどうしてもゆるせなかった。)

そういうのがどうしても許せなかった。

(ばかみたいにこぶしにぎってかちゅうにとびこんで、)

馬鹿みたいに拳握って渦中に飛び込んで、

(どうにかこうにかじけんをかいけつして・・・・・・。)

どうにかこうにか事件を解決して……。

(かんしゃをされたかったわけじゃない。みかえりがほしかったなんておもってもない。)

感謝をされたかった訳じゃない。見返りが欲しかったなんて思ってもない。

(だけど、そうやってのりこえていくごとに、ひとのわはおおきくなっていった。)

だけど、そうやって乗り越えていくごとに、人の輪は大きくなっていった。

(ひとのつながりが、なんとなくこれにはいみがあることなんだってさっかくさせた！！)

人の繋がりが、何となくこれには意味がある事なんだって錯覚させた！！

(そのけっかがこれだ。おれはぜんぶうばわれた。)

その結果がこれだ。俺は全部奪われた。

(さいしょから、いみなんかなんにもなかったんだよ。)

最初から、意味なんか何にもなかったんだよ。

(そんなちっぽけなまぼろしのために、うしなわれたいのちがもどってきたなんて)

そんなちっぽけな幻のために、失われた命が戻って来たなんて

(かみさまのきせきみたいなじょうきょうをほうきするなんでぜったいにだめだ。)

神様の奇跡みたいな状況を放棄するなんで絶対に駄目だ。

(おれだって、もっとみんなとはしゃいでいたかったよ。)

俺だって、もっとみんなとはしゃいでいたかったよ。

(じぶんのおかれたじょうきょうが、)

自分の置かれた状況が、

(どれだけいごこちのいいものだったかなんて、)

どれだけ居心地の良いものだったかなんて、

(いまのいままでしろうともしなかった。)

今の今まで知ろうともしなかった。

(たとえばまだこれがけっかのでるまえのはなしで、)

例えばまだこれが結果の出る前の話で、

(おてぃぬすがこれからうしなわれたいのちをのこらずいきかえらせてやるなんて)

オティヌスがこれから失われた命を残らず生き返らせてやるなんて

(ていあんをされたら、)

提案をされたら、

(おれだっててきとうなきれいごとをならべてつっぱねたかもしれなかったよ。)

俺だって適当な綺麗事を並べて突っぱねたかもしれなかったよ。

(かれらのしにだっていみはあったとか、)

彼らの死にだって意味はあったとか、

(ひとのいのちはそんなかんたんにさゆうしていいものじゃないとか、)

人の命はそんな簡単に左右して良いものじゃないとか、

(びじれいくをならべてな！)

美辞麗句を並べてな！

(だけど、もうけっかはでているんだ。)

だけど、もう結果は出ているんだ。

(いまからすべてを「もとにもどす」ってことは、)

今から全てを『元に戻す』って事は、

(ここでなにもしらずにわらっているひとたちをもういちどじぶんのてでころすことと)

ここで何も知らずに笑っている人達をもう一度自分の手で殺す事と

(なんにもかわらないんだ！！)

何にも変わらないんだ！！

(いいか、どんなにいいわけをかさねたってこのじじつはなにもかわらない。)

良いか、どんなに言い訳を重ねたってこの事実は何も変わらない。

(おれが！おれがこのてでえらんだせんたくが！かれらをひとりのこらずころすんだよ！！)

俺が！俺がこの手で選んだ選択が！彼らを一人残らず殺すんだよ！！

(そんなの、もう、どうにもならないじゃないか。)

そんなの、もう、どうにもならないじゃないか。

(じけんもしゃっきんもしつれんもないせかいをとりあげてなんになる！？)

事件も借金も失恋もない世界を取り上げて何になる！?

(かりにおてぃぬすをたおして、すべてを「もとにもどして」、)

仮にオティヌスを倒して、全てを『元に戻して』、

(いきているはずのないにんげんをただしくきれいにさつりくしつくしたとして、)

生きているはずのない人間を正しく綺麗に殺戮し尽くしたとして、

(そのさきにおれがおもいうかべている、)

その先に俺が思い浮かべている、

(あのひあのときのせかいなんかまっているのか？)

あの日あの時の世界なんか待っているのか？

(おれはなにもしらずにいつものじかんをすごしているひとたちのまえで、)

俺は何も知らずにいつもの時間を過ごしている人達の前で、

(どんなかおをすればいいんだ。わらっていればいいのか。)

どんな顔をすれば良いんだ。笑っていれば良いのか。

(なにもしらないひとたちのまえで、すべてをしっているおれが、)

何も知らない人達の前で、全てを知っている俺が、

(なにもしらないていでばかみたいにわらっていればいいのかよ！！)

何も知らない体で馬鹿みたいに笑っていれば良いのかよ！！

(ふざけんな！！どのみち、もう、なんにものこらない。)

ふざけんな！！どのみち、もう、何にも残らない。

(おてぃぬすがかとうがまけようが、)

オティヌスが勝とうが負けようが、

(おれがいきようがしのうが「もと」なんかもどってこない！！)

俺が生きようが死のうが『元』なんか戻ってこない！！

(どこにころがってどんなふうにけつまつをむかえようが、)

どこに転がってどんなふうに結末を迎えようが、

(なんにしたってせいこうはしないんだ。)

何にしたって成功はしないんだ。

(どれをえらんだってしっぱいしかなくて、けっきょくはどこかにふまんがのこって、)

どれを選んだって失敗しかなくて、結局はどこかに不満が残って、

(やがてすべてはがかいしていく。)

やがて全ては瓦解していく。

(それだったらたたかういみなんかねえだろ！！)

それだったら戦う意味なんかねえだろ！！

(きせきみたいなじょうきょうをこわしてどうするんだよ！！)

奇跡みたいな状況を壊してどうするんだよ！！

(どっちにかたむいてもはめつしかないなら、)

どっちに傾いても破滅しかないなら、

(もうおてぃぬすのかちってことでいいだろ。)

もうオティヌスの勝ちって事でいいだろ。

(あとはすくわれたにんずうできめてしまえばいいだろう！！)

後は救われた人数で決めてしまえば良いだろう！！

(おれなんかじゃかなわないってことぐらいさいしょっからわかっているんだから！！)

俺なんかじゃ敵わないって事ぐらい最初っから分かっているんだから！！

(それいがいにいったいなにができるんだ。こんなっ、こんなの、)

それ以外に一体何ができるんだ。こんなっ、こんなの、

(ここまでやられてまえなんかいっぽでもすすめるわけがねえだろうが！！！！！！)

ここまでやられて前なんか一歩でも進める訳がねえだろうが！！！！！！